ライフ・イズ・ミラクル
監督/脚本/製作/音楽:エミール・クストリッツァ
出演:スラブコ・スティマチ(ルカ)、ナターシャ・ソラック(サバーハ)、ヴク・コスティッチ(ミロシュ)
まさにタイトルそのままの映画です。
大きな声で「人生は奇跡だ!」と叫びたくなるような。
人生よりも面白い物語など存在しないのだという、監督の気持ちがぎゅうぎゅうに詰まっています。
物語は1990年代初めのボスニアが舞台です。豊かな自然の中で人々は未来への希望や音楽と共に、人生を謳歌しています。
ルカ、サバーハはもちろん、皆生き生きとしていて魅力たっぷりです。
「戦争はどこかの誰かのもの」
劇中に登場する言葉のとおり、ルカはひたすら家族と愛する人のために奔走します。
すぐそばで砲撃が起こっているのに、息子にシチューを食べさせるために家を離れないのです。
ロバも犬も猫もルカのそばから離れません。
そして、サバーハも。
ルカに怒られ、置いて行かれても、探します。そしてルカもそれを分かっているかのように道しるべを残して、二人の楽園へとサバーハを導きます。
見方によっては、息子と同じくらいの年齢の娘に入れ込んで、軍にも逆らって逃避行なんて、「オイオイいい加減にしろよ」な話になってしまうかもしれません。
でも、そうならないのはルカの誠実さと賢さと正直さによるのでしょう。
いつもルカは迷います。
しかしそのときに一番大切だと感じたモノを掴んで、信じているモノに向き合います。
この映画はミラクルの繰り返しですが、ラストはとっても大きなミラクルをロバが運んできてくれます。
でもそのミラクルは神様によって起こったわけではなく、ルカが自分で起こしたのだと私は思いました。
アダプテーション
観れば観るほどはまります。
凝った脚本に対して、「バラバラのパズルが最後にひとつにまとまるような」という評価はよく聞きますが、この作品は「観るごとに新しいパズルが生まれていくような」ですね。
その面白さがくせになってしまいます。
現在『蘭に魅せられた男』の脚本を執筆中のチャーリーの時間軸と3年前のスーザン&ジョンの時間軸とが並行して話は進むのですが、チャーリーの妄想とチャーリーの双子の弟ドナルド、脚本中に登場させてしまった自身とドナルドの脚本のせいで、現実とフィクションが交錯して行きます。
執筆中の脚本のアイディアが作品の冒頭の映像だったり、ボイスレコーダーに録音した言葉をタイプしている姿がタイプされている文章そのものだったりと、現実とフィクションのラインが観客自身にも曖昧になる罠があちこちに仕掛けられています。
ドナルド自体もチャーリーの妄想なのではないかなどと考え出してしまう始末。
見る側によって異なるストーリー、テーマを作り出せてしまいそうな作品です。
何人かで観て、各々の解釈を肴に盛り上がるのも楽しそうですね。
でも非人間的・非現実的なストーリーと凝った構成の奥にはちゃんとニッコリできる(簡単にはできないかな)大団円が待っています。
現実の世界は思ったよりも波乱に満ちているし、きれいごとばかりではない。でもちょっとがんばって踏み出せば素敵な時間は誰にでも待っているし、愛されたければまずは愛することができなきゃだめ。
お気に入りの小説のように、時々観返したくなる作品です。
(観るたびにまたひとつ発見が増えそうですもの。)
リンダリンダリンダ
大好きな山下敦弘監督の新作です。
急遽舞台挨拶決定ということもあり20日(土)に名古屋シネマテークにて観てきました。
(監督とも少しお話できました。感激!!)
