森の中を三日三晩歩き続けると、わたしは真夜中の遊園地にたどりついた。
なぜか電飾がちゃんと点いていて、とても幻想的だった。
「おうい、誰か、いませんかあ!」

返事が無いので、わたしは観覧車に乗ってまわりのようすをうかがうことにした。
遊園地はとてもひろい。どこかに人がいないかな、わたしはゴンドラの窓に顔を押し付けそこらを見渡す。
ローラーコースターは無人で動いているし、湖に浮かぶボートにも人影はない。
がっかりしてため息をつくと、むこうでキラキラ光りながらまわるメリーゴーランドに人影が見えた。
それも…たくさん!

「おーい!」
わたしは喜んで彼らのもとへ駆け出した。
わたしがそこに着くとメリーゴーランドは停止した。
「やぁ。君も乗るかい」
白馬に乗ったサラリーマン風のおじさんが言った。
「どうして、みんなメリーゴーランドに乗っているの」
わたしが尋ねると彼はこう答えた。
「前に進みたいわけでもなし、かといって後戻りもできない。同じ場所をくるくるまわっている…君にもわかるだろ、この気持ちが」

わからない。
人生はメリーゴーランドなんかじゃない。どちらかと言えば、レコードプレイヤーだ。
始まりがあって、終わりがある。

わたしが首を横にふると、おじさんは悲しそうな顔をした。
そしてまたメリーゴーランドは動き出した。
メリーゴーランドには、疲れた顔をしたおばさんや、青白い青年、ミイラのようにしわしわのおじいさん(いや、おばあさんだったかもしれない)が乗っていた。

わたしは遊園地をあとにした。
何日眠り続けたのだろう。
わたしの部屋のカーテン越しに見える、柔らかく燃えるような空は、朝焼けか夕焼けか…それすらもわからない。

とりあえずわたしは渇きを癒すために、蛇口に口をつけ水をがぶ飲みした。
そのときわたしは目眩を覚えた。
(蛇口と、わたしの口…。蛇の口…。)

こんな夢を見た。
わたしは砂漠を歩いている。水はおろか、衣服すら身につけていない。
全身が焼けて死んでしまいそうだ…それに、砂で目が痛くてほとんど開かない。
体力の限界で砂の上に倒れ込むと、生ぬるい風とともに、女が現れた。
「あら…」
女がそう言ったように聞こえた。
「み、水をください…。」
女はしゃがみこんだ。わたしのぼんやりした視界の大半を女のかげが支配した。
次の瞬間、唇にひんやりとした何かが触れた。これは、女の唇だ…。
そして女の唇からわたしの唇へと水がつたってくる。
驚いて痛む目を見開くと、この女の頭…蛇だ。
「ふ、ふ…蛇の口、から水……か」
わたしがそう呟くと、蛇女はこう返した。
「あなたは、そろそろ、帰りなさい。あなたのアパートにも、蛇口はあるもの」そして砂漠の真ん中でわたしは眠りに落ちた。いや、目を覚ましたのだろうか。

とりあえず、前回水道代を払ってから1ヶ月経ってはいないことがわかった。
ぱた…ぱた…と、蛇口から乾いたステンレスに水滴が落ちる音がしている。