鈴江昭記念ウインドオーケストラ演奏会2010 -3ページ目

くまブラ卒業式~終楽章

 式   辞  



 仰ぎ見る山々の稜線にも、家々の庭先や母校の校庭のそこここにも、早春の柔らかい光を受け、生きとし生けるものすべてに大いなる生命(せいめい)の息吹が感じられる今日、ここに鈴江昭記念ウインドオーケストラの卒業証書授与式がかくも盛大に開催されたことは誠に喜びにたえません。

 

 143名の卒業生の皆さん、御卒業おめでとう。

(私は、高等学校の卒業式において、卒業生に向けて最初にこんなふうに語ってきました。)

卒業生の皆さん、皆さんの3年間は、おそらく、悩みの日々が長く続いたり、何度も何度も失敗したり、投げ出したくなったことや、何も手につかなくなったこと、中には、生きている意味を見失いかけたり、人間不信に陥ったりして、いくつもの眠れない夜を経験した人もいるのではないでしょうか。時には、最も信頼している家族や友人にさえ、今の自分を説明する言葉が見つからず、黙り込んでしまった日々があった人もいるのではないでしょうか。また、皆さんの中には、この若い日に、大切な人との辛い別れがあったり、長く病床に伏したり、いくどもの通院をくり返したり、様々な理由で「学校へ通う」というすべての出発点に大きな壁が立ちはだかり、まさに絶望的といっていいぐらい困難な状況を経験した人もいます。

しかしながら、皆さんは、明くる朝の眩しい光の中で、凛として起き上がり、気がついたら生命を輝かせて生きていこうとしていました。俯(うつむ)きがちであった頭を上げて、再び、「明かりの差し込む方角」に向けて針路をとって貫き通したのであります。

そこに「卒業」という言葉の深い意義、大切な意味があるものと確信します。そういう意味で皆さんの本日の「卒業」に、3年間で一番大きな拍手をもって、心からの祝福の気持ちを表したいと思います。御卒業おめでとう、皆さん!

さて、皆さん。皆さんは、「ちぎれるほど手を振って、誰かと別れたことがあるでしょうか?」「手が痛くなるほど拍手をし続けて、誰かを賞賛したことがあるでしょうか?」「拭う間もなくとめどない涙をあふれさせて、誰かに感動したことがあるでしょうか?」「抱き締めることでしか表せない、言葉にならない、切なく熱い想いを、誰かに抱いたことがあるでしょうか?」

人と人が共に生き、こうして何も鎧わず人と出会うという悦びは、人の世に生きた私たちへの至福のプレゼントなのかもしれません。「人と出会う」という悦びに勝る悦びが、この地上にあるでしょうか?もちろん、この出会いは、頑丈な鎧を身にまとった人々との雑踏の中での夥しい出合いを意味していないことは言うまでもありません。

心に何も鎧うことのない出会いなのであります。

このことは、皆さんのような若い日々においてのみならず、いくつもの年齢を重ねて生きていく日々においても、私たちは、常にまだ見ぬ誰かとの鎧わない出会いのために、自分の心を常に最善に磨きながら、その時を待つために、そして、その時に備えるために「自分の心の炎」が小さくならないように懸命に保ちながら、その予感の中で生きているのかもしれません。

くまブラの卒業生の皆さん。

これらの言葉は、高校の卒業式の演壇から卒業していくまさに高校卒業生に語りかけたことばですが、今日、こうしてくまブラを巣立ちゆく皆さんにも、まったく同じ言葉で語ることができることを、無上の幸せに思います。

実に、皆さんこそ、改めて「くまブラというスクール」に入学し、在籍の長短はあっても共通の大きな体験をされ、また大きな目標を達成され、今、このスクールを巣立っていかれます。

このことは、もしかしたら、本物の高校生よりも困難な条件を背負いながら、また、そのことを十分わかっていながら、自分の明確な意思でこのスクールに入学され、また、見事に初志を貫徹されたことを意味し、むしろ、より純粋な意味での「卒業」を勝ち取られたことを意味するからです。