ふぃ~、面白かった。
まずペ・ドゥナさんが最高です。
『ほえる犬は噛まない』での黄色のパーカーをかぶった姿に匹敵するかわいさでした。
マイペースなキャラが実にはまりますね。多分20代半ばなのに制服姿も似合う似合う。
(写真ではないですが↓)
他の3人もとても生き生きと描かれているんですけど、チラっと見えるプライベートとか家族の姿とかがそれぞれの性格を自然に演出してくれるから、気付かないうちに3人の性格とか関係とか理解してしまいます。
しかもちゃんと笑いも心得ているからすごい。
次から次に登場する弟とか、腕立て伏せするお兄ちゃんとか、劇場内でもクスクス笑いが起こってました。
山下監督の作品でずっと評価され続けている「間」も確実に進化してますね。
作品全体の味にあった「間」になっているというか、『リアリズムの宿』あたりから加わってきた「テンポ」が「間」と一体となって作品の色が変わってきています。
時折挿入される、校舎と校舎の間とか下駄箱から続く廊下とか、ちょっと懐かしい感じがする学校の風景がとても印象的でした。
現役高校生とかが見ると今の自己と結びつくんだろうけど、昔通り過ぎた景色として受け止めることもできるこれらの風景のおかげで、この映画が一層自分の気持ちに密接になりました。
憧れとか理想とかじゃなく、この映画はとても自分に近いところにいる傑作だと思います。
亀は意外と速く泳ぐ
最近「脱力系」って言葉をよく見聞きします。
映画、特に日本映画で「脱力系○○○」って流行ってますよね。
個人的にはまたかって印象なんですが、この映画は見事な「脱力系コメディ映画の傑作」です。
観ていると身も心もゆるーい感じになってきます。
映画館で観てるのに、家のお気に入りのソファでリラックスしているような気分になってきて、ふいに襲ってくるギャグに思わず「クッ」と笑ってしまう。
これはちょっと初めての体験でした。
「異業種監督」って言葉も見聞きするようになって久しいですが、こちらについても個人的には最近否定的だったんです。
新しい映画のスタイルとしては面白いのですが、劇場で観るという従来の型に当てはめる作品ではないかなと。
でもこの作品は私が求める映画の形になっていました。
コント的なギャグの応酬では終わらずそれがしっかり伏線になっていて、ストーリーがわき道にそれるようでそれない。
メッセージがきちんと届きます。
役者さん達もバラエティに富んでいてとっても豪華なんですが、適材適所で無駄がないためキチンと完結します。
スズメのお父さん役の岡本信人さんがホームランでしたね。地味なのに存在感ありすぎ。
上野樹里ちゃんの魅力もゆるーく発揮されてて大満足でした。
『スウィングガールズ』よりもNHKで放送されていた『てるてる家族』に近いかな。
脱力系バラエティの好きな人、日常を描いた作品の好きな人、女の子ムービーの好きな人(蒼井優ちゃんもかわいい!!)におすすめです。あと『茶の味』が好きな人にも。
『イン・ザ・プール』のDVD発売が待ち遠しい~(見逃したのです。)
STAR WARS エピソード3 シスの復讐
盛り上がりました!
