電話をした。
あの時のことを、今までのことを聞く時が来た。
覚悟を決めたはずなのに、直前になってやっぱり怖気付いてしまった。
これで本当にこの関係が終わったらどうしよう。
二度と会えなくなったらどうしよう。
そう考えたらとても怖かった。
でもだめだ。
ちゃんと聞くって決めたんだ。
私はちゃんとあの人に向き合いたい。
どこか傲慢で、臆病で、優しかったこの関係の名前を知りたい。
だから。
携帯を持つ手が震えた。
しばらく言葉が見つからなかったけど、絞り出した。
「私たちの関係って、何ですか?」
あの人は少し黙った。
そして「ん〜、」と小さく唸った。
私は続けた。
「先輩後輩でしょうか」
あの人はまた少し間を空けたあと、
「そうだね」
と言った。
胸が、少し痛んだ。
あの人は「でも、」と続けた。
「はっきりとは言えん。
ただの先輩後輩ではないと俺は思っとる。
友だちに近いのかな」
ともだち。
この4文字が頭の中を駆け抜けた。
「友だちみたいに仲が良い先輩後輩ってことですか?」
「うん、多分それに近い。
でもはっきりとは言えん」
そっか。そういうことか。
私は仲が良い友だちみたいな存在だったんだ。
腑に落ちた。
でもすごく胸が苦しくなった。
うん、そうなんだね。
苦しくなったと同時に、今なら何でも言える気がした。
だから私は続けた。
「この前の行動に、少しびっくりしてしまって」
「俺の?」
「はい」
油断したら泣きそうだ。
もうちょっと頑張るんだ。
「あれは海外の影響なんですか?」
海外の影響だけだったら、すごく嫌だ。
相手が私じゃなくても、きっと誰にでもするってことだから。
それは嫌だ。
だから、違うと言って。
あの人は笑った。
「違うよ」
「え、」と小さく声が漏れてしまった。
今、違うって。
あの人は続けた。
「確かにあっちの影響がないことはないけど、誰彼構わずする訳やない。
あれは相手がお前だったから。
仲が良いお前だったからだよ。
嫌いな人とか関心が無い人になんてしないよ」
馬鹿。
本当にどこまでもあなたはずるい。
直前に友だちって言ったのに。
ここではちょっと特別感出してくるんですね。
本当にずるい。
私が何も言えないことわかってるんだ。
思わず笑ってしまった。
仲が良い後輩。
仲が良い友だち。
それだけじゃなくてきっと、物分りが良い後輩とも思ってるんでしょう?
遠回しに恋愛感情ではないことを伝えられ、
友だちだと言われ、
特別だと諭された。
そっか。
あなたはこの曖昧な関係を続けていくことにしたんですね。
『友だちみたいに仲が良い先輩後輩の関係』を。
「そうですか、わかりました」
ありがとう。
なら私もどうすれば良いかわかる。
「じゃあ、これからもよろしくお願いしますね。
友だちみたいな先輩」
笑えただろうか。
ちゃんと、言えただろうか。
私の決意を聞いてくれましたか?
すると、あなたはまた笑ったんだ。
「当たり前だろ。
よろしくな、友だちみたいな後輩」
涙を堪えながら、「はい」と返した。
結果的に、私たちは『友だちみたいに仲が良い先輩後輩』という関係になった。
あの人の中では、もともとそうだったのかもしれないけれど。
まだ少し曖昧さは残っているけれど、とりあえず名前というか、大体の形がわかって良かった。
今は正直、ショックというダメージが強い。
あの人の中での私という存在は、きっとその立ち位置から動くことはないのだから。
でもきっと大丈夫。
もう座り込み続けることはない。
ちゃんと立ち上がれる。歩き出せる。
少し休憩したら、また進むから。
これで色んな人とやっと向き合える。
私には大切な人がいます。
恋人。親友。
そして、友だちみたいに仲が良い先輩。
これからは、今まで以上に甘えると決めました。
先輩後輩らしく、友だちらしく、そして私たちらしく、また腕でも組もっと。
ありがとう。そしてさようなら。
私の大切な大切な恋心。