『忍術学園』の六年生がこの世界にやって来て早一週間。

 

 

 

六人にこの学園唯一の最上級生である依月から、初めての授業を受けていた。

 

 

「まず・・・君達の力を計りたい。」

 

「と言っても如何するの?言っちゃ悪いけど、僕達ここでは無力だよ?」

「知ってる、だからこれ。」

 

それぞれに手渡されたのは不思議な光を放つ球体だった。

 

 

「これに君達が念と思いを込めればいい、そうすれば式神が出てくるはずだ。」

 

「何でもいいのか!!」

「君にある思いならね。」

「出て来なければ如何なんだ?」

「その時は私が手助けする。」

「・・・もそ。」

「『ここの自分達はどんなのを出していたのか教えて欲しい。』だってさ。」

「聞こえてるから・・・関係ない、君達は君達・・・あいつらはあいつらだもの。」

「・・・すまない。」

「謝んないで、そうだな・・・一週間期間をあげる、それまでに私に出せた式神を見せて。」

「それだけか?」

「それだけ、君達は初歩の初歩から始めなきゃいけない・・・ゆっくりでいい、君達らしい式神を。」

 

それだけ言って依月は教室から出て行く。

 

ぴんと張り詰めていた空気が一瞬で霧散していくと、重いため息を吐いて文次郎が皮切りに話し始めた。

 

 

「と言われてもな。」

 

 

「ああ、なんであんなに無愛想なんだ?」

「今日も笑わないな!つまらん!!」

 

こちらの生徒はどこかよそよそしい、それどころか上級生はにこりとも笑わない・・・特に今さっきまで目の前にいた依月は表情すら動かさないのだ。

 

不承不承といった三人にそれまで黙っていた長次が何時もと同じように話し始めた。

 

 

「・・・似ているから。」

 

 

追打ちをかけるように伊作も話す。

 

 

「こっちの依月も僕達と一緒にいたんでしょ?六年間・・・それを目の前で殺されたんだから、折り合いつけるのも難しいんじゃないかな。」

 

「まだ日が浅いのもあるんだろう、あいつも思いつめてなければいいが・・・。」

 

そして沈黙が走る。

 

とりあえず具現化を実践しようと念を込めてみるも具現する事無く、その日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日も変わらない現状に苛立ちが募るのか、沈黙が流れる。

 

 

 

 

 

 

そんな空気をその場にいる六人は壊せず、ただ黙って念を込めていると引き戸が開かれた。

 

「・・・失礼します。」

 

「不破か?」

「そうですよ、依月先輩に言われて来ました・・・が何かお困りではありませんか?」

「念を込めろって言うんだけどさ、如何込めていいのかわかんないんだ。」

「・・・難しいんですよね、言葉で説明するのが。」

「力を込める訳じゃなし、そもこれは一体なんだ?」

「それは媒体の元になる珠で、僕もそうですが大体はこのように色が変化するんですよ。」

 

じゃらと袖口から取り出されたのは数珠で、琥珀色に近い色をしていた。

 

 

「へえ・・・こんな風になるんだ、じゃあさ不破も式神出せるの?」

 

「出せますよ、僕のは少し大きいので・・・そうですね、三郎なんかがいいですよ?」

「触れるのか!?」

「触れますけど・・・僕の式は術以外で使ったりは難しいんです。」

「そうか・・・。」

 

それきり雷蔵も口を閉ざしかけた所で再び来訪者がやって来た。

 

 

「失礼しまーす、雷蔵居ますかー?」
「尾浜か。」
「そうでーす、先輩方お怪我大丈夫です?」
「勘ちゃん如何したの?」
「うちの委員長さん知らないかなあって。」
「先輩まだお休みになってないの?」
「そう、いい加減に寝ろって言ってんのにね。」
「ちょ・・・尾浜なんて言ったの!?」
「何度言っても寝てくれないんですよ、俺たちが言っても駄目なんです。」
「もう何日もお休みになってる所を見てないんですよ。」

 

「・・・そうか。」
「なので、先輩を強制的に眠らせるためにこんなものを用意してきたんですけどね。」
「眠り薬かい?」
「まあそんなもんです。」

 

手をあげて降参の合図をしながら首を振る・・・あちらの勘右衛門も同じ様な仕草をよくしていた。

大抵、何か隠し事をしている時なのだがこちらの彼も変わらないのだろう。

 