私は、「くまブラスクール」においても、これらの静かだが激しい、しかし、もっとも温かく、そしてもっとも切ない、皆さんの希望の根源がここにあったと信じています。

「人との出会い」、そして、その出会いを大切にする「人との交流」、それが人として生きる悦びであり、だからこそ、その「大いなる出会いと交流のステージであるくまブラ」を大切にしたいと・・・。愛したいと・・・。

くまブラ卒業生の皆さん。しかしながら、私は、常に「自分の音が立つ」と言ってきました。

この言葉のインパクトの中で、私は、何かのグループに帰属するだけで、あるいはバンドのメンバーに加わることだけでは、出会いは成立しないのだということを逆説的に伝えてきたことを思い出してください。

世の中に、先ず、真綿でくるまれたような、予め設定された出会いの場所など存在しません。

そして、皆さんは、実感としてこのことを知っています。

「自分の音」を立てた時、初めて、そばで懸命に音を立てようとしている、自分ではない、しかし自分と同じ志を持ったもう一人の人間の存在・・・。

その時、実は初めて、そこからリアルな「友の音」が聞こえてきたあの静かな感動を・・・。

「自分の音が立つ」という静かだが激しい生命(いのち)の輝きへのダイナミズム。そして、そのダイナミズムの中で聞こえる「友の音」・・・。

皆さん。どうか、くまブラという場所、そしてくまブラという出会いの深さとともに、この大いなる「人間賛歌」を忘れないよう生きていってください。

(さて、高校の卒業式では、このあと卒業生の保護者に向けて語りかけます。例えば、こうです。)

後になりましたが、保護者の皆様に一言御挨拶を申し上げます。

本日は、御子様の栄えある御卒業、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。高校生の多くは、親から遠いところへ向けての自立の芽を育てながら、高校生活を過ごしてきました。だからこそ、育んでくれたその親に距離を保たねばならないとい宿命の中で、彼らは、人知れず「自らの内なる世界」においてその芽を育てるといった営みの最中にあったものと察しています。保護者の皆さんは、それをそっと外から見守ることの難しさを体験された3年間ではなかったでしょうか。

私の敬愛する詩人吉野弘の詩に「奈々子に」という、誕生した我が子に語りかけるスタイルの詩があります。卒業生も保護者の皆さんもきっとご存じの詩だと思います。今年も、最後に、万感の想いを込めてこの詩を共に味わいたいと思います。

赤い林檎の頬をして眠っている奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは そっくり 奈々子の頬にいってしまって ひところのお母さんの つややかな頬は少し青ざめた。

お父さんにも ちょっと酸っぱい思いがふえた。

唐突だが 奈々子 お父さんは お前に 多くを期待しないだろう。 ひとが ほかからの期待に応えようとして どんなに 自分を駄目にしてしまうか お父さんは はっきり 知ってしまったから。

 お父さんが お前にあげたいものは 健康と自分を愛する心だ。

 ひとが ひとでなくなるのは 自分を愛することをやめるときだ。

 自分を愛することをやめるとき ひとは 他人を愛することをやめ 世界を見失ってしまう。

 自分があるとき 他人があり 世界がある。

 お父さんにも お母さんにも 酸っぱい苦労がふえた。

 苦労は 今は お前にあげられない。

 お前にあげたいものは 香りのよい健康と かちとるにむづかしく はぐくむにむづかしい 自分を愛する心だ。



吉野弘の「奈々子に」という詩でした。

保護者の皆さんのこの3年間。我が子へのひたむきな愛情と「やじろべえ」のようにぐらぐらしながら独り立ちしていく我が子への不安を胸に、この大いなる御労苦と注がれました御慈愛に対し深く敬意を表する次第であります。

コブクロが、その歌「蕾(つぼみ)」で歌っています。「ビルの谷間に埋もれた夢も いつか芽吹いて 花を咲かすだろう 信じた夢は咲く場所を選ばない 僕らこの街に落とされた影法師 みんな光を探して 重なり合う時の流れも きっと きっと きっと 追い越せる日が来るさ」と、そして、自らの親に対して声を絞り出すように「聴こえない頑張れを 握った両手に何度もくれた」と・・・。ここにも親子の「まこと」が横たわっています。まこととは真実の真であり、誠実の誠であります。

