ブログを引っ越したので、そういえばUPしてなかった学パラをサルベージ。
コレより前はサイトにアップしてあります。当然のようにサンルです。
学パラ・6
【右手】
握り締められた右手が、異様に熱い。
耳元に響く呼吸が、やけに大きく聞こえる。
あまりにすぐ後ろにいるから、体温まで伝わってくる。
どうしよう。
体が、まったく動かない。
「お前、さ」
ビクッと体が震える。
声が、息が、耳の中から浸入してくるみたいでぞわぞわした。
「何ほかの男と、おれのこと見に来ちゃってるの」
「べ、別に見にいっ」
「誰、あいつ」
おれの言うことなんて、まったく聞く気がないみたいだ。
わけがわからない。
コイツはどうしてそんなこと聞くんだ。おれはどうして、こんなに頭がぐるぐるしてるんだ。
「友達、だよッ」
空いていたほうの手で、密着してくる体を振り払おうとした。
力いっぱいその体を突き飛ばした。・・・つもりだった。
それを、つながった右手が許さなかった。
倒れるそいつと一緒に、おれも倒れこんだ。
激しく本棚にぶつかって、本がばらばらとふってくる。
そのうちの一冊が、ごとんとおれの頭の上に落ちてきた。
「いってー」
思わず頭を抑えようとした、が、手が挙がらない。
気がついて、ぎょっとした。こいつ、まだ手を握ってやがる。
立ち上がろうとしてもうまくいかない。
おれはぐる眉の上に倒れこんだまま、起き上がることもできなかった。
「もういい加減手を・・・」
「うるせェ」
目が合った瞬間、ぐっとあごをつかまれた。
そのまま引き寄せられる。
眼鏡の向こうの青い目がじっとおれを見ていた。
「い、って。離ッ」
「黙れよ、クソガキ」
夜の暗い海のような青い目。その冷たい視線にとらわれて、言葉が告げなくなってしまう。
何だよ。
全然意味わかんねェよ。
悲鳴上げさせるようなことしたのはそっちじゃんか。
ぐっとにらんでやると、その金色の髪に月明かりがさしていることに気がつく。
前髪の一本一本がぱらぱらと見えるくらいの距離。
青い目にとらわれたまま、何もいえない。起き上がることもできない。
コイツと体の重なった部分がひどく熱いし。
握り締められた手と、つかまれた顎がぎりぎりと痛い。
・・・痛いのに。そこから伝わる温度を、ぬくもりさえと感じてる。
「お前」
顎をつかまれたまま、勢いよく引き寄せられた。
ただでさえ近かった距離が、ぐっと縮まる。
呼吸が、混ざり合いそうになるくらいに。
「もう2度とくんなよ」
「ッ」
心臓の音がどく、と波打った。
ぐるぐる眉毛の目がぎゅっと細められ、その口の端が笑う。
「今度あの男と一緒に来たら、許さねェ」
かさかさと乾いた、吐息みたいな声でそういうと、顎をつかんだその手をやっと放した。
「・・・手」
それでもまだ繋がってる、最初につかまれた右手。
「離してくれないと、立てな」
「返事は?」
またおれの言葉をさえぎって、生徒会長様は人をくったような微笑を浮かべた。
「ッ」
なんだよ。
返事なんかしねェ。
手を放さないって言うなら、噛み付いてでも・・・
「わ、かった」
なぜか勝手に言葉が出た。
なんてことだ。
おれだけ一人あせってると、ぐいっと手を引き寄せられた。
「明日も来いよ、図書室」
「なっ」
「来いよ?」
言うなり、ドンと突き飛ばされた。本棚に強く背中を打ちつけ、呼吸が詰まる。
ごほごほと咳き込むおれを尻目に、さっさと立ち上がるとそのまま歩き出していく。
「なんだよ!おれは絶対・・・」
行かねーからな!
そう叫んだつもりだった。けど、胸が詰まってうまくいえなかった。
背中を強く打ったせいだ。あいつ、容赦なくおれを突き飛ばしやがったから。
本に埋もれたまま、ぼんやりと宙を見上げた。
あいつの髪の色みたいな月が出ている。
汗ばんだ右手が、妙に冷たい。