8回裏リカオンズの攻撃。
この回、ルコは耳を澄ました。
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「ドンドンドンドン、ドーンドーンドーン、ドンドンドンドン。」
・・・・・・・・・
「ドンドンドンドン、ドドーンドドーン、ドンドンドンドン。」
・・・・・・・・・
「ドンドンドンドン、ドッドッドッ、ドンドンドンドン。」
・・・・・・・・・
〈やはりそうだ。監督がサインを出すごとにガラリアンズの応援団の太鼓の音調が変わっている。〉
ルコは確信した。
そう、ガラリアンズの選手たちに読み取ったサインを伝えていたのはなんとガラリアンズの応援団だったのだ。伝える媒介が音であれば、選手たちは視線を変える必要もないし、常に音が出ていてそれが変化すればそれにすぐ気付くこともできる。ルコはおそらく伝達手段が音であろうことは早い段階から感づいていたのだ。これでイカサマの謎はすべて解けたのであった。
「ああっ!」
ルコに快感が走る。その余韻を邪魔したのはやはりマトンであった。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「うるさいっ!!!」
そう言ってルコは通信機の電源を切った。
2対2のまま迎えた9回裏。たっちゃんがサヨナラホームランを打ち、2対3でリカオンズ勝利で試合は幕を閉じた。
たっちゃんがルコの方を見ると、ルコは輝かしい笑顔でVサインを送った。その姿はまるで本当の女神のようであった。問題が解決したのだとたっちゃんは悟った。と同時に、その笑顔を見て、たっちゃんはルコに惚れてしまった。
(ちなみにルコお嬢様の美貌は笑顔でなくとも凄まじく、笑顔なんかになったらさらに凄まじいのである。もはや落ちない男はいないくらいである。)
ヒーローインタビューでたっちゃんは、ルコの方を向き、
「ルコさ~ん、俺にとっての女神は君です。君のことが好きだ~、結婚してくれ~」
と叫んだ。
(これは大真面目で、決して冗談ではない。そこ笑わない。プププ。)
「ごめんなさい。私には結婚を誓った人がいるの。」
そう言ってルコは丁重にお断りした。
問題が解決した割に、たっちゃんの顔色は冴えなかった。
(振られたばっかりなので当然だろう。)
たっちゃんは、ルコに会うとまずお礼を言った。
「本当にありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ中々楽しかったです。それでこの件はどう処理するおつもりなのですか?何かお手伝いすることはありますか?」
「この件はガラリアンズに掛け合って隠密に処理するつもりです。野球界の問題にして騒ぎを大きくすると野球界も大変になるので・・・。」
「そうですか。では私の仕事はここまでです。あとは頑張ってください。」
「はい、本当にありがとうございました。どんなお礼をしたらいいものか・・・。」
「あの・・・、では一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「はい、何でもどうそ。」
「たっちゃんはアクセサリー集めが趣味のようですね!?」
(ルコはたっちゃんのことを調べていたのだ。依頼人のことを調べるのは正義を目指す探偵として当然である。)
「そうですが・・・、何か?」
「あの、このアクセサリーについてご存じありませんか?」
と言ってルコは例の男の子とのアクセサリーの写真をたっちゃんに見せた。
「これは見たことあります。数年前の福岡ドームでの試合のときです。中高生くらいの子がサインを求めてきたときにその子がつけてて、俺も気に入っちゃって、どこで手に入れたのか聞いたんです。そしたら、もらったものでかなり大切なものだと言ってました。どうしても欲しくて、雑誌やネットなどで調べたんですけど、どこにもなかったんです。」
「これオリジナルなものなんですよ。」
「なるほど、やはりオリジナルなものでしたか。」
「私、その男の子を探しているんです。名前聞きましたか?顔は覚えていますか?」
「ごめんなさい、顔も名前もわからないです。」
「いえ、でも福岡で会ったかもしれないというのは有力な情報です。ありがとうございます。」
「いいえ、こちらこそ。」
こうして、ルコは球場を後にし、マトンと屋敷に戻った。少しでも例の男の子に近づけた気がしてルコは嬉しくなった。
「お嬢様、お疲れ様です。」
「マトン少しこちらに寄りなさい。」
「はい、何でしょうか?お嬢様。」
マトンを呼び寄せると、ルコはマトンに思い切りビンタを喰らわせた。
「な、何するんですか?お嬢様。」
マトンは痛さで半泣き状態である。
「あなたが助手としてまだまだだから1発活を入れたのよ。次はもっと役に立ちなさい。」
(役に立つというのは気を遣うということである。仕事振りに関してはマトンはよくやっていたにはちがいないのだ。)
「すみません、お嬢様。以後気をつけます。」
こうして今回の依頼は無事に解決したのであった。
(第1話 完 )