「屍人荘の殺人」 観てきました。
ネタバレ満載の記事ですので、原作or映画を観てから記事に入ってください。
未読・未視聴の方は死んでください。コミカライズ派も死んでください。
まず、今年私が劇場で観た映画は下記になります。
「アラジン」
「天気の子」
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
「かぐや様は告らせたい」
「ハローワールド」
「ガールズアンドパンツァー」
「地獄少女」
「屍人荘の殺人」
※視聴順番に並べています。
「ガールズアンドパンツァー」までは、期待外れ or 及第点の作品が並んでいて少し物足りなさを感じていましたが、その流れをブチ壊したのが「地獄少女」でした。
「地獄少女」を観た後は感動のあまりこのクソブログに感想を連ねようと思いましたがいざ記事にしようとなると面倒くさくて中断してしまいました。
ただ、この「屍人荘の殺人」 は「地獄少女」を遥かに超越しており、記事を書くに至った訳です。
少し回りくどい記事構成になりますが、近年の映画の予告って
「衝撃のラストを見逃すな」、「ラスト5秒ですべてが覆る」みたいな宣伝文句って多いですよね。
劇場で作品の予告映像を観ていると、大体そんな宣伝が流れてきます。
「ハローワールド」なんかもその宣伝文句でしたが、実際に観た感想は「確かに覆ったけど…だから何?」って感じで終わります。
本当の本当にラストで今までの話を覆すから、余韻に浸る間もなく、覆ったの見せられてすぐエンディングなんですよ。
「屍人荘の殺人」 もこの手の宣伝文句を採用した作品で、予告映像では「ネタバレ厳禁」とデカデカ書かれているわけです。
https://youtu.be/yzjS8bLrtIc
私はこの予告映像を劇場で何回も観ており、下記のような話なのかなと思っていました。
「ペンションでのクローズドサークル物」
「ペンションで殺人が発生し、主人公(ホームズ&ワトソン)と女探偵が事件を解決していく」
「実は事件はペンション内だけでなく、外の世界にも伝搬していた」
ここで色んな妄想が働く訳ですよ。
「何がきっかけでクローズドサークルが発生するのか」
※別に予告でクローズドサークル物とは書かれていませんが。
「女探偵がどういう役割なのか。実は犯人と繋がりがある?」
「ペンション内で何が起きたのか。何が外の世界にも伝搬したのか」
※「外の世界」については野外で倒れている人の映像から連想しました。
ただ、映画を観て驚いたことに
全く予想していなかった展開が急に襲っていきました。
しかもその展開は起承転結の承の段階でやってきます。
普通「転」で予想しなかった展開がやってくるでしょう。
ミステリー物なんだから、「承」で「事件」が起こることなんか想定内です。
「殺人事件が起きて、その事件には実は凄い陰謀が隠されていた!!」とか
「絶対にありえない密室殺人を皮切りに、どんどん殺人の連鎖が続いていく」
みたいな感じで、事件なんて導入にしか過ぎないんです。
お楽しみは「事件」を皮切りに始まった物語の意外な進展です。
しかし、先ほども述べた通り「屍人荘の殺人」は初めからクライマックスです。
以下、本当にネタバレ注意。
絶対にネタバレ無しで原作or映画を観た方がいいです。
コミカライズ派は死んでください。
いきなりゾンビが襲ってきます
冷静に考えるとありえないでしょう。
これがバトル物とかSF物なら分かりますよ?
