(微かにR15くらいな感じです。ご注意下さい。)





雪小路野ばら、22歳、AB型。
彼女の生活は規則正しい。
彼女の朝は早い。
毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝る。
…そう、数ヶ月前までは。



目が覚めると、すでにカーテンから漏れる陽光で部屋は明るかった。
時計を見ると九時をさしていて、野ばらは少し慌てて起き上がった。
自分がこんなに寝坊をするなんて、普段なら考えられない話だ。

ベッドの下に落ちていたシャツを羽織り、ベッドから出ようとすると、くい、とシャツの裾を引かれた。
驚いて振り向けば、眠たげな目でこちらを見る反ノ塚である。

「…野ばらちゃん、起きるの…?」
「当たり前じゃない、もう九時よ?」

そう言って歩きだそうとした瞬間、体が突然後ろに引っ張られ、気付いた時には反ノ塚の腕に閉じ込められていた。

「ちょっと、反ノ塚」
「…連勝」
「は?」

ぎゅう、と後ろから体を抱きしめる手に優しく力がこもる。

「連勝、って呼んで。昨日みたいに」

顔を首筋に埋めた彼の唇が昨日彼によってつけられた赤い痕に当たる。生温かい吐息がくすぐったい。

身をよじると逃げられると思ったのか先程よりも強く抱きしめられた。

「…連勝」

昨日みたいに、なんて、情事を思い出させるような事を言わないでほしい。

半ば面倒くささでそう呼んでみると、突然体の向きを変えられた。つまり彼と向かい合う形になった。
そのまま額に唇が落とされる。

「野ばら」

ふ、とわらった顔があまりにも穏やかで、ああ、と思う。

百鬼夜行が終わって数ヶ月が経った。

犬神は命を落とし、思紋様も後を追うように亡くなった。

私達は無事全員生き残り、もう一つの未来から逃れた。

平穏が戻ったものの、夏目から聞いてしまったもう一つの未来を忘れられるはずもなく。

もし、もう一つの未来と同じ結果だったなら。
もし、これが夢で、本当はみんな死んでしまっていたら。

そんなことを思うこともたまにある。
その度誰かの声を、姿を、体温を感じて安心を取り戻していた。

今の反ノ塚もきっと一緒だ。
ましてや彼は、もう一つの未来ではただ一人生き残っていたのである。

その孤独は、先に逝ってしまった私達にはわからない。
そしてまた彼も、私達の悲しみがわからない。

先に逝ってしまう者の悲しみ。
もう自分は大切な人たちのために動けないという辛さ。

でも。
でも、もう終わったのだ。
百鬼夜行は終わった。

犬神の残した爪痕は深いけれど、いつかは癒える。

いや、癒やすのだ。
自分が。
彼が。
みんなが。
互いを互いに癒し合い、生きていけばいい。

みんないつかは私や反ノ塚のように妖館から去っていくけれど、きっとそれだけで離れる私達じゃない。

そして、きっと遠くない未来で、もう一つの未来とは違う集い方をしよう。
みんなで誰かの子供を囲んで、最近あった面白い話をして、みんなで笑い合おう。

そんな日が来るのは、きっともうすぐだ。

そんなことを思いながら、野ばらもまた、反ノ塚に負けないくらいの穏やかな笑みを浮かべた。





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初投稿にして事後です。
いや別に年齢制限かけるほどではないけども。

壮絶な戦いの後の二人に、ささやかな平穏があればいいと思うのです。