「シグレー!シグレ、どこー?」あのあとシグレは、とまどいながらも見事にマジックを成功させ、一瞬にして姿を消した。隣にいたぼくにさえ、どういう種なのか全くわからなかった。こんなすごい子だったんだ。「シグレー!」もう一度名前を呼んだとき、後ろからトントンと肩を叩かれた。「シグレ?」勢いよく振り返ったが、そこにいたのはズボンもパーカーも靴も全部真っ黒な男だった。フードを深くかぶっていて、普通にいたら不審者にしか見えない。今は仮装している人がほとんどだから、全然違和感はないが。「…なんですか…?」「君、なにくんっていうの?シグレちゃんはどうしたのかな?」男はなぜかシグレの名前を知っていた。「教えないですよ。普通。まず、なんでシグレの名前を知っているのか教えていただけませんか。というか、あなた誰?」「あぁ、ごめんねぇ、僕は魔法使い。このカーニバルに招待されたんだ。」そういって、魔法使いは口角を少しだけ上げた。「っていうか、シグレちゃんの名前は君が大声で叫んでたよね。普通にわかったよ?」そういって嘲笑している。ぼくは恥ずかしくなってうつむいてしまう。「あっ、シグレちゃんだぁー」「え、どこ⁉︎」顔を上げる。でも、シグレは見当たらない。「あ、違ったみたいー笑笑 おっかしいなぁー、絶対そうだと思ったんだけどなぁー笑笑」…こいつ…。「あの、からかってるならぼく忙しいんで、行かせてもらいますけど。」「好きなんだぁ?」「はい?」「君、シグレちゃんが好きなんだ?シグレちゃんに、恋、してるでしょぉ」「そっ…そんなわけないじゃないですかぁー、なにいってるんですかぁー?ははっ」「あはは、図星だよね。」魔法使いは、ケタケタ笑っている。こっちとしては何にも面白くないが。「あなたには関係ないでしょう。ようがないならもう行きます。」「うーん、関係なくはないかなぁ」「…え?」「とーりーあーえーず」魔法使いの顔が急に真面目になる。「この恋は秘密にしておくんだよ。さもなければシグレちゃんの命が危ない。」…は、なにをいってるんだ。この人。「どういう意味ですか?」そう問うと、魔法使いは声を低くしてぼくの耳元で囁いた。「…運命には、逆らえないんだよ。」