「なあなあ尾浜もなんか出せるのか!!」
「ほんと、突然ですよね・・・出せますよ、おいで『りく』」

 


ぱっと何も無い所に顔を向けて式神の名前であろう名を呼ぶと、長い毛だが美しい毛並みを持った狼が姿を現した。

「わあ、可愛いねーりくって言うの?」
「もふもふだな!!」
「八がよく毛繕いしてくれるんですよ、可愛いでしょー?」
「親馬鹿ならぬ式神馬鹿だな。」
「えへへーでも一番可愛いのはやっぱり依月先輩のかな。」

「どんなこなの?」
「犬ですよ、それ以外だと俺みたいに狼とか三郎や雷蔵みたいに狐だったり兵助の猫だったり・・・八の梟ですかね。」
「そんなに出せるもんなのか?」
「まあ出せる人と出せない人が居ますけど・・・先輩方は前者でしたよ。」
「そうか・・・俺達の式神を見たことあるのか?」
「ありますけど、言いません。」
「それは何故だ?」
「単刀直入に聞かれますから答えますけど、依月さんの為に決まってるじゃありませんか。」
「依月の?」
「あの人が先輩方を重ねているからです、むしろそれ以外に何があると?」
「・・・そうだな、すまなかった。」
「謝らないで下さいよ、先輩方が悪いんじゃありませんし・・・先輩も色々お思いな事があるんだと思います。」
「気長に待ってあげて下さい、そろそろ俺捜しに行きます・・・お邪魔しました。」

 

りくを消して立ち去ろうとする勘右衛門に声がかかる。

 

 

「尾浜。」
「・・・なんですか?伊作先輩。」
「それは眠り薬じゃないだろう?こっちにしなさい。」
「・・・ほんと伊作先輩とそっくりだ、分かりましたこっち持ってきます。」

 

 


ぽんと手渡されたのを確認すると勘右衛門はそれを持って、今度こそ教室から出て行った。

「・・・不破、これの使い方はある程度理解した。」

「そうですか、じゃあ僕はこれで。」
「うん、ありがと・・・




























鉢屋、今度は本物の不破を連れてきてね。」

 

伊作から別の人物の名が紡がれる、それを小平太達が否定する。

 


「いさっくん何を言ってるんだ?」
「こいつは不破だろう?」
「いくら誤魔化そうが僕の目は誤魔化せないよ、小平太を騙せたのは流石と言えるけどね。」
「・・・本当面倒な人達だな、何時からです?」

温厚な雷蔵からどこか刺々しい雰囲気と目付きに変わる。

「割と早めに、かな・・・不和はもう少し目が柔らかい。」
「・・・善処します。」

そう言ってにやりと笑った狐は窓から去って行った。


三郎が去っていくとそれまで黙っていた仙蔵が口を開く。

「よく分かったな。」
「鉢屋だからこその目だったからね・・・あんな目で僕達を見ないから。」
「目?」
「死んだ目、僕らが良く見ていた目だよ。」
「あいつもそんな目すんのな・・・。」
「ここ最近そうですよ、級長の上級生は皆あんな感じです。」

 

ひょっこりと窓から顔を出したのはぼさぼさの髪を揺らしている八左エ門だった。

 

「今度は竹谷か、依月に言われて来たのか?」
「いいえ雷蔵に扮してた三郎から言われたんです、何かお困りかなと思いまして。」
「・・・念の込め方。」

 

 

ぼそり、依月から手渡された珠を差し出して長次は呟く様に言った。

 


「あー、ぐっとそこに凝縮するような感じです。」
「何だその感覚説明は。」
「何て言えばいいか難しいんですよ。」

 

ひらりと室内に入って来た八左エ門はがしがしと頭を掻いて苦笑する、そんな八左エ門に呑気な声が掛けられた。

 


「ねー竹谷、こんな感じでいいの?」
「意外と簡単だったんだが・・・これでいいのか?」
「はっ?え、は・・・はい、そんな感じです。」
「お前ら・・・もっと空気を呼んでだな。」
「でもこれ結構力いるねー。」

「聞けよ!!」

 

薄く光り、ふわふわと浮かび上がる珠を見ながら伊作と留三郎に指示がかかる。

 


