その日、女は男とエレベーターで会ってから自分の様子に気付き自分を気にかけた男のことが頭から離れなかった。仕事も手につかずいたわ。


男もまた女のことがたまらなく心配だったのね…

5時過ぎ仕事から帰る女を男は会社から少し離れたとこでつかまえたわ

女はまた驚いて
小さな声で
『もう関わらないでって言ったでしょ…誰が見てるかわからない…その手を放して!』

けど男は放さなかったわ…
誰が見てるとか男の中ではもうどうでもよかったのね
男は腕を掴んだまま無言で歩き出しタクシーを拾ったわ。
そして向かった先は男の家
動き出すタクシーの中、女は血相を変え
『…どういうつもり!?私もう帰らなきゃっあの人に殺される!』
ハッとした
男は重い口を開き
「やっぱり…旦那の仕業だったんだ…」
そういうと拒む女の肩を引き寄せた

しばらくすると女もまた、男に触れ最初は震えてたものの、安心感からそのまま身を委ねたわ
夫に暴力を受け精神的肉体的に支えてもらう柱が必要だったのね

女はクリスマス悪夢の日を境に来ることのなかった男の部屋に上がったわ

男は女に温かいコーヒーを入れ話したの
「…あの日以来、君を想わない日なんてなかった…どうにもできないもどかしさで苛立ちも感じてたし…Kとも一緒に過ごした」

『…何言ってるの…。あなたは自由の身。誰と一緒に過ごしてもいい身なんだから…それにKとあなたは似合ってる…うん。素敵な恋人同士じゃない』
女は男に微笑みかけ、Kと男が共に過ごしただろうベッドに視線をおいた。

「…オレの事はいいから…君はずっと旦那に暴力を振るわれてたんだろ!?」

『…』

「…ごめん…ごめん…」

『だから…謝らないでってば…夫がキレたのは私の行動の問題よ…あなたには本当に迷惑かけたくないの。仕事も辞める…もう会わないほうがいい…でも…』

『私だってずっとあなたが…あなたの本心が気になってた!自分を好きだと言ってくれた言葉が嘘偽りだったのかって…一瞬でも思いあえてた時間が…それだけが…』
口を挟むように男は女にキスをしたわ
力強く抱きしめ合う二人…お互いの気持ちがもうそこに表れてたわ…

男は女の服を脱がすと更に目立つアザを見て唇を噛み締め顔を反らす女にもう一度優しくキスをしたわ

そして女をいたわるよう…アザや傷にも優しくキスをし…
でももう離したくないという激しく求める気持ちで女を抱きそれに女も答えるよう一つになったわ

『…あなたと気持ちが通じあえた時間が一瞬でもあることだけが私の支えだったの…』
男の耳元で涙声で囁いた

男はずっと女を強く抱きしめてた

余韻に浸る中 女の携帯が鳴ったわ。メールだった
夫から…
【今日は接待になった。少し遅くなる。家で寝ずに待ってろ。】

そして男もまた Kからメールが入った
【夕飯の材料買ったの。これから行っていい?】

女は男に微笑み伝えた

『私はもう大丈夫。』

「今俺が一緒にいたいのはKじゃない君だ!」

『夫が帰る前に…帰らなきゃ…』

「帰るな!」

女は男にもう一度微笑みかけた
『今は帰らなきゃ…あなたの気持ちが少しでもわかっただけで私は大丈夫…充分に耐えられる』

着替え終わると‘行くな’と手を掴む男の手を女は優しくキスをして部屋を出たわ
この時の女には覚悟ができてたのね…


結局その日、男はKを家に呼ぶことはなかった。男もまた女のことが心配でならないのだ。そして彼女がいたベッドで彼女の残した僅かな香りを胸いっぱいに吸い込み目を閉じた。

一方、運良く接待で遅くなる夫をダイニングテーブルに座り待つ女。
右手には紙が握られてた。
夜中0時を廻る前、夫は酒の臭いをさせながら帰ってきた。コップ1杯の水を渡すとかろうじて意識のある夫に告げたわ。

『別れてください』

夫は笑いながら返した
「お前はバカか?別れる事などできないんだ!お前の一生を俺に捧げるんだ!」
女は冷静に伝えた。
『先程、両方のご両親にあなたが私にした暴力の数々、隠して撮ったビデオテープと一緒に送りました。』
もちろんそんなテープなどはない。

「ふざけんな!オレを馬鹿にすんのもいい加減にしろよ」
男は女の髪を掴み引きずり回そうとしたその時、
冷静に女は腕を伸ばし人差し指をキッチンカウンターに向けた…
録画モードになってるビデオがそこにあったわ

男は逆上した
テープを取り出すと粉々に壊し女に暴力を振るい始めた…
女は馬鹿じゃなかったのよね
本当のビデオは別にあったの。
そして一部始終を修めたテープを女は手に入れる事に成功したわ。
離婚に向けて歩きだしたかのようにみえたのは一瞬…

それから数日後…

女は身体の変化に身震いを感じた

突然襲う吐き気、生理の不順?
女は調べたわ…
妊娠判定……陽性…



こんな形で妊娠!?



