その日は激しく雨が降っていた。
私の所属しているサッカー部は、県大会の予選を控えていたので、本来ならば中止になるはずの練習を体育館で行おうとしていた。
他の部員と共に体育館へ移動し、一角を借りてパス練習をすることになった。
体育館を見渡してみると、バレー部とバスケ部が練習を行っている。
ん? バスケ部? ということは……
パス練習をしながらバスケ部の方を注視した。すると──
「次はシュートの練習いくよー!」
居たぁ! M田先生だ!
絶賛指導中のM田先生を発見を発見したその瞬間、なぜか妙な胸騒ぎがした。
暫くパス練習をしていると、M田先生が腕組みをしながらこちらを見ていることに気づいた。
なんだ? サッカー部がダラダラと練習していることを気にしているのだろうか?
「サッカー部!」
M田先生が大きな声で叫んだ瞬間、全員ボールを蹴る足を止めた。
ゆっくり近づいてくるM田先生は手招きして、「集合、整列!」と、全員を横一列に並ばせた。
腕組みしながら険しい表情でサッカー部員を見渡すM田先生は、右端の部員の前に立った。
「体操服は?」
「……え?」
「なんで体操服着てないの?」
私の小学校は部活動に参加する際、基本的に体操服を着なければならない。
だが、そこはオシャレ意識の高いサッカー部員。ほぼ全員がプーマやアディダス等のジャージ姿だったのだ。
M田先生は質問に答えられず、沈黙している部員に対して、「……ジャージ」と呟いた。
パァン!
体育館に響き渡る破裂音。
M田先生は部員にビンタを張った。
うおおおおお!
M田先生のビンタ、キター!
M田先生は左に移動して、部員の前に立ち、「……ジャージ」と、呟いた後、再びビンタを張った。
マジか! 二人連続でビンタ!
更にM田先生は横へスライドし、「体操服」と呟くと、体操服を着用している部員にはビンタをせずに横へスライドした。
え? もしかしてコレって……
そう、私はこのシステムに気づいた。
横一列に並ばされている生徒は20名、その中でジャージを着用している生徒にはビンタの制裁。体操服を着用している生徒はお咎め無し、というシステムなのだ。
つまり、つまり! これはM田先生のビンタをゲットする千載一遇の大チャンス!
私はこの事実に歓喜し、そして狂喜乱舞した(無論、脳内で)。
M田先生は左にスライドしながらジャージの部員にビンタを張り続けている。
そしてついに、私の番が来た。
私は勿論ジャージ姿(プーマ)、つまりビンタ確定だ!
夢にまで見たM田先生のビンタが現実に。私は数多の生徒をビシバシ張ってきたM田先生の手のひらに視線を集中させた。
ほどよく肉づいた柔らかそうな手のひら……この手のひらが間もなく、私の頬に張りつくのだ。
心臓が高鳴る。
血脇、肉踊る。
そしてついに、その時はやってきた。
「……体操服」
は?
私は下を向いた。
うわああああ──────! 体操服の短パン履いてる────!
なんということだ。
他の部員がジャージor体操服の二択だというのに、私は上着ジャージ+体操服短パンというハイブリッド。
M田先生は振り上げようとした右手を下げ始めた。
ちょ!
ちょっと待って!
上着ジャージです!
上着、ジャージなんです!
私のバカ! なんでこんな中途半端な格好をしてんだよ!
心の中で猛烈に嘆く私。するとM田先生は視線を上に向け、「……ジャージ?」と、呟いた。
そう!
ジャージです!
上着はジャージなんですっ!
だから!
だからビンタなんです!
迷っている。
M田先生は迷っておられる。
『短パンは体操服だからビンタは無しか?』
『上着はジャージだからビンタか?』
と。
迷うことはありません!
比率からしても7:3で圧倒的にジャージが上回っています!
なので私はビンタの対象にあたります!
M田先生の身体の重心は左へスライドしかけている。
体操服と認識⁉
ビンタ無し⁉
グギャアアアアアと、阿鼻叫喚しかけたその時、M田先生の右手が開いた。
そこからクイックモーションで──
パァン!
おお……うおおおおお!
ビンタゲットォ!
左頬に広がる刺激──
かくして、私はギリギリのところでジャージと判断され、憧れのM田先生のビンタを堪能することが出来た。
続く
※当ブログはnoteで掲載中のビンタ研究レポートの転載となります。他のレポートをお読みになりたい方はこちらからどうぞ。