昨夜から今朝にかけての新聞・ラジオ・テレビの報道によると
正岡子規が編集し、存在は知られていたが行方不明だった選句集「なじみ集」
という毛筆書き句集が発見されオークションにかけられるらしい。
 
政治も経済も社会もいやになるような世相のなかで、マスコミも一服の清涼剤
として恰好の材料だったのだろう。
私も、俳句をブログのテーマの一部に挙げている以上一筆書かずばなるまい。
 
明治27年頃に編集されている子規編の毛筆の句集である。
この新発見の句集のオークションの最低値は、なんと2000万円だそうである。
専門的な古書の相場のことは全く分からないが大したものである。
神奈川大学名誉教授の復本一郎さんが分析紹介されている所によると、
極めて貴重な価値があるというのは、
 
・子規の未発表句が掲載されている。
・当時の子規を中心として集まっていたする高濱虚子や幸田露伴や夏目漱石
 など90人も人の句が納められて、当時の俳句の草創期に加わった傾向や
 空気が分かるであろう。
・漱石の句は十七句あって、内十句は未発表であるなど・・・・。
 
それにしても2000万円とは!
出版されるのであれば、是非購入して手元で鑑賞したいと思うが、俳句が盛ん
である今の時期であっても、元が取れるのかどうか要らぬ心配が先に立つ。
 
いくつかの未発表句が紹介されていたので、拙いながらも感想を記してみよう。
 
まづ、漱石の未発表句のうち、子規が○印を付けているという句
 
涼しさを大水車(おおみずくるま)回りけり  漱石
 
大水車の斡旋がいかにも水を滴らせる涼しげな、ゆったりとした余情を感じさせて好きである。
「涼しさを」の「を」が文法的にどうなのか意味がちょっと通じない感じがあるが、
それがよいと子規は判断したのであろう。
 
その他紹介されている漱石の句
目でたさは梦(ゆめ)に遊んで九時に起き
病後糸柳ひねもすぶらりぶらり哉     漱石

高濱虚子の未発表句
雀の子とびつかれたる茨(いばら)かな  虚子

正岡子規の未発表四句は分かりやすいので評してみる。
 
馬士(まご)一人馬にひかるヽかれ野哉
 
馬子に引かれた馬が枯野の中を引かれて往く。
馬と馬子以外は何もなく果てしない淋しい枯野の真っ只中である。
 
しににいくためにめしくふこじき哉
 
なんとまあ、現実を恐れもなく描写したものだろう。
子規のいう客観写生とはこういうのを言うのであろうが、乞食を突き放して写生し滑稽さの中に
憐れをみている。
 
かけものヽ 達磨にらむや秋のくれ
 
復本先生は、この句は既に知られた句よりこの句の方が完成度が高いと解説を加えておられる。
既出の句は知らない。
掛け軸の達磨のにらみを睨みかえしている子規の姿が見える。
双方の眼力はそれなりに感じるが、秋の暮れであるところが何となく、空しいさびしさを覚えさせる。
 

秋に形あらばへちまやこれならん

へちまを見てこれがまさしく秋の形、秋の姿であると言い切ったのだ。
ぶらりとぶら下がって頼りなげな風情を秋と見たのだろうか、なんと言う感性か!

分かり易いといっても、私程度の者ではまだ鑑賞は足りないことは承知。