連休に、井上ひさしの「4千万歩の男」を読んでいたら、こんな「歌仙」があった。

わが品格あるブログには少々掲載が憚られる内容であるが、かの現代の戯作者

といわれた井上ひさしが万を持して掲載したであろう歌仙であるから、当代随一

のものであったに相違ないと言い訳して掲載する。


なお、エロ句、バレ句をお嫌いな方は、どうぞここで閉じられるようお勧めします。



そういえば大学1年の教養課程で、かのバロック音楽の第一人者で「音楽の泉」で

有名な皆川達夫先生の講義を受けた頃、同じ教室で江戸の川柳を教えてもらっ

たことがある。その先生が、江戸のバレ句を顔をポッと赤らめて講義していたのを

思い出す。女学生もいたからだ。


イザ・・・・。


五月雨歌仙


五月雨の徒然なるままに、西川の絵姿(注1)、無量の心易きを友として、ひょいと思いつき、あてがきの可笑(おか)しげなるをもぢりて、打ち越し・差し合ひを繰らず、出傍題(でばうだい)なる口に任せて笑(わらひ)となせるのみ、


あてがきの文字のゆかりを杜若(かきつばた)


  臍の辺りを探る蚤狩り


息差しの荒い昼寝の夢覚めて


  つばきを折々つけて目のやに


二番がけ長い将棋の月の影


  尻から露の伝ふ糸萩


どこやらが土器(かわらけ)くさい生霊棚(しょうろだな)


  つく音せはし入相の鐘


死にますとすすり上げたる泣上戸



  無理な取りやうする車銭



押し付けてまくりかけたる古筵(むしろ)


  じくじく湿る入梅の内


茶臼さへ重きが上の仕立物


  出すなと言ふに出す下女が髱(つと)


ぬれぬれと掃除に困る風呂流し


  ああ心地よい風のそよそよ


(うしろ)から差し込む月の花もどり


  生えた生えぬと嫁菜尋ぬる


そろそろと気ざすところに春めきて


  そこを突いてと言ふおくり羽子


したがるも道理させたい繻子(しゅす)の帯


  鼻紙もんでふく顔の汗


盆の首まで足上げる下手の鞠(まり)


  もう能(よ)うなると雲切れの空


出しそうな風ぢやと駕籠を高張りて


  苦々しくも抜けた聟(むこ)殿


そのくせに長いが好きの落とし差し


  毛のあるところ見せた胸板


ふんどしも解けてすげない後れ角力(おくれずも)


  によつと大きな尻つきの出て


とりながら人は来ぬかと豆畠


  はずみつきつたる小便の音


すかすかとおろす重荷の市もどり


  ぬつと頭を入れて潜り戸


また行くとあせるは花の里心


  ぬくぬく水に暖かな頃


・・・・・・・・・・・・


「どの句も好色そうにはじまり途中でストンと肩すかし、風雅な仕立てに戻っている・・」


作者は、尾張御用人 寺社奉行一千石、お武家俳諧師、横井也有 独吟。



以上、井上ひさし解説。


注1 西川の絵姿: 京の浮世絵師、西川祐信のことで、也有はこの西川の肉筆

美人画に合わせてこの独吟三十六句を読んだらしい・・・・。


なお、この項のテーマは、俳句の項でなく、「多様性を追求する」の項であることに

ご注意あれ。