うた | 津々浦々を徒然と行く。

津々浦々を徒然と行く。

まあ、色々と。色々と。

彼のお気に入りのベンチに腰掛け
陽光を遮るプラタナスの並木道を
ぼんやりと眺める







この席で彼は
いつもひとり静かに
使い古したパイプをくわえながら
「知」と会話をしていた

孤独を察した小鳥の歌に
微妙に口元を緩めながら
季節の移ろいを楽しんでいた

逡巡、
彼に声をかけようか迷うその瞬間に
彼の掌から するりと哲学が落ち
彼の命は春に溶けた

拾い上げ、眺める
彼の顔に映る穏やかな終焉は
涙をこぼすのに充分な理由だった








深く息を吸い
大袈裟に息を吐く
彼のお気に入りのベンチに腰掛け
陽光を遮るプラタナスの並木道を
ぼんやりと眺める

私の掌には哲学が溢れ
腰掛けるベンチから
ただ、ただ、静かに、密かに、
彼と、春の気配を感じていた