昔から【赤ちゃんは愛する人と…二人の愛の結晶】だと信じていたのに…
夫の憎悪による暴力で犯され出来た赤ちゃん!?素直に喜ぶ事などできなかった
そんな自分にも嫌気がさしどうしていいのかさえもわからず、しばらく涙が止まらなかった


つづく
タクシーから降り女が夫の背中を不安げに見つめながら後ろを歩いた

そして夫は無言で玄関を開け中へ入ったわ

それに続くように女が玄関に入り靴を脱ごうとした瞬間、夫は女の胸倉を掴み壁に叩きつけたの
女は恐ろしさのあまり抵抗出来ずにいたわ

夫が『…クリスマス、誰といた?』
身動きのとれない女に詰めよった…

『高熱で倒れてる俺より大事な用だったんだろ!?男に抱かれてたんだろ?どこのどいつだ…』

女はどんな事があっても男の存在を知られたくなかったわ。
男に迷惑をかけるのだけは絶対にいやだったのね…

「男なんかいない!!」
キツイ目をして女は夫に叫んだわ


でも夫は信じるどころか、更に追求してきた

『じゃあ…あの日はどこで何してた?男じゃないなら言えるだろ…答えろ!』

「………」

女は無言になった
そしてまたキツイ目線で夫を見つめ
「理由は言えない。でも決して男じゃない!」
そう言い張った。


信じるはずのない嘘…


夫は女をベッドルームに連れてゆき乱暴を始めたわ…
『…お前が…外歩けないようにしてやる…』

女は殴る蹴るの暴行受けたあと……

夫に
『子供がいないからお前は好き勝手するんだろ』

『子供ができれば…』

『まずは仕事を辞めろ…女は常に家にいるもんだ!俺に従って生きていればいいんだ!俺だけのために生きろ!』

とにかく色んな罵声を浴びさせ、嫌がり泣き叫ぶ女を殴りながら…夫は女を無理矢理犯し続けたわ…


そしてこれが休みの間…毎日続いたの…

本当は妻の実家に年始の集まりがあったのだが、
『病み上がりで夫の具合がまだ優れないから…』
と偽りで断ったわ

腫れ上がる頬、アオアザ、傷だけの身体…髪は乱れ…

夫とは結婚して4年
亭主関白だとはわかっていたけど手を挙げた事はこれが初めてだったわ……

恐ろしかった…
それでも女は男の事は黙ってたの…

ひどい暴力にも口を割らない女に夫は少し冷静になり
『…これでもし、本当に男がいたなら…そんときは覚悟しとけ』

一言だけ言い残し暴行はおさまった


女はバカなのか…夫に暴行されてる間も男の事が頭を離れる事はなかった…
ずっとずっと
考えていたわ
『年末年始をKと過ごす』ということを…

クリスマス、あの日の判断が狂った原因?
違う。やっぱりこうなることは決まってたのよ…
男は私なんかもう何とも思ってないのよ…
私もまた夫を裏切った罰よ……
男の言うように再会しなければ…
理性を持って高ぶる気持ちを抑えていれば……
でも…もう遅い…
私の心はもう彼にある…
報われないのに
ばかみたい


染みる傷口を押さえながら一人お風呂に入りずっとそんな事が頭を巡った


「………こ…ど…も………」
夫の乱暴で可能性は高かったわ
また、女は夫に会社を退職するように何度も言われた…

夫の言うように仕事を辞めれば、男と会う事もなくなる…
それが一番いい方法……
だけど今の夫とずっと暮らしていける!?
ゾッとしたわ

女はまた自分の身体を抱きしめながら震え泣いた…
今度は声を出さずにね



1月6日から二人とも仕事始めだった
女は身体中に出来たアザを隠すような服装で出かけたが、顔に出来たアザや傷を化粧では隠しきれずガーゼを当てた…

女は男に会わないように…それだけを願ったわ。


会社の更衣室ではKがいた…。できればKにも会いたくなかったわ…。きっと一緒に過ごしたこと
『付き合って』と告白すると言ってたこと……
聞くのが嫌だったのね

でもKは女の存在に気づくなり~話してきたわ…
ニコニコと…

一緒に初詣に出かけたこと…夜を毎日同じ布団で寝た事………告白したこと……が、答えは保留状態とのこと…。
男はKに『まだ付き合う心の準備ができていない』
と告げたそうだ…。
なんでも次付き合う子とは『結婚を前提』に付き合いたいから…と………
Kは「いつまでも待ってる」と伝えたそうだ。
Kが女の顔の傷に気づくが家の階段から落ちたのだと笑った。制服に着替えると更に身体のあちこちになるアザが目立った…



