「なんだヒョクか・・・何してんの?」
3日間意識が戻らなかったキュヒョンが
4日目に目を覚まして発した第一声がこれだった。
「なんだじゃねぇよ!おいキュヒョン!このバカ野郎!
心配かけんじゃねぇよ・・・」
涙を浮かべながらウニョクがベットに横たわるキュヒョンに抱きついた。
「え?なんだよお前。抱きついてんじゃねぇよ・・・」
「うるせぇ!おれ、先生呼んでくるわ。そのまま動くなよ!」
忙しなげにウニョクが去って行った方向を眺めながら
キュヒョンは今の状況を理解しようとしたがダメだった。
俺、なんで点滴に繋がれてるんだろ・・・
ぼーっと点滴のバッグを見上げた。
ウニョクが戻ってくるとその後に続いてぞろぞろと知った顔が集まってきた。
みんながキュヒョンの顔をみて”よかった”と抱き合ったり、握手したり・・・
その状況に面食らって”なにかあったのか?”とキュヒョンが聞くと
みんなが一瞬”ぎょっ”とした顔をしたので、ますます混乱した。
イトゥク先生が気分はどうだと聞きながら全身のチェックを始めた。
「えっと・・・大丈夫だと・・・」
「手足しびれてないか?」
「えぇ・・・なんとも・・」
「そうか・・・まぁ、一安心だな。とりあえず、CT撮るからな」
片えくぼを作ってイトゥクは笑い掛けた。
えくぼ・・・
あれ?いない?
・・・ヒョン
あれ・・・ヒョンは?
そう聞こうとしたら外の方で物をひっくり返す音とバタバタと走る足音が響き、
みんなが一斉にその方向を見ると血相を変えたシウォンが飛び込んできた。
「おっ、きたきた!」
「騒がしいやつだなぁ・・・」
『キュ、キュヒョン!』
ベットの上に座っているキュヒョンをみてシウォンが入口で止まった。
そんなシウォンをジッと見つめたキュヒョンが
「シウォナ!指は?ねぇ、指は大丈夫なのか?」
突然何かに弾かれたように叫びベットから降りようとした。
「あっ、待てこら!」
「ダメだ!!」
「動くな!」
「ちょちょちょ・・・」
みんながキュヒョンを静止した。
「え?何で?」
キュヒョンが戸惑っているとみんなを割って入ってきたシウォンが
目の前に立っていた。
『キュヒョン・・・キュヒョン・・・』
「どうしたんだよ・・・みんなみてるじゃんか・・・」
シウォンに抱きすくめられたキュヒョンはちょっと恥ずかしかった。
☆
今日はキュヒョンの生還祝いとなんだかわからない仕切り直しの会。
だそうで、チョウミのホテルの一室を借り切ってみんなが集まった。
リョウクがいろいろセッティングしてくれて、
イェソン先生が何やら顎で使われてるように見えるが、
なんだか楽しそうだからやらせておけとヒチョルがからかった。
「にしてもよぉ~、あの後のお前らときたら・・・
俺たちがいるのも忘れておっ始めちゃうんじゃないかと思ったぜ。
あそこは病室だっつーの!」
ヒチョルの大きな声が部屋中に響いた。
シウォンは”何か問題でも?”と言わんばかりに肩をすくめながらおどけて見せた。
「別れるの何のってさんざん騒いでたのによぉー。」
とヒチョル。
「そうそう。だいたいあの騒ぎの発端を当の本人が忘れてるし。」
とウニョク。
「結局お互い惚れ込んでるっつーのに何であんなもめたんだ?」
とヒチョル。
「っつか、なんでいつも俺らまで巻き込まれるんだ?」
とウニョク。
「それはお前らが究極なおせっかいだからだろ~が!」
と笑うイトゥク。
「にしても、あの時のイトゥクはさぁ、さすがだったよね。」
とドンヘ。
「うんうん。すっげーかっこよかった!!