「もっと肩の力を抜いても大丈夫ですよ、意思をそこに置くような意識で大丈夫です。」
「へえ・・・式神に姿をあげるのって如何するの?」
「先輩の心が反映されやすいですけど・・・こう『出してあげたい!』って思ったものなら結構何でも。」
「人型とか出来るのか?」
「出来ますけど・・・今のお力じゃ難しいでしょう。」
「力次第じゃ出来るのか。」
「ええ、勿論・・・俺が言えるのはここまでです。」
「そうか、感謝する・・・ありがとう。」
「お礼を言われる様な事じゃありませんよ、何かあればまたお呼び下さい。」

にっこりと人好きのする笑みで去っていく。

「竹谷やるなあ・・・。」
「ほんとにねー。」
「お前ら・・・もう形に出来たのか。」
「うん、特に何か思ってた訳じゃないんだけどね・・・。」
「それで、兎と・・・なんだそれは。」
「白と黒のしましまなんだねーもふもふしてる。」
「おい、長次曰くそれは『虎』という生き物らしいぞ。」
「虎・・・?なんだかひ弱そうだが?」
「言うな仙蔵、俺もそう思ってる。」
「留さーん、なんかもう一匹出てきたよ?」
「今度は何だ?」
「犬かなあ・・・もこもこなんだけど。」
「流石、六はのお二人ですね・・・もうお出しになったんですか?」

 

突如声を掛けられる。

 

声の主は兵助だった。

 

それを見て文次郎はため息を吐いて言った。

 


「五年は俺らのお目付け役か。」
「ご無礼を、雷蔵もいますよ。」
「こんにちわ先輩、でも二体目を出せるなんて流石ですね。」

「そんなに凄いの?」
「そうですね、割と力を使いますから。」
「六ははここでも実戦には強いと。」
「かも知れんな。」
「まさか、食満先輩も伊作先輩も同じ式を出すとは思いませんでしたが。」

無表情に兵助が答える。

「如何言う事だ?」
「そのままの意味ですよ、こちらの先輩とそっくり同じ式神なんです。」

「伊作先輩の二体目は犬ですよ、あとで八左を先輩の所に寄越します。」
「うん、お願いするね?」
「立花先輩達はまだ?」
「残念な事にな、いまいち感覚が掴めん。」
「意識をそこに集中させるような感じなんですけどね・・・。」
「意外と難しいんですよねー僕もそれで苦戦しました。」
「「大雑把だもんな。」」
「それ昔言われました。」

互いが苦笑を交えながら談笑を重ねていく。

「久々知は猫なんだっけ?」
「ええ、『りん』来い。」
「僕も呼んじゃお、おいでー『らい』」

ぽんっと音がした後、黒曜石の様な瞳を持った猫と二又に割れた黄金色の狐が鎮座していた。

「うわあ、可愛い!触ってもいい?」
「構いませんよ。」
「りんちゃんって言うの?おいでおいでー。」
「不破、出してもいいのか?」
「僕が攻撃を命じない限り何かしませんから大丈夫ですよ。」
「不破!!久々知!!すっごい可愛い!!」

ぱっと見れば伊作が具現化させた二体の式神と留三郎が具現させた式と雷蔵達の式神に埋もれる様に(ほぼ顔以外は見えないのだが)満面の笑みを浮かべている。

「・・・珍しい。」
「りんもらいも滅多に懐かないのに。」
「おい留三郎!お前のもあっち行ってるけどいいのか?」
「あー、大抵俺が懐かせたやつはあいつんとこ行くから気にしない。」
「なるほど!!本能的に分かってるんだな!!」

本能的に生きる小平太だからこその言葉なのだろう。

「・・・不破。」
「へ?あ!凄いです!!中在家先輩ちゃんと出せてますよ!!」
「鳩、ですか。」
「ふむ、何かコツは無いか?」
「・・・特には。」
「よくわからんぞ!!」

がしがし頭を掻き毟りながら、小平太が手にしていた珠がみしりと軋む。

「な、七松先輩!!力込め過ぎですよ!!」
「それ割れたら大変な事になるんですよ!?」
「だって良く込め方が分からないんだもん!それに依月も念を込めれば如何とか言ったけど全然分かんないし!!」

慌てた二人が小平太から珠を奪う。

「・・・?」

「如何した不破。」
「先輩方、珠を持って・・・護りたいものを思い浮かべて下さい。」
「それで如何にかなるのか?」
「ええなります、先輩方の思いが具現の力になりますから。」

