不安過ぎて足がすくむ。




不安過ぎて目の前が真っ暗になりそう。





仕事が手につかん。

妊娠してたらどうしよう。
いや、中絶しかないんだけどね。

来ると信じているしかないんだけどね。

何にしても産婦人科に行こう。



怖いなぁ。。

頭が痛い。


隣に住んでいる長谷川という男が

なぜ俺の部屋でくつろいでいる。。

しかも俺のベットに寝そべると言う遠慮のなさで。


「あ、俺お腹弱いから冷たいもの飲めないんだよね。

酒だったら大歓迎だけど。」

「いや、何も出さねぇから。」


意図が全く読めない。

むしろ意図などあるのだろうか。

口開けてヘラヘラ笑ってるし。

初対面でここまで卑下できる人間も珍しいな。

とか冷静に分析してる場合でもない。


「で、あんたは何しにきたわけ?」

「んー。お隣さんとのコミュニケーション?」

「・・・ほんとイラッとすんな。帰れ。」

「まーそんなに毛逆立てないでよ。

別にとって食べようなんて思ってるわけじゃないから。」


頭が痛い。

言葉が通じている気がしない。





こんな風に無遠慮に人のテリトリーに入ってくるやつは苦手だ。

誰にも干渉などされたくないし、したくもねぇ。

こういうやつに限って人の心を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して

しまいには勝手に幻滅して去っていく。

こんなはずじゃなかったと。




そんな思いをするのは二度とごめんだ。






「もう一度言う。帰れ。

俺は誰とも関わりたくない。」

「んー。じゃあ温かいお茶一杯飲んだら帰るよ。」

「あいにく茶があるよーな家じゃない。

とにかく帰れ。」

「えぇー!むむぅ・・・ケチ!

一緒にもみじ饅頭食べようと思ってたのに。」


・・・男が可愛こぶって口尖らしてんじゃねぇよ。


「ねぇ、じゃあ明日お茶もってまた来るから

一緒にお茶飲もうね。

もみじ饅頭って本当に緑茶が合うんだから。」



ニコニコ笑いながらでももみじ饅頭は俺の部屋において

そいつはとりあえず帰っていった。



明日も来るのか。。


胸に靄がかかる感覚を無視して

俺は今一度眠りについた。


ピンポーン―――――

ピンポーンピンポーン――
ピンポピンポピンポーン!!!

鳴らされ続けるチャイムの音に辟易する。しつこい。
寝不足の頭を抱えこめかみを押さえながら
いい加減に諦めろよと呟いてみるが、チャイムの主は容赦なく押し続ける。
思わず漏れた溜め息に追い立てられるように玄関の戸を開けた。

「おはよう。」

太陽の光りを反射した鮮やかな金髪が目に入る。

「まぶし…」

目の前のチャイムの主は眩しさに目を細めた俺が睨んでるとでも思ったのかオタオタした顔で二の句が繋げないでいる。
…あながち間違いでもないが。

「で、誰?」
「あ、えっと、隣の長谷川です。」
「はぁ。」
「その、怪しい者じゃなくて!!」

この状況下で言われても説得力があるわけがねぇ。
怪訝な顔をしたままの俺にそいつはまたオタオタし始めた。

「何て言うか。。あ、もみじ饅頭嫌い?」
「はぁ?」

いよいよ訳がわからない。
「つーか、あんたが何をしたいのかわかんねーんだけど。」
「ああ、そうだよね。」

そう言ってそいつは笑った。髪と同じように眩しい笑顔だった。

「それじゃあ立ち話もなんだからお邪魔しようかな。」
「はっ?」

唖然として固まっている俺を尻目にそいつはズカズカと部屋に入っていく。
その手には昨日ドアノブに掛けてあったもみじ饅頭が握られていた。
ヘッドフォンで耳を塞ぎ
外の喧騒から逃げをうつ
そんな毎日の繰り返し
何も感じてなどいなかった。
不満など微塵も感じていなかった。


「陽介、もう上がっていいぞ。」
「お先に失礼します。」
割が良いからと大学時代に深夜のバーテンダーのバイトを始めた。
三年の歳月が経った今もまだ続けている。
客に頼まれたものを無言で作り差し出すだけ。
煩わしい会話もないから性に合っている。と思う。
店からアパートまでは徒歩5分。
都心の中にまるで映画のセットが出現したのではないかと思わせるような
築何十年のボロアパートがひっそりと建っている。
とは言っても中はリフォームを繰り返しており見た目を裏切り意外に小綺麗だ。
寝るためだけにあるような場所だから俺にとってはどうでも良いが。


明日は講義のない日だから丸一日寝て過ごすかなどと堕落したことを考えながら鍵を差し込もうとするとノブにビニール袋がかかっていた。
「何だこれ。」
思わず声にだして呟くが返答があるわけもない。
書き置きのような紙もない。
ビニールの中の物体はもみじ饅頭とかかれた包装紙に綺麗に包まれていた。
恐らく広島の土産物のもみじ饅頭であることに間違いはないと思うが
大学に特に親しい友人が居るわけでもないし、むしろ俺の住み処を知る知人なんて一人もいやしない。
したがって不審なこのビニール袋を持って家に入るのは躊躇われた。
「まぁ冬だからこのままにして置いても当分は腐らねーか。」
と一人納得しドアを閉めた。


大学も四年の後期に差し掛かり講義はほとんどなくなった。
卒業までのカウントダウンが始まっているが俺は卒業後の進路を決めあぐねていた。
就職などせずにこのままバーで働いていけば良いとさえ思っていた。
場に溶け込むスーツを着て満員電車に揉まれ他人に頭を下げる毎日なんて馬鹿馬鹿しい。
学費を出してくれていた親に申し訳ない気持ちは多少あるが、このままで良い。この堕落した生活の中で誰にも知られずに朽ち果ててしまおう―――

煙草を揉み消しベッドに潜り込む。
明日もバイトはある。
余計なことを考える前に寝てしまおう。
一日のお家の滞在時間が3/1以下ってスゲーな!
リアルにこんな生活が続くなら一人暮らしを検討してしまうよ。。