仕事中
『もう…考えるのはやめよう……』

男は結婚したがってたんだ…!結婚してる私と会ってたのは男の遊びに過ぎなかったんだ!
本当に……
バカな女だ……私
でも好きな気持ちはそう簡単には冷めない……
本当私ってバカで惨めな女…
そんな事考えてる時に限って…会うものである

…俯きながらエレベーターを乗ると目の前に男が乗っていた。
一瞬目が合ったが女はすぐに背中を向けた。そして用のない次の階でわざと降りた…。背中越しにエレベーターが閉まるのを確認すると女はため息をついた。


そして次のエレベーターを乗ろうと振り返ると

男が女の前に立っていた。

男もまた用のないこの階で降りたのである。女を追って…


女の顔の腫れ、ガーゼの跡…ストッキング越しに見える脚のアザ…
男は察したのである

『……その傷……アザ…』

「あ………これ?家の階段から堕ちたの…」
女はすぐに目線を反らし答えたわ

でも男は周りに誰もいないことを確認すると女を強引に周りから死角になる場所まで連れてゆき腕のブラウスのボタンを外し上にあげた…
「ちょっ…何するの!?」
女の腕に出来た傷やアオアザ…を見るにり男は

『旦那にか!?旦那に手挙げられたのか!?』

「ちがう!転んだんだってば!もう私と関わらないで!」

逃げようとする女を男は逃がさなかった


女は涙ぐみながら言った
「あなたには関係ないわ…全て私の責任…。あなたは幸せにならなきゃいけないの!…Kが色々教えてくれたわ…だからもう私とは関わらないで…」

女は男の手を放そうとしたわ…
でも男は放さず、女を自分の胸に抱き寄せた

『……ごめん…ごめんな』

どういう意味のごめん?
女はまた頭がごちゃごちゃになり


「あなたは何も悪くない」そう言い、そっと男から放れ…走りその場を立ち去ったわ…
なんの涙かわからない…
溢れる涙をこぼさないようにしながらね


つづく
12月26日より夫は肺炎のため約5日間の入院をするよう言われたが、女は30日から始まる年末年始の休暇のため仕事を休めずにいたわ。


夫は病院では優しい理解のある姿を見せた。そう…25日クリスマスの事には一切触れず…
女はホッとしたかのように仕事に行きそして病院へ通ったわ

でも…その間も男のことが頭から離れる事は1秒たりともなかった…
『俺達、再会しなければよかったな…』
あれは本心なのか…
確かに再会しなければこんなことにはならなかった。でも、女は初めて自分から愛した男と身も心も一つに繋がったあの喜びは、一生消えないと確信していたわ…

でも…『決して結ばれない』
そう確信もしてたのね


会社では男と顔合わす事はなかったわ…
連絡もあれ以来ない

ただ…29日、会社が休みになる前の日のこと
偶然、更衣室でKと友人Mが会話してるのを耳にしたの

K『私、明日から彼の家に泊まりに行く事になったんだぁ年末年始を一緒に過ごそうって連絡があったの!』
M『うそ!良かったね!やっぱりKに気があったんだねぇ!二人とも美男美女だしお似合いだよー。このまま付き合っちゃいなよ』

K『私は付き合いたいんだけどいつまでたってもその言葉が彼の口から出ないんだよねぇ…だから年変わったら私から告白しようと思ってるの。』

女は震えが止まらず、涙を堪えるのに必死だったわ…
そしてKとMが女の存在に気づくとまた同じ話を女にも交わし、女にも男がKと上手くいくように協力してほしいとまで願ってきたの…

女は少し笑って、今は夫の看病で忙しいからまた…とだけ伝え、年末の挨拶をするなり会社を後にした…

男は私を好きと言ったのは偽りだったのか…
遅すぎた再会でも一時的でも気持ちが一つになった喜びを味わってた自分が惨めでならなかったわ
バカな女が男の嘘に踊らされてた?
…男の気持ちがもうわからなかった……


病院に着くと夫はもう大分回復して後は家で静養するようにと翌日30日に退院の許可が下りた。

29日の夜だけ…
まだ夫がいない夜だけ……女は自分の部屋で泣いた
子供みたいに声を出して泣いたわ…
そしてそのまま眠りについた


30日、夫の退院。迎えに行くと夫は世話になった医師や看護師達に深々と礼をしタクシーで病院を後にした。
女が夫の異変に気付いたのはそのタクシーの中でのこと………
まだ病み上がりの身体なのにタクシーの中でタバコを吸いはじめたのである。
無言で…
遠い目をして………
そして目線を反らしたままボソッと

『帰ったら覚悟しろ…』

冷たい言葉に女はゾクっと鳥肌がたった
病院で見せてた優しい夫の姿はもうそこにはなかったのよ…
これから自宅に帰る女に待っていたのは夫の復讐だったの…ね



つづく