東京はますます特権的になろうとしています。
日本の戦後史の転換点となる1964年(昭和39年)東京オリンピック。カラーテレビ、新幹線、首都高速道路、東京モノレール、代々木総合体育館など多くの事物がこのオリンピックに向けて作られ、そして残されました。 当時の熱狂を知らない自分としては小説としてではなく、どちらかというと当時の国民の熱狂、土木・建築工事の様子を知る資料としてわくわくしながら読ませてもらいました。 日本が正しく“国としての威信”を賭けた世界的一大イベントが巻き起こした狂騒は、確かに多くの遺産を後世に残したのでしょうが、この『オリンピックの身代金』ではその遺産を作るための駒となった労働者たちに焦点が充てられています。 戦後復興から経済成長を経て、経済大国としてのし上がった日本の裏に埋もれていった歪みとは何なのか。階級格差、地域格差など現在でも未だに残る問題について、東京オリンピックという表の歴史から切り込んだ着眼点はさすが奥田英朗という感じです。 2つの時間が平行進行する構成はちょっと複雑で、切り替えるために余計な頭を使う必要があるために、興を削がれてしまう気もしますが、全体としてはタイトル通り“空前絶後の大犯罪”が成されていく下地、課程、収斂と醍醐味溢れる一冊になっています。 ミステリー好きにも、東京という都市や文化に興味のある人も楽しめると思います。 評価< >>奥田英朗@amazon | ![]() |
