世間は私が思うよりも甘くはありませんが、あなたが思うよりも厳しくはありません。 -2ページ目

先程、ある女の子からメールを受け取り、

それを読んでいたら全く内容とは関係ないのに

修学旅行のことを思い出してしまいました。



結局わたしは三日間あの子と同室で眠りました。

部屋割りを決めた時の会話を振り返ると皮肉な結果になりました。

あの子はひどくわたしを嫌っていたのに、運命とは残酷なものです。


きっかけは一日目夜に、あの子と同室だった元クラスメイトが

こちらの部屋に逃げ込んできたことでした。


「もう嫌、無理!」


このまま三人で、という案にわたしたちは落ち着こうとしましたが

見回りの先生方は当然ながら許しませんでした。

まぁ、寝台が二つしかないのだから仕方がありません。


「誰でもいいから向こうの部屋に行きなさい」


元クラスメイトはまっすぐにわたしを見つめます。

目は口よりも雄弁に語りかけるのです。


「わかってるよね?なかまはずれはだぁれ?」



あの子はわたしが部屋についたとき、

蒲団をかぶっておやすみになっているようでした。

本当は泣いていて、それを見られたくなかったから……

そんなことも寝台の中で考えてみたのですが、

それはただの妄想ということにしておきました。

そうだとしても、かける言葉なんて持ち合わせていません。


二日目も何故かわたしがあの子の部屋で寝ることになっていて

三日目は予定通りあの子と同室。


ほんとうに運命は皮肉で残酷なものです。


昼間もほぼ一人で行動していましたが、

興味があって選択したコースだったので

有意義な時間を過ごすことができました。


自由に市街を探索する時間には

わたしと似たような境遇の他校の生徒と遭遇し

しばらく一緒に行動しました。


別れ際に連絡先の交換をしましたが、

わたしのことだからろくに連絡もせずこれきりになるだろうと

寂しく彼女の背中を見つめました。


後輩に悪趣味で軽蔑されそうなお土産を渡し、

わたしの修学旅行は終わりました。

何故か彼女は喜んでいましたが、まぁそれも良いことです。


先程、例の他校生から来たメールを読み返しながら

ひょっとしたら来年はいいことがあるかもしれない

なんて、ぼんやりと希望を抱くのでした。




あの子のシアワセはわたしのフシアワセ。


だってあの子は誰かを貶めてでもシアワセになりたがるから。


わたしのシアワセはあの子のフシアワセ?


いままでしてきたことが返ってきただけ、

可哀そうなんて思いません。


でも、そう考えた時点でわたしは

あの子と同じところに堕ちてしまっているのでしょうか。


相容れないのに似た者同士なんて皮肉ですね。


あの二人があの子と行動を共にしなくなったのは

とても冷たい雨が降った日でした。


「そこはわたしじゃないでしょって」

「なんのためにわざわざ声かけたんだって」

「標的ができると、絆が深まるってなんかで読んでさ」

「仕方ないから我慢するけどね、あんなのでも」

「一晩だけだもん大丈夫!」

「何されても気づかないよ、鈍いから」

「笑いかけてあげて少し優しくすればすぐ尻尾ふるよ」

雨が止んだ放課後の下足ホールできこえてしまった彼女の言葉は

絶え間なくわたしをさいなみました。



「最近ちょくちょくこっちのクラスに来るんだけどね」


中学時代あの子と三年間同じクラスだったがために

いろいろといやな思いをさせられたことを話してくれたときのような顔で

同じ部活の子が話してくれました。


「なんか、いきなり二人に責められて」

「やっぱりわたしもこっちのクラスになりたかった」

「他に話せる人がいないから仕方なく付き合ってただけなのに」

「でもさ、修学旅行前に普通あんなこと言う?」

「絶対狙ってたよ、なんか二人とも性格ねじまがってそうだもん」

二人が聞いたら激怒しそうな言葉です。

自然すぎるほどあの子の声で再生されました。


誰にでもあの子はそうなのだと少し心が晴れました。


やっぱりわたしはあの子が嫌いです。

好きじゃない、じゃなくて嫌いです。