みんなに笑われて面白くない俺は
”もういいよ。ほっといてよ。”と言って部屋からテラスに出た。
テラスに出ると風が心地よく、のぼせた頭を
クールダウンしてくれる気がした。
カンイン先生のことはよくわかったよ。
あの女好きで有名で、女の子たちにモテて
女の人と結婚してた人が…
あのヘンリーって子を選んだ。
でもさ、そういう由々しき出来事が起こってしまうような
何が起こるかわかんない状況だからって
俺は行っちゃダメとか、おかしいじゃんか!
俺はテラスの柵に肘を付き、頬杖をついて大きくため息をついた。
眼下にはイルミネーションに光る街並みが広がっていた。
だんだんその光がぼやけてきて最後には見えなくなった。
俺はシャツの袖で目をごしごしと擦った。
ヒョンは全然わかってない。
俺のことをとやかく言う前に自分はどうなんだって話しだよ。
俺にしか勃たない…
ヒョンはそんなバカみたいな事言ってたけど、
そんなのわかんないじゃないか。
カンイン先生だけじゃない。
ヒョンだってヒョンの意志とは関係ないところで
どうにかなっちゃうようなこと…
もしかしてヒョンの意志かもしれないようなこと…
絶対起こらないなんて、そんなのわからないじゃないか!
俺のことばっかり言ってるけど、そうじゃないだろ?
さっきだって…
あのヘンリーって子に無防備に触らせてた。
そして、あんな笑顔見せちゃって…
どっちが…
「ヒョンは!まったく!ぜんぜん!わかってない!!」
俺は柵をバンバン叩きながら思わず叫んだ。
そしてまた頬杖をついて、顎をガクガクさせた。
いつも、ヒョンの肩の上でする癖。
…ヒョンのと感覚が全然ちがうや
ヒョンの肩が…いいな…
そんな事を思いながら
このホテル自慢の夜景の灯りを見つめた。
「ねぇ…大丈夫?」
「え?!うわっ!なに?!」
俺の悩みなんて、目の前に広がる景色からしたら、本当にちっぽけだよな。
なんて、ボーッと考えていたところで、
不意に声を掛けられてびっくりして振り向くとリョウクが立っていた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
リョウクがもう一度聞いてきたので
”何が?別に?”といって口ごもった。
「なに、”別に?”とか言っちゃってんの?全然ダメじゃん。」
「…そんなことないよ。本当に…なにも…」
「ほんっとギュは下手だね。自分の気持ち隠すの。」
「…」
「でも、ヘンリーに当たるはお門違いだよね。」
「…そんなことしてない。」
「そう?僕にはそうは見えないけど?」
「ほっといてよ。」
そう言いながら部屋の中に目を向けると、
ヒョンがまたヘンリーとなにやっら楽しそうにしていた。
ますます気分が滅入ってきた。
「シウォン先生がヘンリーのこと面倒見てるのが気に入んないんだ。」
「ほんとにやなヤツだよな。リョウクって…」
「あっ、今度は僕に逆切れ?」
「…わかってるんなら、聞かないでよ。」
「でも、ヘンリーが悪いわけじゃないからね。
そこ間違えないでね。
だいたい先生にあんな風に言ってもらって
何の不満があるのさ。」
「…わかってるよそんなの。
でも、だってしょうがないじゃん。
気になってしょうがないんだから…」
「ふ~ん。珍しいね。ギュがそういうの。」
「俺にもわかんないよ…そんなの…」
俺は唇をとがらせてそう言うとテラスに置いてある椅子に腰掛けた。
「あの…」
「あの~…」
「キュヒョンさん?」
「え?なに?はい?」
…ガタガタ…ガシャン
どうやら俺は一瞬寝てしまっていたようで、
名前を呼ばれ、慌てて立ち上がったのでテラスの椅子が
ひっくり返ってしまい、テーブルにぶつかった拍子に、
水が入ったグラスを倒してしまい、テラスの床に水溜りをつくった。
心臓がバクバクいって痛かった。
倒したグラスの水の流れを目で追った。
目の前にいる人物を認識するのに時間がかかった。
ヘンリーに突然声を掛けられたのだった。
「だいじょうぶ…ですか…?」
…なんだよ。かっこ悪いな俺。
「えぇ。大丈夫…」
頭をかきながらヘンリーと向かい合った。
出来れば話したくなかった。
「えっと…なんでしょうか…」
”当たんないでよ”というリョウクの声が頭をよぎった。
「あの、ぼく、きゅひょんさんにあえるのたのしみにしてたんです。」
ヘンリーはそういうとうれしそうに笑っていた。
…なんだよ気持ち悪いなぁ
そんなことを思いながらもみんなの手前
あからさまに避けてはよろしくないかと思い
申し訳程度に笑った。
ヘンリーは勝手に一歩的に話し続けたて…
ヘンリーがどうして俺に会いたかったのか話しを聞いてわかった。
…なんだよそれ。
首の後ろがかぁ~と熱くなる。
ヘンリーはにっこり笑って部屋に戻って行った。
ブブ…
ポケットの中のiphoneが揺れた。
ヒョンからのメッセージだった。
「え?」
…早くふたりきりになりたいよ。
…抱きしめたいよ。
…いますぐここから連れ去りたい
…キュヒョナにずっと触れていたい
つぎつぎメッセージが飛んでくる
びっくりして部屋の中のヒョンを目で追うと
片眉を上げておどけた顔をしたヒョンが
チュッと投げキッスをしながらまた送ってきた。
…一分一秒でも早く愛し合いたい
「…」
…なんだよこれ…バッカじゃない?
そう思いながらも頬が熱くなり紅潮している自分が
なんだか恨めしく思った。
「ねぇ…いつもそんなやり取りしてんの?」
ヒョクが俺の肩口から顔を覗かせ、画面をなめるように見ていた。
「ヒョ、ヒョク?!」
夢中で画面を見つめていたので気が付かなかった。
俺は慌ててiphoneをロック状態に戻した。
「相変わらずシウォン先生のラブパワーはすごいねぇ~」
ヒョクが目尻を下げニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。
「べ、別に…あの人がなんかひとりで盛り上がってるだけだよ。」
「ふ~ん。無理しちゃって…」
「む、無理ってなんだよ。」
「別にぃ~。認めなくても周りからみたらバレバレだから。」
「バレバレ?」
「そ。バレバレ。キュヒョナは正直なのに素直じゃないからな。
ほんっとめんどくさいよな。」
そう言うと、ヒョクが俺の肩を抱き頭をポンポンと撫でた。
「リョウクといいヒョクといいウザいよ。」
俺は下をむきながらそう言うと床を蹴り
ヒョクの脇腹に軽くパンチをお見舞いする。
ヒョクはうっ!と呻き体を屈めおどけた。
「まったく…ほんとムカつくよな。」
俺はそういうと頭をかいた。
「ねぇ~、早くおいでよ。」
リョウクが部屋の中から俺たちを呼んだ。
「そうだ。今日はみんなここに泊まることになったからって
お前を呼びに来たんだった。とりあえず中に入ろうぜ。」
ヒョクが部屋の中を指さした。
「ん…」
ヒョク越しに見えるヘンリーをどうしても意識してしまう。
それを知ってか知らずか
「あっ、そうだ。ヘンリーに当たるなよ。」
と言ってヒョクが振り返り、俺を指さし念を押した。
「わかってるよ…なんだよ…」
俺はブツブツぼやきながらヒョクの後に続いて部屋の中へ入った。