小平太に再び珠を渡し、藍の二人は下がる。






「(護りたいもの・・・か。)」
「(ふん、依月らしいが・・・。)」
「いっけどーん!!」

三人が持つ珠が僅かに光り始める。

「やっぱり次元が違っても先輩達は変わらないな。」
「まさか、こんな・・・。」

雷蔵が呟ききる前に強い閃光が辺りを包む。





























「留さん?」
「大丈夫だ、目が痛いが・・・あいつらは大丈夫なのか?」
「・・・心配ない、無事だ。」
「いさっくん!!出来た!!私出せたよ!!」
「ごぶっ!?」
「伊作うううううううううううううううううううううううっ!!」
「先輩方ご無事ですか!?」
「大丈夫で・・・。」

不意に途切れた言葉を訝しく思っていると、呆然としている藍が目に映る。
そんな二人を余所に残りの二人も返答した。


「大丈夫だ。」
「そんな・・・。」
「先輩方、それ・・・。」

 

指差されたのは二人の傍に寄り添っている二体の式神だった。

 

藍の二人は声にならないようだと留三郎は仙蔵達に声を掛ける。


「おい、一応聴くがそれは何だ?」
「さあな、そも犬では無いのか?」
「いや、それ・・・如何見ても鼬(いたち)です。」
「潮江先輩は・・・鴉ですか。」

やっと二人も落ち着いたようで、それぞれの式の元になった動物を答える。

「もそ・・・。」
「長次が仙蔵の式はテン・・・それもスステンっていう鼬の仲間なんだって。」
「なあなあ私のはなんだ!?」
「え、っと・・・。」

ずいっと間近に寄られた兵助は隣の雷蔵に助けを求める。

「何で僕を見「不和は知っているのか!?」は、はい・・・アナグマです!!」
「小平太らしいと言っちゃ何だが、不破可哀想だから離れてやれ。」
「何でだ!?」

 

本人は不服そうだが何とか離れたのを確認して兵助達は息を吐く。

あまりにもぐだぐだとした雰囲気を壊したのは伊作だった。

 

「そう言えば皆名前つけてたよね、それには何か意味あるの?」
「彼らは僕達の相方になりますからね、名前が無いと不便ですし・・・。」
「名前で縛る必要がある訳です、真名とそれからあだ名みたいなものとで二つ。」
「そっか!りんちゃんもりくちゃんもそうだったんだね?」

 

「そうです、あだ名の方はまあ・・・知っておいた方が楽ですけど。」

「真名は誰にも知られちゃ駄目ですよ?」
「・・・それを呼ばれてしまえばその式の力を奪われる、或いは式自体を消されてしまうという見方でいいのか?」
「お察しの通りです中在家先輩。」
「流石生き字引でいらっしゃるだけありますね。」
「わかった名はそれぞれ決めればいいんだな?」
「そうです、ご理解がお早くて助かります。」

それぞれが一礼をして全員の顔を見回す。

「恐らくは期限が設けられていると思いますからそれまでに安定して式を出せるように訓練なさる事をお勧めします。」
「少しだけなら僕達もお手伝い出来ると思いますので、遠慮なく言って下さいね?」
「では、私達はこれで。」
「失礼しますね?」
「待って二人とも!」

 

再び一礼をして教室から出ようとすると伊作が呼び止めた。

 

「ありがとな!」
「お陰で助かった。」
「これからも頼むぞ?」
「もそ。」
「それからあいつの事を頼むな?」
「僕達じゃまだ無理だから。」

それぞれが二人に声を掛けると二人は困ったように笑って

「勿論です。」
「肝に銘じておきます。」

と言って出て行った。






































自室で依月は予算会議の書類を片手に式神に語りかけた。
その式神は小首を傾げ依月の背をじっと見つめる。

「どうしたの?」

 

 


「知ってるわ。」


「ほんと・・・あいつらみたい。」


「でも、いずれ彼らはいなくなる。」


「心なんて許さない。」


「あいつらの分まで私は強くなくちゃいけないの。」


「そのためなら・・・。」


「命を懸けたっていい。」


最後の書類に署名をして次の仕事に入る。



そんな姿を見て式神はただ、悲しげに依月の事を見ていた。