漏れ聞こえてくる話の内容からして、オペの事らしい。
専門用語と英語を交えて話すシウォンはすっかり
”ドクターシウォン”モードだ。
(そう言えば今日大きなオペがあるんだっけ。)
そう思いながらテーブルについた。
目の前にはおいしそうな料理が並んでいた。
先に食べてもいいのかわからず料理を眺めていたら
シウォンがこちらに気が付き
「先に食べてて。」と合図をくれた。
シウォンと一緒にいると、周りの状況が見えなくなって
しまうので、なんだか急に現実に戻された気がした。
でも今はそれがなんだかホッとする。
気まずい空気のままここを出るなんてとても無理だったか ら。
キュヒョンはグラスにつがれてあったオレンジジュースを
一気に飲み干した。甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がり、
空腹の胃に染み渡った。
(チョウミに後で連絡しなきゃ・・・)
そう思いながらため息をついた。
「どうした?そんな大きなため息ついて」
顔を上げると電話が終わったシウォンが目の前に座っていた。
「大丈夫ですか?何かトラブル?」
「うん、いや大丈夫。2~3確認ごとがあってね。」
そう言って気をそらそうとしているが、
かなりナーバスになっているのがわかる。
「今日、そんな大きなオペあるってのに、こんなとこいていいんですか?」
「え・・・?あぁ、大丈夫だよ。」
そう言いながらシウォンはクロワッサンを手に取り食事を始め た。
キュヒョンはシウォンの指を眺めながら
(自分の方がきれいな指してるじゃないか・・・)
そんなことが頭をよぎった。
「キュヒョナは今日、夜勤だっけ?」
「えぇ、そうです。先生のオペ受けです。18時には病棟に入ってないと・・・」
「そうか。俺はこの後ちょっとよるところがあって、そのあと病院に入るんだけど、キュヒョナは?一度家に戻る?」
「ううん。この後ウニョクと一緒に買い物が・・・」
「いつもの・・・?例の・・・?」
「あ・・・うん。仲間がみんな集まるから・・・」
「ふーん・・・仲間ねぇ・・・」
「そう。仲間。」
シウォンはこの話になるとちょっと・・・
いやうんと機嫌が悪くなる。
だから今日もまた・・・
「仲間ってみんな男 だったよね・・・」
「うん。そうですよ。前にも説明しましたよね?」
「そうだったかなぁ~・・・ふーん。仲間ねぇ・・・」
「ウニョクもいるし。なんだったら、先生も今度一緒に行きますか?」
「ウニョクねぇ。
あいつもな・・・今度って、
なんで今日じゃダメなんだろうねぇ・・・」
「え・・・?だって先生今日は大事なオペが・・・」
「いや、いいんだよ。邪魔しちゃ悪いからなぁ。
せっかくの仲間たちとの楽しい時間を邪魔するなんて
俺に出来るわけないだろ?はぁ・・・なのにキュヒョンは
俺にそんなひどい人間になれっていうのか・・・?
あぁ、なんてひどい話なんだ。愛するキュヒョンが俺に
そんなひどいことさせようとしてるなんて・・・」
そう言ってシウォ ンは大げさに肩を竦め嘆くポーズをして見せる。
これも毎度の事・・・
キュヒョンは大きくため息をつき、席を立ち、
テーブルの向こう側に回り、シウォンの前に立ち、
その手を取り自分の腰に回し、
「先生・・・大丈夫。先生はいつもの通り自分を信じて。
俺、病棟で待ってますから。戻ってくるの待ってますから。」
そう言ってシウォンの頭を胸に優しく抱きしめた。
そう。
俺にはシウォン先生が必要で、
シウォン先生にも俺が必要で、
もしその気持ちが一緒であるならば
それでいいじゃないか・・・
もし、それが明日まででもこの先ずっとでも
とにかくお互いを必要だと思い、感じている間は
こうして一緒にいればいいんだ。
一緒に笑い、一緒に悩み、すべ てを分かち合う。
それでいいんだ。
俺、何悩んでたんだろ・・・
「先生・・・俺、ずっといますから・・・
ずっと先生のそばにいますから・・・
ずっとそばにいさせてくださいね・・・
約束ですよ・・・」
キュヒョンの思いがけない言葉に
目を大きく見開きながら頭を上げたシウォンは
キュヒョンの顔を見上げながらこうつぶやいた・・・
「キュヒョン・・・俺の天使・・・
死が二人を分かつまで・・・」
シウォンはキュヒョンが好きだというえくぼを作りながら
嬉しそうに微笑んでいた。

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