クレジットカードすらつくれない貧しい個人に対する金融サービスであるマイクロクレジットを考案してノーベル平和賞を受賞したバングラデシュ人のムハマド・ユヌスが日本にやってきたとき、ぼくは日本にいた。
本国ではcontroversialだが、世界では一般に受け容れられるようになった、この貧困に苦しむ人間達のための巧妙な金融システムをつくりあげた偉大なひとの講演と質疑応答を聴きに、
ぼくはフランス人やエチオピア人たち、あるいは当のバングラデシュ人たちと一緒にでかけていった。
こみあげてくる敬意のために声が上ずっているようなアメリカ人の記者や、
ソーシャルビジネスという概念そのものがうちに孕んでいる本質的な矛盾に対しての疑念についてイギリス人の記者がかなり執拗に質問したあと、
日本人の記者が立ったが、このひとは、少し酔っているようにも見えた。
質問は「アメリカのイラク戦争をどうおもいますか?」
という頓珍漢もいいところの質問で、
当惑と怒りの感情で明然と顔をそむける外国人記者たちや、
顔を真っ赤にして記者をにらみつけながら
顔をかぶりをふっている見るからに上流階級出身のイギリス人のおばちゃん、…
満場がどよめくぐらい酷い質問だった。
一瞬で、やや高い、良い種類の緊張があった会場の空気がこわれて腐っていった。
この日本を代表する新聞社の記者のひとは、さすがに会場の空気を察したのでしょう、
「やべー、ちょっとやばかったな、へっへっへ」というようなひとりごとを言いながらぼくの後ろを通っていったが、
そのときの腰を屈めて、
「いやちょっと洒落っ気をだしすぎちゃったよ、ガイジンさんたちはシャレがわからないからまいった、まいった、」
と同僚らしい人に述べた、
その言葉付きの卑しさをいまでも身震いするような気持ちで思い出す。
その酷い質疑がきっかけで、日本のマスメディアについていろいろ調べてみたが、
この特別に選良意識が強い人間で出来ている職業集団が、
日本の最も深刻な病巣であることに気が付くまで、
あまり時間がかからなかった。
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