3年間の高校生活で心身ともに立派に成長され、本校を巣立っていかれますが、健康で幸せな人生を歩まれることを心から願っております。

また、これまで本校の教育活動に並々ならぬ御理解と御協力を賜りましたことに、高壇からではございますが、心よりお礼を申し上げます。今後とも本校の発展のためにどうか温かい御支援を賜りますようよろしくお願いいたします。

それでは、卒業生の皆さん、いよいよけじめの時です。

(ここでは、もう「くまブラの卒業生の皆さん」に戻っています。)

確かに皆さんは、くまブラ(鈴江昭記念ウインドオーケストラ)というスクールに入学され、そして、今、卒業されます。

しかし、よく考えてください。園部高校や洛西高校は、すでに存在する高校でした。すでにある高校に入学して、そして卒業されたのです。

しかし、くまブラというスクールなど、もともと存在していませんでした。面々と繋がる精神(こころ)の命脈こそ存在していましたが、スクールという場所などありませんでした。卒業というから、入学という対語(ついご)浮かんできます。しかし、実は入学ではあったが、正確には、皆さんは、そういう学校を開設して、その学校に入学したのです。自分たちで創り、自分たちが育ててきたのです。

皆さんのそれらの情熱は、実に多くの人に感動と勇気を与えました。

音楽にはとても大きな力があることも体験的に知りました。

と同時に、単に音楽としての力のみならず、皆さんの「中学生よりも一途で、高校生よりもひたむきな」ステージとその精神は、まさに大人となった普通の高校生がここまで「輝いて生きること」ができるという大きなメッセージとなりました。

さらに、その第一期においては、一人の人間の人生に、予想もしない大きな意義付けをもたらし、第二期においては、とてつもない大きな社会的な広がりへと展開していきました。時代を担う子供たちへ、近所の子供たちから世界の子供たちへと大きな展開力を持つに至ったのです。

さて、卒業生の皆さん。皆さんは卒業されますが、くまブラスクールは廃校になるのでしょうか?

廃校となって、人々の記憶の中に留められる運命(さだめ)にあるのでしょうか?

今さっきまで槌音を響かせながら、皆さんが心血を注いできた「鈴江昭記念ウインドオーケストラ」というスクールバンドを廃校させないために、どうしたらいいのでしょうか?

その精神はどのようにして受け継がれていくのでしょうか?

たっぷりとしたこの太いクエッションマークを共有しながら、卒業式にあたっての皆さんへのことばといたします。



表現者たれ!

どっぷり浸(つか)った 「日常」から イルカのように ジャンプせよ

そう 息を整えよ

そして、そいつを思いっきり吹き出せ 諸君

自分の音が立つ 友の音が聞こえる

表現者たれ!

「日常」は 再び 新しい光によって 照射される


今、静かに、しかし、温かくゆっくりとそのカーテンコールが始まります。

さあ、もう一度スポットライトが当たるのです。

皆さんが活躍したそのステージ、鈴江昭記念ウインドオーケストラ。

どうか皆さんが創った「二つの演奏会」を背中いっぱいに感じながら、「大きな志、強い意志力、そして熱い情熱」を忘れることなく逞しく生きていってください。皆さんが、困難にくじけることなく、豊かな人生を送ってくれることを心から念じ、式辞といたします。




