「中国問題」の核心 清水 美和 | So-Hot-Books (So-Hotな読書記録)

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書評と読書感想文の中間の読書日記。最近は中国で仕事をしているので、中国関連本とビジネス関連本が主体。

★★★☆☆(星3)


<My Opinion>


和諧路線を継承する後継者の擁立を目指した党内の主導権確立に失敗した現胡錦濤政権にスポットを当て、胡錦濤後の中国政治体制の変化、外交姿勢への影響等を論じている。中国共産党内部の派閥の捉え方は的確で喩えもとても分かりやすい。


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共産党指導部をあえて会社に喩えるならば、前社長の派閥が常務以上の多数派として居座り、現社長は自らの後継者を次期社長の座に就けることに失敗し、オーナー一族が次期社長含みで副社長になるという三派鼎立の構造になっている。(P158)
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本書に則ればつまりこういうことだ。呉邦国を中心とした旧江沢民グループ(上海派)が、江沢民前総書記の完全引退に伴って凋落も目立つものの、依然として党最高指導部の多数派が占めている。また胡錦濤現総書記を代表とする共産主義青年団(共青団)グループは李克強常務副首相を07年の党大会で後継者の地位につけることに失敗した。そして、習近平国家副主席をはじめとする革命元老を親に持つ「太子党」は、基幹産業で独占的な地位を保つ国有企業や、国有企業改革を通じて民主化された有力企業の大半を支配しており、経済的利益で結びついたネットワークを背景に成長が著しい。


胡錦濤は党内での影響力確保の為に徐々に軍への傾斜を強めている。国家主席となった03年3月の全人代で党と国家の中央軍事委員会主席に江沢民が留任し、自身が2年間軍事委員会副主席に押しとどめられ、国家主席であるにもかかわらず軍への介入を遠慮せざるを得なかった苦い経験をしている為だ。自身が国家主席を退いた後も軍を掌握していれば相当な党内で相当な影響力を行使できることを彼は身をもって知っている。院政を実行する為には中央軍事委員会主席に留任することが唯一の方法である。


本書によれば、胡錦濤は党や軍内に根強い、大国にふさわしい国際的地位や、アジア太平洋地域での米国との軍事バランスを求める声に譲歩せざるをなくなってきており、周辺国に対して外交上強攻路線を取ることや、アメリカに対する姿勢にも強硬的な場面が増えてきたという。胡錦濤は2012年後半に行われる習近平が国家主席となる党大会で、共青団の巻き返しをはかることができるか、軍を信頼できる権力基盤としながら和諧路線を継承させることができるのか、注目どころだ。著者も言っている通り、「鉄砲から国家権力が生まれる」という毛沢東の至言は、いまだに中国を呪縛している。


共産党内部派閥争いが、巧みな例えと共に平易に解説されているという点で良書とは思うも、タイトルはやや誇張であり、読者に誤解を与えるような気がする。「中国問題の核心」と言われると何か一般的には見過ごされているKey factorの存在を期待するが、共産党の政局争いの一般的解説に終始している。

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