僕は高校卒業から埋没生活をしている。
治療開始前からの埋没生活は、
通称名とか性別表記の交渉を大学の事務所に何度もしたり、
手術のダウンタイムを誤魔化すために周りに嘘を重ねたり、
他にもしんどいことたくさんあったけれど、
それ以上に、”ただの男性”でいれることが何よりも嬉しかった。
この11年間、情報収集のために参加したセクシャルマイノリティの集まりは別として、
僕がちゃんと自分の意志でカミングアウトした相手は2人だけだ。
どちらに伝えるときも、ものすごく緊張した。
カミングアウトを決めたときから食欲がなくなり、吐き気がするほどに。
誰かに伝えるたびに思うけれど、
たぶん重い雰囲気にしてしまっているのは自分自身で、
笑顔で何事もないように伝えられたら、
きっと相手も気まずい思いをしなくて済むんだろうなと思う。
だけど、やっぱりカミングアウトはこわい。
男性と認識してくれている人に「トランス男性なんだ」と告白することで、
相手の中で僕への認識が”ただの男性”ではなくなってしまうと思うから。
僕のまわりの男性の友人は、中性的な顔の子も、身長が低い子も、柔らかい話し方の子も、料理が得意な子も、なんなら可愛いもの好きな子もいる。
だからこそ、今の僕のすべてはひとりの男性の”個性”として捉えられてきた。
だけどカミングアウトによって、僕の見た目や、性格や、好き嫌いや、その他の全てが、
”やっぱりこういうところが女の子だね”って、”元女性”というところに紐づけられてしまう気がする。
”中性的な男の子”から、”女の子だった男の子”に変わってしまう気がする。
僕にとっては、それが怖くて怖くて仕方がない。
そんなことになるくらいなら、死んだほうがマシだとさえ思う。
それに、今までの苦しさとか辛さを乗り越えられたつもりでいても、
自分のことを話そうとすると、未だに言葉よりも先に涙が出そうになる。
喉まで出かかっている言葉が詰まって、吐き気がして、手が震える。
きっと多分、誰よりも偏見を持っているのは自分自身なんだろうな。
いつまで経っても、この部分は変わることはないんだろう。
でも、だから、カミングアウトはできるだけしたくない。
トランスジェンダーである事実を、できるだけ誰にも知られたくない。
今までの過去の苦労なんて、誰にも知られなくて良い。
未だに気まずく思う話題や状況も、なんの配慮もされなくて良い。
僕はただ、ひとりでも多くの人の中で、ただの男性であり続けたいだけ。