私は一時、隣町まで電車に乗って出勤していました。某和菓子屋勤務をしていたのです。
早番と遅番があり、早番の時は朝六時起きなので、低血圧で夜型の私には辛すぎました。(涙)
九月に入っても暑い日が続いていました。
その日は早番、朝一人で店の開店準備をしなくてはならなかったのです。
カギを開けて掃除をし、お知らせボードを出して、ふと見上げるとノレンをかけるフックに茶色い枯れ葉が引っかかっている。
「?」
ほうきで落とさないととは思いましたが、妙に気になる。
よーーーく見るとそれはハチでした!
しかもどう見てもスズメバチっぽい。
「げ!! やべーよ。お客さん来るのにどおしよう!」
一気に血の気が引き、パニックになりかけました。
落ち着け、店長は三十分後に来るから、それまでの辛抱だ。
自分に言い聞かせるがどうにも気になります。あらためて見に行くと、数が増えているているではないですか!!
「うぎゃっ! だめだーーー! ひーーーー!」
彼らは同じ方向に頭をきちんと並べて、フック相手になにやらもぞもぞしています。
な、なんで? なんでこんな町のど真ん中でスズメバチが堂々とたむろってるんだ?
店の中を熊みたいにうろついているとようやく店長が出勤してきました。
「て、ててててん、店長! ハチです。ハチが入り口のところに! しかも体型からしてヒメスズメバチですうう!!」
店長は虫が大嫌いなのです。
小さなアブラムシでさえ泣きそうになったことがあるのだから、もはや顔面蒼白でした。
「いやーーーー! どうするっていうか、本部に電話!?」
急遽、本部に電話してどうするか聞きましたが
「ほうきで叩けないの?」
とのんびりした返事でした。
バカタレ! スズメバチはハチの中でも凶暴で、攻撃性が強いんだぞ!
髪や瞳が黒いだけでも機嫌が悪かったら刺しに来る時もあるのに!
心の中で絶叫していましたが、口では
「害虫駆除呼んでいいですか?」
と冷ややに許可を迫っていました。
さらに腹の立つことに、電話した害虫駆除の会社の人は
「アシナガバチじゃないの? スズメバチが巣を作る時期はとっくに過ぎてるからー」
とまったくやる気がないのです。
「過ぎてるって言ってもいるんだから、見に来てもらえませんか? だいたい、体の長さが女の小指ほどもあるアシナガバチっているんですか?!」
私が食ってかかると、
「そんな大きいの? ま、一応見に行きます。一時間後でいいですか?」という答え。
電話から手が出せるなら、キサマをタコ殴りにしとるわ!!!(-_-メ)
怯えと怒りの一時間後、駆除隊がやって来てフックのハチを見て一言。
「え、スズメバチや」
しかもこの業者、防護服も駆除剤も車には乗せていなかったのです。
本当に、見に来ただけだった!
私の怒りはピークに達していたがお客様もいる手前、スマイルは引きつりながらも絶やせない。
「駆除剤と防護服持ってきます」
さらに四十分後、ヒメスズメバチは十匹以上になっていました。
(たぶん。もう怖くて数えられない)
へっぴり腰の駆除隊がようやく到着し、とうとうスズメバチVS人間の戦いの幕が切って落とされました!
駆除剤がまき散らされ、ボタボタボターーーっとスズメバチが落下し、防護服に身を包んだ駆除隊が落ちた彼らを足で踏んづけて潰していくさまは、身の毛がよだつ光景でした。
「うへーーー」と呻いている私。
店長は声のない悲鳴を上げながら店のすみっこで震え上がっていました。
「巣を作りかけていたので取っておきました。しばらく気をつけてください。何匹か逃げたのでまた来るかもしれません。一応、スズメバチの嫌いなニオイを散布しておきます」
駆除隊は二センチぐらいの巣を見せてきました。
私はトング(和菓子をはさむ用具)で、へなちょこ駆除隊の鼻を思いっきりつまんでやりたい衝動に堪えながら、
「ありがとうございました」となんとか微笑んでみせました。
後で店長に「笑顔が怖い」と言われたましたがね。
後日、店長がぽつりと
「開店して十年以上になるけど、こんなこと初めてや」
【虫感知器】は動いているようです。はい。
余談ですが、九月頃は新しい女王バチが誕生しています。
新女王と共に群から外れたグループが流浪の旅に出るのです。巣のないハチは、どんな種類のハチであっても不安定で攻撃性が強くなるようです。
春のはじめ、初夏、秋の入り口にかけてはハチにはご用心。