最近自宅に3Dプリンターが届きました、静丘です。
あけおめです。
先日の大晦日に、EdelSoundsでいつも素敵な歌詞を書いてくださっているはるうらさんからこんなDMが届きました。
Retrospectionに収録した砕月アレンジの「忘れじの故郷」は個人的にも好きな曲で、砕月のフレーズを聴いてからすぐに思いついて勢いのまま一気に仕上がった曲。和風なフレーズの中に、様々な比喩や仕込みのある味ある歌詞なので、興味ある方は解説も是非ご覧ください。
ホームページの歌詞ページにも載せてますが、ブログの方にも原文のままで載せておきますね。
君ゆく道の上に霧立たば
我が嘆く息と知りたまえ
僅かのこる薫りの果ては
忘れじのふるさと
『君が行く海辺の宿に霧立たば
吾が立ち嘆く息と知りませ』
(萬葉集・巻15・3580 遣新羅使人妻)
『霧』=萃香は霧になって萃夢想の異変を起こした
鳥あそぶ水の面に浮かぶ陽は
恋いし人の面影に似て
散りただよう光の先は
忘れじのふるさと
伊勢物語・第九段
『さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き鴨の大きさなる、
水の上に遊びつつ魚を食ふ』
『名にし負はばいざこと問はむ都鳥
わが思ふ人はありやなしやと』
(古今和歌集・羇旅・411 在原業平)
春は曙、夏は月の夜
かたちを変え往き過ぎる世に
そらも知らぬ我らだけが
永久に君をさがす
枕草子冒頭
『そら』=嘘(そらごと。鬼は嘘が嫌い)
=天空(鬼は地底に移り住んでいる)
君ゆく道の上に霧立たば
我が嘆く息と知りたまえ
僅かのこる薫りの果ては
忘れじのふるさと
鳥あそぶ水の面に浮かぶ陽は
恋いし人の面影に似て
散りただよう光の先は
忘れじのふるさと
人のこころの色のうつろいは
咲く花より儚いけれど
風につどう魂の響きは
褪せぬように願う
『人はいさ心も知らず
ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける』
(古今和歌集・春・42/小倉百人一首・35 紀貫之)
あわれなど知らざりしこの身にも
歌のたねを育みし人
君と遥か愛せし国は
今も盛りであれ
古今和歌集・仮名序
『力をも入れずして天地を動かし、
目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、
男女のなかをもやはらげ、
猛きもののふの心をもなぐさむるは、歌なり』
『あをによし奈良の都は
咲く花のにほふがごとく今盛りなり』
(萬葉集・巻3・328 小野老)
秋の夕暮れ、冬のつとめて
ともに眺めし色や匂い
千歳数えてもこの目に
清らかに輝く
枕草子冒頭
ひさかたの天の原振り仰ぎ
流れ落ちる想いの雫
今は昔、一期は夢よ
忘れられゆくもの
『天の原振りさけみれば
春日なる三笠の山に出でし月かも』
(古今和歌集・羇旅・406/小倉百人一首・7 安倍仲麻呂)
今昔物語集など説話集お決まりの冒頭
『今は昔~』
『何せうぞ くすんで
一期は夢よ ただ狂へ』
(閑吟集)
うつくしきものの名もすべて皆
消えてゆくが時のことわり
我まぼろし、我こそ夢よ
忘れられゆくもの
伊吹萃香の二つ名
『萃まる夢、幻、そして百鬼夜行』
人のこころの色のうつろいは
咲く花より儚いけれど
風につどう魂の響きは
褪せぬように願う
君ゆく道の上に霧立たば
我が詠う息と知りたまえ
僅かのこる薫りの果ては
忘れじのふるさと
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あなたの生きる日々の中に、もしも霧が立つのを見ることがあったなら、
私があなたを思って泣いている息だと思ってください。
微かにだけれど覚えている、一緒にいたあの頃に見た花の香り、
それをたどっていったら、あなたのいる懐かしい故郷に、帰れるのでしょうか。
水鳥の遊ぶ川面に浮かぶ、美しい夕陽を見ていると、
きらきらと笑っていたあなたのことを思い出すのです。
水の上に散って漂う、その光の流れを追っていったら、
あなたのいる忘れられない故郷に、帰れるのでしょうか。
春は夜明け頃が良いというし、夏なら月夜が良いというけれど、
そうやって移り変わってゆくこの世界で、
変わることも出来ずに、かといって嘘でごまかすことも出来ない私達は、
ずっとあの頃のあなたを、
私達鬼と同じ世界で生きていた頃の人の心を、探しているのです。
人の心というのは、咲く花の命よりも儚く移り変わってゆくものだというけれど、
風に乗せた私の気持ちに応えて集まる、その魂は色褪せないで欲しいと願っています。
『もののあわれ』なんてものは知らなかった、粗野だった私達鬼にも、
世の中のものごとを愛でたり悩んだり、
その心を歌にしたりすることを教えてくれたのは、あなたなのです。
遠いあの日々、人も鬼も同じ気持ちで生きていた私達の日本は、
今も美しいままでしょうか。どうかそうであってください。
秋の夕暮れの景色や、冬の朝がたの趣き、
それぞれの季節の輝きを、あなたと一緒に眺めて過ごしていたあの時代。
もうあれから千年くらい経ってしまったから、
あなたは忘れてしまったかもしれないけれど、
私は今でも、昨日のことのように、綺麗なまま思い出せるのです。
あなたのことを思いながら月を見上げると、涙がこぼれます。
今ではもう何もかもがすっかり昔のこと、まるでひとときの夢のよう、
忘れられてしまっても仕方がないのでしょうね。
どんなに素晴らしいものでも、その名前さえ、
いつかは消え失せてゆくのが時代の摂理。
私達のような存在こそ、夢まぼろしであり、忘れられてゆくものなのでしょうね。
人の心は移り変わってゆくものだから、
あなたは
私達のことなどもう忘れてしまったでしょうけれど、
もしも霧の立つのを見ることがあったなら、
私達があなた方に教わった歌を歌っているのだと思ってください。
忘れられない、あなたのいる故郷を思って歌っているのだと、思ってください。
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人の記憶から、そして幻想郷からさえも忘れられた鬼は、
忘れられたことを知ったとき、もう共に生きることはできないと知ったとき、
どんな気持ちで私達人間の歩む道を見たのでしょう。
かつては鬼や妖とも共に謳歌したのであろうこの日本で、
私達人間は今、何を忘れ、何を失い、何を得たのでしょう。
私達のご先祖様達が遺してくれた、この美しい国の歌や言葉の数々をお借りしながら、この歌をかきました。
『日本に生まれてよかった』『故郷に帰りたくなった』『記憶にない筈の景色を思い出す』
そんなご感想を、色んなところで拝見しました。嬉しい限りです。
地元離れて暮らしてる皆、たまには地元に帰ろうな!
ご依頼くださった静丘さん、歌ってくださったせつさん、
砕月という素晴らしい曲を生み出し、伊吹萃香という愛しい鬼を私達のところへ遣わしてくださったZUN様、
きいてくださったたくさんの皆様、
本当に、ありがとうございました。
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