映画を観ることそのものをこんなに楽しんだのは久しぶりです。
前日の夜からエピソード1&2を観て、テンションがあがりきったところでエピソード3に突入。
そして映画のテンションも高い高い。冒頭からそのスピード感と派手さにクラクラしてしまいました。
ユアン・マクレガーのオビ=ワン・ケノービは非常に好みです。熟練と計算ずくなのか?と思ってしまうようなうっかりさとが母性本能をくすぐります。ユアンでないとこの味は出せないでしょうね。
そのオビ=ワンを敬愛しているのに嫉妬してしまう、パドメを愛しながらも自分の力に対する欲求が抑えられないアナキン。
ダースベイダー誕生までの切なく哀しいアナキンの避けられない運命に涙が思わずこぼれました。
美しく清いものが醜く強靭なものに勝つまではすでにエピソード4から6にて観ているのですが、そのことの偉大さをエピソード3は改めて教えてくれます。絶望と希望、死と生が絡み合い物語は進むのです。
エピソード7以降は創らないとルーカス監督は発言されていますが、ファンの中では永久に終わることのない物語として生き続けるのでしょう。
私もそのひとりです。
ヘアスタイル
ショートショートフィルムフェスティバル行って来ましたよー
って言っても旅行と重なってしまったため、初日の『ヘアスタイル』のみですが。
(ガエル・ガルシア・ベルナル君のは東京にて一足お先に拝見済みです。)
おさげ編に出演している山本浩司さんが大好きなのですが(ほんと爆笑です)、
浅見れいなさんもかわいかった・・・
ご本人もいらしてましたが、とても自然体のさらっとした方ですね。
おさげ・アフロ・マッシュルームの3通りのヘアスタイルの女の子を浅見れいなさんが3役演じているのですが、
ビジュアルとストーリーと役柄がちゃんとマッチしててとても楽しめました。
どの子も普通のキャラではないのですが、
女の子も男の子もかわいいって思うんじゃないでしょうか。
オープニングもさすがのかっこよさでしたし。ショッキング系色彩の嵐。
山本浩司さんびいきとしてはおさげ編を押したいのですが、
マッシュルーム編の企みがやっぱり一番面白かったかな。
そうそう、今月号のinvitationに山本浩司さんバーンッと載ってますね。
さすがinvitation・・・
ミリオンダラー・ベイビー
冬頃から待ち望んでいたはずの作品にも関わらず、公開から随分経ての鑑賞となってしまいました。
しかも既定の公開期間ではなく、郊外のシネコンで特別続映(モーニングショー)されているものに駆け込みセーフです。
しかし見逃さなくてよかったと心底思いました。早起きしてよかった(涙)
男女・師弟・親子を越えた愛情という言葉では片付けられない世界が、そこには描かれていました。
日頃、私たちが楽しいと思っている楽しさなんて、微塵もこの世界にはありませんでした。
生きるために働いて、自分を確かめるためにボクシングをする。
少しでも、今までの自分をこれからの自分のために肯定できるように、そして、明日を迎えられるように。
そんな二人がつかの間に手に入れた幸せな時は、観ていて涙がこぼれました。
後半、物語は急転します。
私の友人は後半はいらなかったと言いました。受け止められないと。
確かに辛く、重い運命と結末です。
人生の幸福は皆に平等にあるべきじゃないのかと、神に問いたくなります。
せっかく掴んだ幸福をなぜそんなに簡単に奪えるのかと。
でもこれしかなかったのではないかと私は思ってしまうのです。
静かに二人を見守ってきたスクラップの言葉によりフランキーは決心をします。
マギーと築いた愛を肯定するために。
迷いなく話すスクラップの言葉が忘れられません。彼は二人のことを心にしまってこれからも生きて行くのです。
私はそんな強さをいつか持てるのだろうか、そんな人生を送れるのだろうかと思います。
最後ですが、アイリッシュアメリカン、ゲール語に関する知識を持って観ることをお勧めします。
イーストウッドとミリオンダラー・ベイビーに刻まれたシワをより深く理解できるのではないでしょうか。
肌の隙間(記念すべき第1号)
ずっと観たかった作品がやっと名古屋でも公開されました。
繰り返される『水』の描写や『トマト』の赤い色があからさまにも関わらず、透明感があって自然と惹きこまれました。
瀬々監督の作品は画面に出てくる色(青空とか白い雲とか)がいつも鮮やかで、痛みを伴うテーマが多いのに不思議と観終わったあとは爽快な気持ちになります。
特にこの作品はそれが強く表れていたように思います。
どこだか分からない田舎町の風景、山中の川辺、森の木々、石造りの浴室、二人だけの世界で描かれるこれらの背景は濡れたような輝きを放っていました。
ただ、不思議と温度は感じないのです。でもそこに侵入者が現れると急に景色は色あせ、いやな体温が一瞬にして伝わってきます。
生きるための術が一切分からない二人。そして、二人が逃げ込んだ先は早朝の東京。
行きかう車は2人のことに気づかず(それとも無視しているのか)通り過ぎます。
ラストの解釈は様々だと思いますが、私は東京の街のグレーに魅せられました。





