価値観が目まぐるしく流転する昨今、
若手を育成する立場の先輩たちの苦労は並み大抵でない。
本著『活の入れ方』はプロ野球の名監督で鳴らした工藤公康、
相撲界のベテラン親方の九重龍二の二氏と司会役の藤平信一・
心身統一合気道会長による鼎談でこの難事に切り込んで行く。
この顔ぶれに共通するのは、いずれも「鬼の指導者」に鍛えられたこと。
工藤は広岡さんにシーズンオフに1日100mダッシュ100本、
九重は1日1000回の四股を踏まされた。
それだけに、工藤は「選手ファーストと言われても、
何でも選手の言い分を聞き入れることでない。
時には選手の意向に反し、嫌われても、その選手にとって何が最善なのか、
選手の未来を見据えて行動するのが監督の努め」と言い切る。
もちろん、2人とも時代の変化は見逃さない。
九重は「四股なんて踏んで、相撲が強くなるんですか」と
歯向かう頭でっかち力士もいることを明かしながらも、
彼らの自主性を重んじ、部屋の雰囲気醸成を任す。
その一方で、力士が部屋の階段の昇り降りがが楽なようにと、
階段1段の高さを低くする心配りものぞかせ、彼らを感服させる。
そして、親方や監督が彼らをコントロールするのでなく、
人間として育って行くのを見守るのが役目とも。
分かりやすい良い本。