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噛みたい衝動(続き)

その日の夜、森永は、事故で死んだ。

皮肉にも葬式の日は2月14日だった。
喪服姿のグリ子は、森永の墓の横に腰かけた。
悲しいほどに雲一つない晴天の青が喪服の黒によく映える。
グリ子は、小さな箱をとりだした。それは森永に渡すための手作りのチョコレートだった。
わざとキレイに12個にわけてつくった。もちろん、嘘だと気づいてはいたが、グリ子は、森永のそういう可愛さが好きだった。
箱を開けて、一つ手にとり口に運ぶ。
森永「にげーよ。」
ケチをつけてくる森永の顔が浮かんだ。
自分勝手な人だったなぁと思うと、森永の思い出が浮かんでは消えていった。
涙が一粒溢れた。
不思議と“衝動”に襲われることはなかった。
チョコレートを食べてる間、頭の中が森永との思い出で溢れる。できるだけ終わらせたくなかった。
二粒目へと手が伸びる。また涙が溢れた。

12粒の涙が溢れ落ちた。
今までで一番時間をかけて、12個のチョコレートを食べた。
グリ子「嘘つき。」
その時、森永の墓のある、小高い丘に強い風が吹いた。とても強い風のその中でグリ子は、後ろから抱きしめられた。懐かしい匂いがした。
森永「ごめんね。」
風は小高い丘を去っていった。頬を伝った涙が、拭われていた

噛みたい衝動

国道沿いのファミレス。
楽しげに食事を楽しむ家族連れの客の中に、一組のカップルがいた。
話題は、間近に迫ったバレンタインデーについてだ。森永「なぁ、グリ子。“噛みたい衝動”って知ってるか?」
グリ子「ねぇ、そのグリ子っていうのやめてくれない?」
森永「飴とかチョコレートとか口に入れて、最後まで舐めきれる人?」
グリ子「聞いてないし。舐めきれないよ。だいたい最後の方で噛んじゃうもん。」
森永「そうなんだよ。その最後の方で噛みたくなっちゃうのを、“噛みたい衝動”っていうんだよ。」
グリ子「それが何なのよ?」
森永「いや、だから、それを我慢すると、願い事が叶うんだよ。」
グリ子「そんな簡単に願い事が叶うわけないじゃん。」
森永「ちげーよ。チョコとかって、だいたい1ダースじゃん?つまりさ、12個全部を噛みたい衝動にうちかって食べきったら、願い事が叶うんだよ。これは意外と難しいぜ。」
森永は得意気に言った。
グリ子「ふ~ん。」
それは、会話の中にある他愛もない嘘だった。

その日の夜、森永は、事故で死んだ。

先生、僕はただトマトが創りたいだけなのです。

ものづくりは、皮剥きに似ている。
アイデアという作物を得た時、そこには驚きがある。その作物をうみだした自分への畏敬にも似た驚きが。
次に、その作物を食するために具現化という皮剥きをする。そして、いざ食べようとすると、そこには失望がある。手には、つくった当時の作物の、面影がないほどに小さな果実があるばかりなのだ。こんなものだっただろうか、と思いながら食してみると、なるほど美味ではあるが、あの大きくなっていた作物を思い出すと、もの足りなさを隠しきれない。
満腹という満足をえるほどに、大きくなっていた作物。

いつか、皮ごと食べれるような、木になった作物を、風がつけた土ぼこりを軽く洗うだけで食べられるような。
そう、先生、いつの日にか私は、トマトがつくりたいのです。
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