眼下に誰かが横になっている。100メートル、10メートル、5メートル、上から下りてくる。妙に低い天井だ。身体は全く動かない。意識も朦朧としている。近くで誰かが囁いている。部屋は寒く暖房もない。かかっているのはおそらく布団で寝ているのはベッドだろうか…?とにかく横たわって仰向けになっている。
毎回ここから状況だけつかんで始まる。極度にストレスのたまっている時とかストレスがなくて極めてリラックス状態とかそんな時によくおこる。
仰向けに横たわっているのは最初だけでビジョンはすぐに切り替わる。いつも自分を見下ろしている自分がいる。眼下5メートル、10メートル、100メートル…そしてみえなくなる。
次に見えてくるのはおそらく数年前、相方の他界場面だった。私に相方ができたことを驚かなくてはいけないのだが。白い布が顔を隠しており、黒服の人たちが悲しい顔をしている。また眼下5メートル、10メートル、100メートル…そしてみえなくなる。
ビルの屋上に立っている。誰もいない。真っ暗で何も見えない。やけに長く感じる。5メートル、10メートル、100メートル…そしてみえなくなる。
どこかの会社で必死に汗水たらして働いている。時計がぐるぐるまわっている。来る日も来る日も仕事だった。5メートル、10メートル、100メートル…そしてみえなくなる。
大学の合格通知が家に届いた。喜び半分、敷かれたレールに一歩を踏み出す。高校卒業の写真がいつの間にか小学校入学の写真になっている。5メートル、10メートル、100メートル…そしてみえなくなる。
暗い、とてつもなく暗い。言葉も出ない、息をしていないのに呼吸ができる。壁一枚隔てて外の声が聞こえてくる。もうすぐですよお母さん頑張って!!男の人の声もする。暗い、とてつもなく暗い。壁数枚隔てて外の声が聞こえてくる。おなかがおおきくなってきましたね。
白い部屋のまん中に椅子が1つだけおいてあってそこに子供が座っている。黙ったまま1点だけを見つめている。
普通走馬灯ってのは今まで起きたことが年順に巡ってきて一生を終えるけど私が見たものは違うのです。途中から自分のものとは明らかに違う、だれかの走馬灯を逆順で辿るそんな体験なのです。しかも生まれる前の記憶って…白い部屋の体験なんかもちろんありませんし、おなかの中で私に意識があるのもどうなのかとか、考えると不安になります。