翌日、瑞希は真司に言われたとおり、彼が現れるのを待っていた。
一時を過ぎた頃、彼がインターホンを鳴らした。
彼は上には行かず、下の入り口で待っていた。
「今日はバイクじゃないの?」
辺りに、彼のバイクは見当たらなかった。
「…嫌いなんだろ?」
真司はそう言うと、さっさと歩き始めた。
瑞希は、彼が昨日に続いておかしいと思った。
しかし、取り敢えず黙ってついて行くことにした。
会話もほとんどないまま四十分ほど、二人はバスに乗り、汽車に乗り、そして歩いた。
するとやがて、瑞希も知っている町に辿り着いていた。
そこは、真司も幼い頃に住んでいた、瑞希の実家に近い場所だった。
「何考えてるの?何か企んでるんでしょ?」
瑞希は少しふざけるように尋ねた。
「…ちょっと用があってさ、こっちのほうだったから瑞希ちゃんも一緒に…」
真司は言いかけてやめた。
彼はそれから一言も喋らず、再び黙々と歩いた。
辿り着いたのは、ある霊園だった。
墓標の並ぶ中、一所に、若者が数人集まっている光景が見えた。
真司も、そこへ向かった。
瑞希はなんとなく不安な思いに駆られながら、彼の後について行った。
真司は傍まで行くと、そこにいる人たちに軽く会釈した。
圭介を始めとする、その仲間たちだった。
中には、初対面の者もいた。
「来てくれたのか?」
笑顔でそう言ったのは、圭介だった。
「はぁ、ちょっと…」
真司は歯切れ悪く答えた。
瑞希は真司の後方で立ち止まり、彼に隠れるようにしていた。
しかし当然気付かないはずがなく、豊が前進してきた。
「なんだ?オマエの彼女?」
ニヤニヤしながら瑞希のほうを覗き込み、からかうように彼は言った。
「そんなんじゃないすけど…」
「年上?じゃあ、まさか姉貴?」
豊は二人の顔を見比べながら、今度はそう言った。
「いいじゃないっすかっ!…なんでもっ…」
するとムキになって、真司は否定した。
彼がケンカでも始めやしないかと、瑞希はハラハラしていた。
それで宥めようと前に出た時、彼女は立っている人々の隙間から、墓標の文字を垣間見た。
そこには、『中里和也』という名が刻まれていた。
紛れもなく、和也の墓なのだ。
それを見た瞬間、体中が金縛りにあったように敵わなくなった気がした。
「あぁ…、和…也、くん…?ウソ…どうして…?」
彼女は混乱して、両手で頭を抱え込んだ。
「…瑞希ちゃん」
真司は、彼女の驚き方が予想以上だったことに戸惑った。
その様子を見ていた圭介は、すぐさま彼女と和也の関係を察した。
和也が自慢げに話していた恋人と、彼女の姿が重なって見えた。
彼は、弘人の出所といい、偶然じゃない気がした。
「和也の…?」
圭介は、ほぼ確信のもと、彼女のほうに一歩前進した。
瑞希は困惑した表情で彼を見て、同時に、鱗のような大粒の涙をポロポロと零した。
「…俺、アンタに聞いてほしいことが…」
圭介は救われたような思いで、そう切り出した。
「真ちゃんっ…!!」
それを遮るように瑞希はそう叫ぶと、真司の腕にしがみついた。
「瑞希ちゃん?」
この時、後方から直巳と海も現れ、みんなのほうへ近づいて来ていた。
直巳は彼らに気付くと手を振りながら、陽気に笑っていた。
海のほうはすぐに瑞希に気付き、不思議そうに見ていた。
なぜ彼女がここにいるのか、理解できずにいた。
瑞希も、ちょうどそちらを向いていたので二人が見えたらしく、海と目が合った。
それでようやく、彼は彼女が泣いていることに気付き、何が起こっているのか把握しようと考えをめぐらせた。
「な~にみんなして女の人泣かしてんの?ヒデーなぁ」
直巳は冗談混じりに、笑みを浮かべながら言った。
「クソっ…!瑞希ちゃんごめん。もう帰ろう」
真司は、こんなつもりではなかった。
彼女がこれほどショックを受けるなど、想像もしていなかったのだ。
彼は瑞希の手を取ると、帰ろうとした。
「待てよ!彼女と話したいんだ」
圭介は焦って、行かせまいと瑞希の腕に手をかけようと伸ばした。
「触んなっ!」
すると真司は大声で怒鳴り、瑞希を庇うように自分のほうへ引き寄せた。
圭介がそれ以上何か言おうものなら、殴りかかりそうな形相で睨んだ。
まさに、一触即発の状態に陥ってしまった感じだった。
瑞希は真司の手を解き、自分の肩を抱いて身を縮めて泣いた。
「真司…?」
笑顔だった直巳のそれは消え、落ち着くように宥めようとした。
「…一体どうしたんだよ?」
冷静に、そう尋ねた。
「コイツが瑞希ちゃん泣かしたんだよっ」
真司は圭介から目を逸らさず、責めるように言った。
「…圭介さん?」
直巳は困り果てた感じで、今度は圭介に目を向けた。
「…ああ。…和也が死んだって、知らなかったんだろ?」
反論もせず、彼は瑞希のほうを見て尋ねた。
しかし、彼女は顔を伏せたままで、何も答えようとはしなかった。
真司はグッと強く、拳を握り締めた。
「…辛いなら、一緒に行こうか?」
傍らから静かな声が聞こえ、瑞希は顔を上げた。
海が、そこに手を差し伸べていた。
真司を始め、みんなが呆気に取られて見ていると、瑞希は黙ってその手を掴んだ。
何が起こっているのか、真司には理解できなかった。
なぜ海が瑞希を助けるのか?
そしてなぜ、瑞希がその海の手を、いともあっさり受け取れるのか?
触れられることを、あんなにも拒むくせに……。
呆然としている隙に、二人は手を取り合って走り出した。
「!なっ…?!」
ハッとして、真司は後を追いかけた。
「海っ!?…真司っ!」
直巳は、追いかけようにも足のギプスが重く、数歩走ったところで諦めた。