 平成23年3月6日


       鈴江昭記念ウインドオーケストラ音楽監督   鈴 江  昭




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鈴江昭記念ウインドオーケストラ

卒業式




全て滞りなく、そして厳かに閉式いたしました。


鈴江昭記念ウインドオーケストラ卒業生のみなさま

本当にありがとうございました。



このスクールバンドで学んだことを

このスクールバンドで出来上がった絆を

大切にそして今後の財産として


みなさま

また明日からがんばっていきましょう。。。







卒業式終了後

ある卒業生の方よりそれは嬉しいお話が・・・。


今秋にご結婚されるようです。。



「ご結婚おめでとうございます!」

「お幸せに!」



「絶対に幸せになりますよ!」と

最高の笑顔で式場を後にされましたこと

みなさまにご報告しておきますね。。。









それでは最後にあたり

鈴江先生より素敵な詩文をいただきましたので

ここにご紹介しておきますね。


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譜面台が部屋にある。


蛍光灯の灯りを受けて、鈍く黒く光っている。

まだ、何も載っていない。



何かを載せたくて、何も載せたくなくて、そして、開いたままだ。

まだ、何も載っていない。


両手一杯広げて、ありったけの可能性を、じっと待っているように見える。


一昨日も、昨日も、そして、今日も・・・。

帰ってきたら、部屋の入り口付近で、じっとたたずんでいる。


「ああ、こいつが最後に残ったか。」

そう思ったら、とても健気(けなげ)で愛くるしいやつに思える。


近寄ってよく見ると、黄金(こがね)のプレートに

記念碑のように

自分の「番号」ががんばっている!





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明日(3/20)は

園部高校の定期演奏会。


来週(3/24.3/25)は

洛西高校の定期演奏会。


みなさん、応援に行きましょうね。








それでは

みなさま、ごきげんよう!


。。。(doi)/






くまブラ卒業式~⑥

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東北関東大震災の地震による被害を受けた被災者の皆様、並びに現状も
被災地区の中で戦っている皆様、本当に心よりお見舞い申し上げます。
また、この災害によりお亡くなりになりました方々のご冥福を心より
お祈り申し上げます。


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そして3月13日(日)

定期演奏会前で必死に頑張っておられる

両校吹奏楽部に訪問し


記念品の譜面台を贈呈させていただきました。






園部高校は

151番~200番


洛西高校は

201番~250番




これで

0番の鈴江先生からスタートした

このくまブラナンバーは


現役生の250番まで繋がりました。




加藤実行委員長より

現役生に向けての

それは想いの大きな激励の言葉とともに

両校吹奏楽部へ寄贈されました。




午前中に訪問した洛西高校では

洛西高校らしく溌剌ときびきびとした部員の皆様に接し

その圧倒的な力強さと精神力の強さに

これまで育まれてきた大きな成果を感じ

「頑張ろう!」って気勢を伝えるものでありました。



午後に訪問した園部高校では

園部高校らしく涙を伴い真剣な眼差しで整列する部員の皆様に接し

その健気さと想いの大きさに

こちらまでもが励まされているように感じ

「頑張るんやで!」って心より伝えるものでありました。





両校の現役生のみなさん

どうか頑張ってください!



わたしたちは皆さんを

心より応援しています!






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園部高校・附属中学校吹奏楽部

第39回定期演奏会

2011年3月20日午後6時~

南丹市園部公民館ホール

 第1部 マーチングシテージ

 第2部 クラシックステージ

       アルメニアン・ダンス・パートⅠ

       吹奏楽のための神話「天の岩屋戸の物語による」

 第3部 ポップスステージ

       ウエスト・サイド・ストーリー(OB合同演奏)

 ディスコパーティーⅡ

       他




洛西高校吹奏楽部

第29回定期演奏会

2011年3月24日午後6時~

2011年3月25日午後6時~

長岡京記念文化会館ホール

  第1部 マーチングステージ

  第2部 企画ステージ Pasion Latina

  第3部 シンフォニックステージ

        BLUE HORIZONS

 他



がんばれ!現役生!!



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚




2007年5月にスタートした

このくまブラ。。



感動的な2回の演奏会を終え

そして今

その壮大な4年間が全て終了いたしました。。。




みなさん

本当にありがとうございました。




そして

先生、本当にありがとうございました。








くまブラ卒業式終楽章へ。。。





。。。(doi)/




緊急に

くまブラのみんなへ



 

とてつもなく巨大な地震と大津波が起こりました。

そして、想像を絶する惨状が連日報道されています。

今、私はどうすればいいのか、どんな行動を起こせばいいのか、また私に何ができるのか、常に自問自答しながら生活をしています。

きっとみんなも同じではないでしょうか。

それぞれが、できる範囲で今の気持ちを精一杯表せばいいと思いますが、もし、みんなと一緒にできることがあればぜひ行動を共にしたい、と思います。

焦ることはないと思います。冷静に、しかし、やはりずっと「向き合いたい」と考えます。

みんなの力が集まれば、小さいけれど何かができるように思っています。

そんなことをみんなに言ってみたかった!

鈴江 昭