1-1.  コミュニケーション力

 コミュニケーション力は、人と接する上で重要な力(スキル)として最初にあげられるものです。本書では、これ以降、力ではなく、スキルという言葉を使用します。コミュニケーションを行う目的は3種類あると考えます。それは、情報の発信、情報の受信、そしてこれらを使用した交渉です。これらの三つを行うスキルには、基盤スキルと上級スキルが混在しています。また、同記述しています。それぞれの組み合わせについて以下に説明します。

 

図1-2 コミュニケーション

 

1-1-1.     非言語コミュニケーション

 非言語コミュニケーションとは、言葉ではなく、態度や外見で自分の気持ちを伝えるコミュニケーションです。このスキルは基盤スキルと上級スキルに分けられます。

基盤スキルとして筆頭にあげられるのは聞くスキルです。このスキルは、ただ単に聞けばいい、というものではありません。ここで必要なスキルは、話し手が話しやすい雰囲気を作るというスキルです。相手の言葉が耳に入ってくるため、よそ見をしていても構わない、何かをしながら聞いていても構わない、という態度は聞くスキルを発揮しているとは言えません。そのような態度を話し手が見たら、話したいという意欲が消えてしまいます。次のような実験をしてみてください。相手が一生懸命話しているときに、スマホをいじったり、よそ見したり、あくびしたりしてみてください。そしてそのときの気持ちを話し手に尋ねてください。「話す気が無くなった」との応えが返ってくるでしょう。「あなたの話を真剣に聞いていません」ということを言葉ではなく、態度で発信しているからです。話し手はその態度を見て、「この人は私の話を聞く気がないのだ」と言うようにあなたの意思を受信しています。言葉で、「聞く気がありません」と伝えなくても、態度でそれが分かる、これが非言語コミュニケーションなのです。真剣に聞くつもりでした、と言っても態度は全くの反対の気持ちを発信しています。聞くではなく、聴くという態度が必要です。聴くには、「まともに耳を向けてきく。耳をすましてきく」の意味があります(学研 漢字源より)。聞くは、「へだたりを通して耳にする。人の話やよそからの音をきく」の意味があり(学研 漢字源より)、自然と耳に入ってくる、というイメージがあります。

 では、どのような態度ならば、聞くスキルと言うのでしょうか。上述した態度と反対の態度を取ればいいのです。スマホの代わりにメモ帳を持ち、相手の目を見て、ときにはうなずいたり、相槌を打ったりする、という態度です。

 ほかの基盤スキルとしては態度、ふるまいや服装、身だしなみが挙げられます。「人を外見で判断するのではなく、中身で判断しなければならない」とよく言われます。確かに正しいことです。しかし、初対面の人の中身をどうやって判断すればいいのでしょうか。無理な話です。初対面の人に対しては、目から入る情報が最初の受信(第一印象)となります。付き合いたい人か、頼りになる人か、全て目からの印象で判断されます。公式な場に、ジーンズやTシャツで出席したらどのように見られるでしょうか。その人が何も言わなくても、「私は礼儀知らずの人間です」と外見で発信しているのです。逆に、普段砕けすぎた服装をしている学生が、就職活動となると、スーツを着て、染めていた髪を元に戻して会社訪問を行います。この変身は何を発信しているのでしょうか。「私は学生気分からビジネスパーソンになる心構えができています」ということを外見で発信しているのです。

 非言語コミュニケーションの上級スキルとはどのようなものでしょうか。落語をラジオで聞かれたことがある方は感じておられると思います。噺家が何もしゃべっていないにもかかわらず、ラジオから笑い声が聞こえてきます。このとき噺家は、とある仕草を取っています。そして、その仕草で笑いを取っているのです。これは噺家が言語を使用しないで、あることを発信しているのです。また、ベテランの歌舞伎役者(千両役者ともいいます)が目だけで自分の感情を表現しています。ベテランでなければできない非言語コミュニケーションです。諺に、目は口ほどにものを言う、とありますが、これは非言語コミュニケーションの発信するスキルを意味しています。

受信するスキルとしては場の雰囲気をつかむことが考えられます。所謂、空気を読むということでしょう。他には、相手の顔色をうかがって、言葉通りの感情なのか、その逆の感情なのかを察知するスキルが考えられます。特に交渉の場では、相手のちょっとした態度の変化で、手ごわい相手か、そうではない相手かを見極めることもあります。