「おい、大丈夫か?キュヒョン。」
キュヒョンの背中を摩りながらウニョクが心配そうに声を掛けた。
極度の緊張と信じられない現実の重圧で
キュヒョンの身体が悲鳴を上げ、胃が痙攣を始めるまでに
そんなに時間はかからなかった。
胃が空っぽになるまで吐いて、もう何も残ってないというのに
嘔吐感が収まらず、キュヒョンが大事にしている
ホテルの庭の秘密の場所に来ていた。
あまりの衝撃に見合いの場を逃げ出すように出てきてしまったのだ。
「ありがとうウニョク・・・」
キュヒョンは嘔吐の際の苦しさで、まだ顔色が悪かった。
「しっかし、びっくりしたなあ~・・・
まさかユジンと先生がお見合いだなんて。」
ウニョクがポツリと話し始めた。
「お前、先生から聞いてなかったのか?」
「うん。聞いてない。聞いてたら来てない。」
「だよなぁ~・・・」
「義理の弟になるんだってさ。俺。」
「義理の弟?」
「そう、弟。笑っちゃうよね。そんなの・・・」
キュヒョンはクツクツと笑い始めた。
「キュヒョン・・・先生は?先生はなんて言ってんだよ。」
「ヒョン?知らない。俺、なーんにも聞いてなかったし。
どうしたいんだろうね・・・ほんとに。」
-----そうだよ本当にどうしたいんだよヒョン。
また込み上げる嘔吐感に涙が出てきた。
でもその涙は本当はもっと違う涙だった。
「でもわかってるのはヒョンと俺、もう一緒にいられないってことぐらいかな。」
悲しいとか、腹立たしいとかそういう感情を通り越して笑いしか出なかった。
込み上げる笑いと嘔吐感でキュヒョンは感情をコントロールできなくなっていた。
「キュヒョン・・・お前・・・」
ウニョクはそんなキュヒョンの背中を撫でてやることしかできなかった。
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「で、どうするのかしらあなたは。」
『同じことを聞きたいな・・・俺は。』
「決まってるじゃない。これは両家にとってまたとないチャンスで
私たちがどうのこうの言える状況じゃないってもちろんわかってるわよね。」
『ですね・・・俺たちに選択権はない。これが両家に生まれた自分たちの務め。
俺たちのような立場である以上、子供の頃から自由なんてないからね。』
「そうよね。自分たち一族にとっていかに条件がよっくて、いかに将来性があって
いかに会社がより一層の収益を上げていくか。それがすべてですものね。」
『そうきっぱり言われると・・・わかっていてもなんだか寂しいな。ふふふ』
「あなたの所とうちが親族関係になる。それだけでこの国の経済が
どれだけ動くか。今頃このお見合い話が知れ渡って、競合する人たちは
大騒ぎしてるでしょうね・・・」
『俺たちって・・そんなすごいんだ。』
「そうよ。知らなかった?」
『そうですね。知ってました。』
「まったくあなたって・・・相変わらずね。」
『ヌナこそ。アメリカでお会いしてた頃もだけど、ますますお綺麗になって。』
「相変わらず口が達者ね。」
『いえいえ。俺は本当の事しか言わない。知ってるでしょ?』
「そうね。あの頃からあけっぴろげで、すべてにおいてストレートで・・・」
『あの頃話してた事がこうして現実になった。』
「えぇ、ふたりで決めてたわよね。覚えてる?」
『えぇ・・・”絶対家の言いなりにはならない。
私はあなたとは一緒にならない。”ってあれだけはっきり言われれば
誰だってわかる。本気で口説こうと思ってた僕は傷ついた。』
「いやよ。あなたなんて。いっつも誰かが側にいたじゃない。
まぁ、よくもひっかえとっかえ、呆れるくらい。
それにあなた・・・本当は私になんて興味ないくせに。
それは今も昔も変わらないわね。まったく。」
『そんな事ない。あなたは昔から輝いてましたよ。』
「あなたが言うと全く嫌味に聞こえない。むしろいい気分になるわね。」
『それ、誉めてますよね?』
「まさかっ!私が人を誉めるなんて。特にあなたをね。」
『相変わらず手厳しいな、ヌナは。』
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「おい、キュヒョン!今の聞いたか?!」
「・・・・・」
「あの2人、昔から知ってるみたいだぞ。アメリカにいた時の話ししてるし。」
「うん。そうみたいだね。そんな事一言も言ってなかったのに・・・」
また、キリキリ痛む胃を押えながらキュヒョンがつぶやいた。
2人が休んでいるホテルの庭のすぐそばにシウォンとユジンがやってきた。
気が付いた時にはそこからら立ち去れる状況じゃなかった。
俺たちはバカみたいに植木の陰に隠れてるみたいになってしまった。
そして最悪なことに、いやでも二人の話しが耳に入って来る。
-----そうだよな。
同じ年代の男女。
もう、昔からレールは決まってたんだ。
両家の発展にとってまたとない話。
昔から決まってたことなんだ。
後はタイミングの問題だったんだ。
そのタイミングが今。
「だったらなんでヒョンは俺を・・・
ヒョンは俺の姉さんと結婚しなくちゃならないって
わかってたのに、なんで俺を・・・」
キュヒョンは長男だし本当ならばシウォンと同じ立場。
キュヒョンだって昔から両家のご子女ってやつと
いつか結婚させられるんだと思ってた。
でも両親は俺じゃなくユジンに後を継がせることを決めた。
その時からキュヒョンは自由だった。
だからそんな事を考えてなかった。
-----やっぱりヒョンの手を取るべきではなかったんだ。
「今朝まで俺、すっごく気分よかったのに・・・なんだよこれ・・・」
キュヒョンが思わず見上げた空はどこまでも遠く青く澄んでいた。
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ちょっとインターバルありましが
アプできたよかった(;´▽`A``