『手、回せる?』
抱き上げたキュヒョンに俺は声をかけた。
まだ目が冷め切っていないキュヒョンが力なく首を振った。
俺は抱き上げた手により一層力を込めた。
久しぶりに深い眠りに落ちていた俺が目覚めたときには
もう太陽がだいぶ高い位置でカーテンの隙間から差し込む
陽の光は力強かった。
しかし昨晩のことを思い出すとすがすがし気分ではいられない。
俺はキュヒョンをとことん傷つけた。
まだ眠るキュヒョンが目覚めたとき罵られても仕方ない。
この家を出ていくというかのしれない。
その覚悟はできた。俺のしたことを思えば仕方ない。
が、もし、そうなったら俺は地に這い蹲っても許しをこうつもりだ。
ユジンから何度か連絡が入っていたので連絡をした。
今日の記者会見への出席の義務についての云々…
いや、彼女なりの配慮なんだろう。
昨日の様子を見て心配をしてくれたようだった。
「あなた…本当に大丈夫?」
そういわれたとき返事に窮した。
大丈夫なことなんてあるわけがない。
こんな気持ちで本当にダニエルとやっていけるのだろうか。
これほどのプロジェクトだ。
個人の感情に左右されるようなものではないということはわかってるし
個人の事情なんてどうでもいい話しだ。
しかしこのケースは個人の事情で大きな変化を生じるケースだ。
ユジンはそれをよくわかった上で、このプロジェクトを立ち上げている。
だから俺が…俺たちが揺るいだらプロジェクト自体の基盤が崩れる。
ユジンの度胸にはほとほと敬服する。
できるなら敵にまわしたくない。
とにかくキュヒョンを何とか起こさないと。
俺はバスルームに向かい、湯船に湯を張った。
そして…
寝いるキュヒョンを抱き上げバスルームへ向かった。
バスルームは立ち込める湯気で曇っていた。
俺はキュヒョンを静かに湯船に下した。
そして唯一身に着けていたスウェットのパンツを脱ごうと
手を湯船から出そうとすると、思いがけないほど強い力で
腕を引っ張られた。
「や…」
キュヒョンが俺の腕をつかんで離さない。
俺は開いた片手で急いスウェットを脱ごうとしたが
半分濡れたそれがなかなか体から離れてくれない。
慌てた俺はバランスを崩し、頭から湯船に突っ込んでしまった。
少しもがきながら湯中から顔をあげると
キュヒョンがクツクツと笑いながら俺を見ていた。
『笑ったな…』
「だって…ヒョンが…」
そういって静かに笑う。
俺たちの言葉がスムーズに滑り出した。
『キュヒョン…昨夜は』
「今何時?」
『え?あぁ…10時過ぎたところだ。』
「ふーん…何時からだっけ」
『記者会見?13時からだ。』
「そっか…まだ時間あるね。」
『キュヒョン。ん~…その、大丈夫か?』
「ん?何が?」
『いや、その…身体も、他に、ほらいろいろと…』
「わかんない。」
『わ…かんない?』
「ん…わかんない…」
俺は湯を掬ってキュヒョンの肩に湯を流すのを繰り返しながら
その肩にそっと口づけた。
キュヒョンの身体がわずかに揺れる。
『ごめん。ひどくした。』
「…ん。」
『もうしない。』
「…」
『許してくれ。』
「…」
目をつぶったままで何か考えているんだろう…
キュヒョンは返事をしなかった。
俺の心臓は俺の意思とは別に鼓動を速める。
俺は次の言葉が出てこなかった。
頭の中で最悪のシチュエーションを思い浮かべ渦巻く。
「シャンプー…」
『え?』
「シャンプー…」
『あぁ…』
シャンプーの泡がキュヒョンの頭を包み込む。
いつものように湯船に浸かり、バスタブのふちに
頭をもたげ気持ちよさそうに目をつぶるキュヒョン。
俺はゆっくりと時間をかけて洗ってやった。
「はぁ…」
『お痒い所は?』
「ないです…でも…」
『ん?』
「心が痒いです。」
俺の手が止まった。
それきりキュヒョンはまた黙ってしまった。
シャワーのコックを捻りシャンプーを洗い流した。
排水溝に流れ込む泡を見つめながら
昨夜の事もこの泡のように流れ去ってくれればいいのに…
そんな都合のいい事を考えていた。
「三か月…禁止。」
『え?何?』
どうすればいいか考えあぐねていたところへ不意に声をかけられ
ちゃんと反応できなかった。
「三か月しない。」
『し、しないって…え?なに?』
必死に頭を回転させた。
『えっと…キュヒョンそれって…その…例の…』
恐る恐る聞いてみた。
「あぁ~でも…二か月でいいかな…」
『え?二か月?』
ピンときて思わず否定の声が出た。
しかしキュヒョンにジロッと睨まれ、
慌てて人差し指を口に当て黙りますのポーズをした。
そしてそれも致し方ないと覚悟した。
三か月が二か月に減ったし…
それで済むならいくらでも我慢する。
そう言おうとしたとき
「あぁ~…でもダメだ。」
とキュヒョンがまた言った。
『え?もっと長く?』
また思わず言ってしまった。
キュヒョンが口角を上げ鼻で笑った。
こういう時のキュヒョンは大変危険で
出方を間違えると取り返しのつかないことになったりする。
今日は何が何でも連れて行かないと
俺はユジンに殺される。
仕方ない。
俺はキュヒョンの言うとおりのままを受け入れるしかない。
『わかった。キュヒョンよーくわかっ…』
「やっぱり一か月。一か月なし。」
…ん?短くなってないか?
俺は片眉をあげた。
『キュヒョン…えっと…』
「いや、やっぱり三週間…いや、二週間…」
『あの…キュヒョンさん?』
「あぁ~でもなぁ…やっぱり半年…」
『は、はんとしぃぃ?』
いきなり上がったハードルに声が上ずる。
キュヒョンはそのまま体を滑らし、湯船にブクブクと沈んでしまった。
頭ではすくい上げないと…って思ってはいるが
結構なショックで体が動かなかった。
シャワーの流れる音だけが浴室に響いた。
…半年?
キュヒョンは半年も俺としなくても大丈夫だってことなのか?
俺はそっちの方がショックだった。
やっぱりもうダメなのか?
そういうことなのか?
絶望にも近い状況に俺は頭からシャワーをザーッと浴びせかけた。
「なーんちゃって…」
キュヒョンがいきなり湯の中から飛び出した。
「そんなの…無理に決まってるじゃんね…」
シャワーの音に紛れきゅひょんお声がよく聞こえなかった。
『へ?』
俺は頭からシャワーをかぶりながらポカ~ンとキュヒョンを見つめた。
「きて…」
キュヒョンが湯船の中で天使の羽を広げた…
いや、実際は手を広げたのだったが俺にはそう見えた。
弾かれたように我に返った俺は
シャワーをかなぐり捨て、キュヒョンの腕の中にダイブした。
そして深く深くキスを交わした。
浴室のタイルの上でシャワーのヘッドが
カコンカコンと音を上げながら右往左往していた。
上を向いたヘッドから盛大に湯が吹き上げ、
すべてを洗い流すかのように俺たちの上に降り注いだ。
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㊿までには終わらせる予定だったのですが。
㊿以降記号が出てこないんだもん
(/ー ̄;)シクシク
すみません長々とお付き合いいただいてます。
多分あと2話程で終わる予定です。
あくまでも予定ですが…
(-"-;A ...アセアセ