！注意！
当、創作妄想２次小説（シナリオ）を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
《ダーリンは芸能人》創作・妄想小説長編（ＪＡＤＥサイド）
『花音-Kanon- ～番外編・いままでも、そしてこれからもずっと～』
ユミカさんの四十九日が過ぎたある日―――。
子どもたちが学校へ行った後、春は私を仕事部屋へと呼んだ。
新しい仕事の話かと思い、二人分のコーヒーをトレイに乗せて、ドアをノックして声を掛ける。
「春？ 入るよ？？」
『……ああ』
ほんの少しだけ遅れて返ってきた、中からの返事を聞いてそっとドアを開ける。
春は窓近くの壁にもたれて立ち、外を眺めていた。
その姿は本当に何度見ても見惚れるほどのカッコよさで、年甲斐もなくいつも心がときめいてしまう。
―――だけど、今日の春は何かが少し違っている気がする。
「……春…？」
恐る恐る声を掛けると、春はゆっくりと私のほうを向く。
いつもと違って不安を煽るような切ない表情を浮かべていて…。
そして、その表情を苦しそうなものに変え、机の上にあった一通の封筒を差し出した。
私は持っていたトレイをテーブルに置き、その封筒を受け取る。
「私に？ これ、なに？」
「……」
尋ねても返事はなかった。
ふと春を見ると、何かを堪えるような表情で視線を下げている。
「……？」
不思議に思いながらも封筒を開けると―――そこには、『離婚届』が入っていた。
しかも、『夫』の部分は全て記入されていて―――。
「え…っ……、なに、これ…っ……！！」
突然のことに私の頭は一瞬で真っ白になる。
―――どうして！？
―――春は私と別れたがってたの？いつから？？
全身から血の気が引き、背中を冷たい汗が流れる。
心臓の鼓動が苦しくなるほど胸を打ちつけ、手足は震えて立っているのがやっとだった。
頭の中は「なぜ？」という言葉しか浮かばないほど混乱していてパニック状態に陥る。
「ねぇ、春、これはどういうことなの？
いつから私がイヤになったの？ 私が邪魔なの？？
―――ねぇ、春、答えて……！！！」
感情のままに春に縋りついて矢継ぎ早に質問を浴びせる。
―――昨夜だってあんなに愛してくれたのに、ワケがわからないよ……！！
その時、昨夜の春を思い出した。
とてもツラそうな、そして悲しそうな表情。
そして、いつもより激しい愛撫。
その理由を聞く間もなく、春が与えてくれる快感に私はもう何も考えられなくなっていたけれど―――。
「ゆうべ、何か変だなって一瞬思ったの。
だけどまさかこんなもの用意してたなんて思いもしなかった。
春は私と一緒にいることすらイヤになったの！？
私と別れたかったのならどうして昨夜―――！！」
叫ぶように言った時、春の手が私の両腕を掴んだ。
そして、これまでにないほど険しい表情を見せて春は言う。
「キミと別れたいはずないだろう…！？
ずっと大切に思ってきた。 これからも、ずっとオレが守りたかった。
だが―――」
「じゃあ、どうして！
こんなもの突然渡されて、理由もわからないまま『はい、わかりました』なんて言えるわけないでしょう！？
理由を言って！ 私と別れたくないって言うんならこんなもの用意した理由を教えてよ！！」
私は激昂したまま、春の言葉を遮る。
すると春は私の腕を掴んでいた手を離して口を開いた。
「………ユミカさんが亡くなったいま、キミはもう―――」
そこまで言って、春は哀しそうな表情で言い淀む。
その続きは聞かなくても春が何を言いたいのかわかった。
長年一緒にいるのは伊達じゃないもの。
その刹那、パニックだった思考回路は一瞬にして平常に戻る。
頭に上っていた血が一気に下がっていく。
私は小さくため息をつき、「春、あのね…」とナイショ話をするかのように口に手をあてて彼を呼ぶ。
そして、不思議そうな表情をして屈んできた春の頬を両手で挟むようにバチン！と叩いた。
「……！」
突然のことに驚いている春の頬を両方の手のひらで包んだまま引き寄せ、鼻先が触れ合うくらいの至近距離で私は言った。
「もー、なんでそんなこと言うかなー。
私が花音に全てを話したこと、聞いてた？
私が春に初めて『愛してる』って言った時のこと、覚えてる？？」
「……紫葵…」
「私と秋羅さんを引き離したって、まだ思ってるの？ 春はまだ、間違った後悔をし続けてたの？」
「間違った…後悔………」
「そう！
あのね、春。 私の中にはもう、秋羅さんへの気持ちはひとかけらもないの。
ひとしずくもないの！
花音に言ったように、春に『愛してる』って初めて言ったあの瞬間、本当に全て消えてなくなったの」
「紫葵……」
春は切ない表情で私の名前を呼んだ。
たぶん、きっと、春の心の中にはまだ、私に強引に結婚を迫ったという間違った認識があるがゆえの後悔があるのだろう。
普通では考えられない始まり方であることは確かだ。
だけど、春はけして強引じゃなかった。
それよりも、私の方がもっとズルかった。
打算で春の想いを利用したのだ。
でも、そんな始まり方でも、いまではその時を忘れてしまうくらい私は―――。
「初めて抱かれた時よりもずっと、結婚した時よりもずっと、花音を産んだ時よりもずっと、樹を産んだ時よりもずっと、ずっとずっとずーっと、いまの私は春を愛してるの！」
「……」
「時間が経てば経つほど、春への想いは強くなっていってるの。
過去よりも今よりも、きっと未来のほうが春への想いは強くなってるって、断言できる」
そして私は春の頬においた手のひらを滑らせて、その頭を胸に抱き寄せる。
「だけど、春が不安になったときは何度だって言うね？
―――春、愛してる…誰よりも。 これからもずっと、私と一緒にいて―――」
そう言うと、春は私を抱きすくめた。
強く、もう離さないとでもいうように―――。
その思いが伝わってきて、私の心は幸福感で満たされていく。
「―――あ。 でも」
その場の雰囲気がガラリと変わるような口調で私は声を上げる。
これはいつものクセで、照れ隠しの一つ。
その瞬間、春の強く抱きしめる力が少し緩んだ。
「…？」
「春に私以上に好きな人が出来て、私を誰かのところに追っ払いたいって言うんなら別だ…―――っ！！」
最後まで言い切らないうちに、春がキスで言葉を塞いで。
そして私をお姫様抱っこする。
「は、春…？」
「―――二人とも今日は遅いんだったな」
そう言いながら寝室のドアを開け、私をベッドに横たえる。
春が片膝をついて上がり、私に覆いかぶさってきて。
そして、キスの合間に愛の言葉を囁かれ……。
「キミ以上に愛する人なんているわけがない。 そして、これからも現れることはない。
キミはオレにとってただ一人の―――」
最後の言葉は二人のキスの中で混ざり合う。
まだ残る暑さに負けないほどの熱さで私を蹂躙する春。
その熱に浮かされたように、私の甘く濡れた声は寝室を満たしていく。
春から与えられる優しい嵐は、いつも以上に私を翻弄し続けるのだった―――。
～ end ～