みんなを一発で黙らせたの動画とっておきたかったぁ~」
とウニョク。
「だから言ってるだろ・・・こいつが一番こぇーんだって・・・」
と首をすくめるヒチョル。
みんながヒチョルの意見にうんうんと頷いていると
キュヒョンが部屋に入ってきた。
どうしても寄るところがあると言うことで別々にここへ来ることにしていた。
「お!主役の登場だな!」
みんなが拍手で迎えた。
「やめてよ・・・そう言うの・・・」
照れたキュヒョンが頭を掻いた。
部屋の中が優しい空気で包まれた。
「よし、じゃぁ、キュヒョンの生還祝いとこれからの二人にと・・・
俺らの平和に・・・乾杯!」
イトゥクの一声でみんなグラスを合わせながら乾杯と唱えた。
その後、キュヒョンはからかわれっぱなしだった。
記憶が定かでない分言われてもしかたないとあきらめた。
みんなに心配かけたのは確かだし・・・
ヒチョル先生はイトゥクに怒られたにも関わらず
相変わらず過剰なスキンシップで周りをやきもきさせたが
イエソンがこいつに効く薬はないというのでみんな諦めていた。
今も顔の傷を見せてみろと言いながら鼻とは鼻がぶつかるんじゃないかって
くらい顔を近づけてまじまじと眺めている。
キュヒョンはソファーの背に追いつめられて身動きできなく
目でみんなに助けを求めた。
最後はドンヘとシウォンがヒチョルの頭を小突きながら引き離してくれた。
「なぁ、とってきたのか?」
ウニョクがそっと耳打ちしてきたので”うん”と頷きながらポケットの中で
小箱をギュッと握った。
キュヒョンが退院して家に帰ってからのシウォンは
なんとなくよそよそしくて、ある程度の距離感を保っていた。
今日も隣にいることはなく、敢えて距離を取っているように思え
キュヒョンからもどうしても近寄ることはできないでいた。
いつもアクションを起こしてくれるのはシウォンで
自分はいつもそれに甘んじて流されて・・・
気が付けばシウォンにいつも守られているばかりだった。
そんな自分が不甲斐なくて、シウォンにとっての自分の存在意義が
わからなくて、不安と焦燥感に苛まれて独りアタフタして、
で、結果ボタンを掛け違えなんだか大事になってしまって・・・
が、今日のキュヒョンは一大決心でタイミングを見計らっている。
本当は2人の時がいいのかとも思ったけど、
どうせならみんなの前で堂々と・・・
と開き直ることにした。
自分達にとって、なんだかそうすることが一番だと感じていた。
「ヒョク・・・俺、どうにかなりそう・・・」
「大丈夫だって。ちゃんと受け取ってくれるよ。受け取るに決まってるじゃないか。」
「あぁー心臓止まりそう・・・」
「大丈夫大丈夫!止まってもどうにかなって。ここに名医がいーっぱい集まってるから。」
「あぁ。確かに!・・・ってシャレになんないじゃん。」
ウニョクが緊張をほぐしてくれる。
でも結局何もできないまま時間だけが過ぎていき・・・
「キュ~ヒョン!はいこれ!」
「あっ。リョウク。ごめん。お礼も言わず・・・今日はありがとう。」
綺麗な色のカクテルを持ってきてくれたのはリョウクだった。
「ううん。こういうの僕大好きだから。みんな楽しんでくれてて嬉しいんだ!
ねっ、これ飲んでみて!ちょっとしかアルコール入ってないけどリラックスできるから。」
「え?」
「なんかキュヒョン、ずっと・・・リラックスできてないみたいだから。」
「え?いやそんな事・・・」
「そう?ならいいんだけど・・・でもそれ本当においしいから飲んでみてね」
ふふふ・・・リョウクが何もかもお見通しって顔で笑った。
リョウクのさり気ない気遣いがうれしかった。
手渡されたカクテルをグイッと飲み欲し、
「よし!」とばかりにキュヒョンは立ち上がると、
「よし!その意気だ。ファイティン!」
とウニョクがキュヒョンのお尻を叩きガッツポーズを見せた。
力がちゃんと入らない足を何とか交互に前に動かし
みんなと一緒にいるシウォンの方へ向かった。
みんなと談笑してるシウォンはクソが付くほどいい男に見えた。
すべてが完璧に見えた。
そのフォルムは何度見ても惚れ惚れする。
胸がドキドキして心臓が口から飛び出しそうだ。
「あの。シウォン先生・・・話があるんだけど・・・」
ポケットの中の小箱をギュッと握りしめ意を決してシウォンに声を掛けた。