でもこれは「ミステリー」です。
「ミステリー」は絶対的な理論に基づいて物語が構築されるべきです。
その「ミステリー」に非科学的なゾンビが出てくるのです。
野外はゾンビで溢れかえり、人々はゾンビから逃れるために紫湛荘(しじんそう)というペンションに駆け込む、というのが「屍人荘の殺人」における「承」になります。
予告では野外映像が後半にあったため、どうしても「物語の後半で外の世界にも異変が起こる」という先入観を植え付けられるのですが、全くの逆です。
外の世界に異変が起きたからペンションに逃げ込んだ。全く予想していなかった導入でした。
※ゾンビに噛まれるとゾンビになるというお約束により、外の世界はゾンビだらけです。
そしてもう1つ予想していなかった展開、予告に出ていた眼鏡のホームズ役のキャラですが、ペンションに辿り着く前にゾンビに襲われてペンションに入ることができませんでした。
私は先に記載した通り、本作を「ペンションで殺人が発生し、主人公(ホームズ&ワトソン)と女探偵が事件を解決していく」と予想していましたが、そのホームズは舞台に立つことすらなくリタイアしたのです。
もうこの時点で最高の気分でした。まだまだ導入にも関わらず期待の遥か上を責めてきた為、この後の展開が楽しみで仕方ありません。
少し脱線しますが、ミステリー物は途中でダレることが多いです。
少しでもダレさせない為に定期的に人が死ぬという構成がメジャーですが、それにも限度があります。
最近のデスゲーム系に言ってやりたい言葉でもあるんですが、人が死ねば死ぬほど、「人の死の価値」が下がるんですよ。
だからミステリーは人を無意味に殺さずに、かつ緊張感を保ちつつ話を進行する必要があります。
この当たりの話構成においても「屍人荘の殺人」はお見事でした。
「屍人荘の殺人」はゾンビ物であった訳なんですが、しっかりとしてミステリー物でもあり、しっかりと「密室状況下におけるペンション内で人の意思による殺人」が発生します。
ここでの「密室状況下」とはペンションのクローズドサークル状態を指しており、通常のクローズドサークルは「大雪」、「陸の孤島」が鉄板ですが本作におけるクローズドサークルは他のミステリーではありえない「ゾンビ」です。
ゾンビによって外に出れない。閉じ込められたという点では「大雪」、「陸の孤島」と「ゾンビ」は同じです。
ただ「ゾンビ」である最大の利点が、ゾンビは「外に出れない」理由だけではなく、「ペンション内に侵入する」という恐ろしい要素も孕んでいることです。
「大雪」や「陸の孤島」は外に出れない、言わば密室を作るためのトリガーだけであって、密室の中にいれば「大雪」、「陸の孤島」が登場人物に危害を及ぼすことはありません。
ただ「ゾンビ」は登場人物に危害を与えるのです。
常に侵入してくる「ゾンビ」の脅威に怯え続けなければならない為、ミステリー物によくある中盤のダレが一切無い。
本当に見事としか言いようがありません。
更に感心したのが、「人を殺す理由」と「犯人を捜す理由」です。
話がブレない為に予め言いますが、ここでいう「犯人」は密室殺人を起こした犯人で、ゾンビが現れたこととは無関係です。
犯人もゾンビが来ることは全くの想定外で、「ペンションに宿泊し、特定人物を殺す」ことは計画していてもその手段までは全然用意していませんでした。
通常の密室ミステリーであれば犯人が人を殺す理由もありますし、犯人を捜さないと自分が殺されるかもしれないので必死に犯人を探すのも納得です。
ただ、「屍人荘の殺人」は全くそれに当てはまりません。
ペンション内には犯人とは全く関係ないゾンビが沢山いますし、ゾンビは人を見つけたら殺そうとします。
犯人が手を下さなくてもいずれは皆ゾンビに殺されるのに、何故わざわざ犯人は人を殺したのか。
犯人なんて特定したところでいずれは皆ゾンビに殺されるのに、何故わざわざ犯人を捜したのか。
詳細は割愛しますが、「ゾンビに噛まれたらゾンビになる」それを知っていたからこそ自分の手で殺すことに意味がある。
また、「ゾンビ」によって人の死の価値が薄くなってしまったからこそ、1人の死の原因を追究することに意味がある。
本当にうまい構成だなと思いました。
最期になりますが、物語の最後で主人公(ワトソン)と女探偵の前にホームズの後ろ姿が出てきます。
急いで駆け寄るワトソンですが、振り向いたホームズはゾンビでした。
この展開は大好物で、「死んだと思っていた大切な人が実は生きていた!」なんて甘ったるい結末ではなく、ゾンビなんて非科学的な物が出てきたにも関わらずゾンビに襲われた親友は無慈悲に死んでゾンビ化してしまった。そこのリアル感がたまらないです。
以上になりますが、結局何が言いたかったかというとコミカライズ派は死んでください。