異様な雰囲気のまま、バイタルから始まり、
一通りのチェックが進んだ。
採血を行い、ウニョクが検査に向けての説明を始めた。
しばらくおとなしく話を聞いていたダニエルが一区切りついたとき
キュヒョンに声をかけた。
「そうだ。君にプレゼントを持ってきたんだ。」
そう言って、そばに控えている秘書に目配せをした。
「キュヒョンくん。君にこれを…」
差し出された袋の中にはリボンが結ばれたワインが入っていた。
「なんですか、これ。」
「アイスワインだ。
君はワインに詳しいから選ぶのにちょっと苦労したよ。
気に入ってくれるといいんだが。」
「いや、そういう意味じゃなくて。なんで俺に?」
「世話になる君にどうしても贈りたくて君を思いながら選んだんだよ。
贈り物を選ぶのがこんなに楽しいと思ったのは久しぶりだっだよ。」
「患者さんからの贈り物は受け取れません。」
「私はドックの客だ。患者じゃないから気にしないで。」
「いや、そういう事を言ってるんじゃなくて…」
キュヒョンはさり気なくシウォンの方を見た。
シウォンは明らかに不機嫌だった。
そしてキュヒョンもショックを受けていた。
シウォンがこのダニエルと知り合いだったなんて
一言も聞いていなかった。
「そんな堅苦しく考えず、さぁ。」
「ありがとうございます。気持ちだけで…」
そういって頑なに断わりキュヒョンは深々と頭を下げたが
結局は受け取らざる負えなかった。
そんなやり取りを関心がないかのように無視を決め込んでいた
シウォンがウニョクに声をかけた。
『えっと…今日のところはこれで全部終了かな。』
シウォンが手元の書類をパラパラとめくる。
「はい先生。これで大丈夫です。」
ウニョクがすかさずチェックリストを差出し
シウォンはそれに黙ってサインをした。
『オさん。
今日のスケジュールは終了になります。
また明日、6時半から採血など行いますので伺います。』
「それはキュヒョンくんにお願いしたいのだが。
いいかな?」
『え?…あぁ、どうかな…シフトを確認してみましょう。』
「よろしく頼むよ。」
キュヒョンを見つめながらそう言うダニエルの言葉は絶対だった。
「それではダニエルさん失礼します。」
ウニョクそう言いながら頭を下げた。
それに併せてキュヒョンも頭を下げた。
そして出口に向かった。
「キュヒョンくん。本当は帰したくないんだが…
明日も会えるのを楽しみにしてるよ。」
ダニエルがキュヒョンにそういうと
キュヒョンはもう一度深々と頭を下げウニョクの後に続いた。
シウォンも頭を軽く下げ、その後に続こうと出口に向かうと、
「あぁ~シウォン。ちょっといいかな?」
ダニエルがシウォンを引き留めた。
一瞬足が止まったキュヒョンだったが、
振り向くことなく廊下へ出た。
しばらく待ったがシウォンは出てこなかった。
「とりあえず行こう。」
「うん。」
ウニョクがキュヒョンに声をかけ、歩きだした。
「びっくりしたな。」
「うん。」
「知り合いだったんだな。」
「うん。」
「知ってた?」
「ううん。」
「だよな。」
「うん。」
「お前のことどころじゃないよな。」
「うん。」
「…何話してるんだろ。」
「さぁ。」
「大丈夫か?」
「う…うん。」
「そっか。」
「うん。」
ウニョクとキュヒョンはナースステーションに戻った後も
あまり話すことなく、もやもやした気分で一日を終えた。
ロッカールームで着替え終わる頃、
ウニョクが声をかけた。
「大丈夫か?送ろうか?」
「ううん大丈夫。トゥギ先生待ってるんだろ?
大丈夫だから。おやすみヒョク。」
「あぁ、おやすみ。気を付けて帰れよ!」
「うん。大丈夫。じゃ。」
そう言ってキュヒョンとウニョクは病院の前で別れた。
帰りはシウォンの車で帰る予定だったので
キュヒョンは歩いて帰るしかなかった。
何度かiphoneを鳴らしたが応答はなかった。
”先にかえります”
そうメッセージを送って歩き出した。
キュヒョンはダニエルからもらったアイスワインの入った
袋を振りながらカラ元気で歩いた。
プップ~
…ヒョン?!
そうどこかで期待しながら道を空け、振り返ると全く違う車だった。
だよね。
そんな映画みたいな事…
キュヒョンは被っていた帽子をもう一度深く被り直してまた歩き出した。
そして、その夜シウォンは帰ってこなかった。