先師の学説を後世に

 

 恩師牧口先生は、熱心な教育者であり、まじめな方だった。先生とは二十一歳のときから師弟の関係をもち、教育についてはお互いに研磨した仲である。

 先生は、始め人生地理学を書かれて、これが教育界で認められ、最後に創価教育学説にはいられて、『信仰と教育学説』を立て、教育者を中心に『教育者クラブ』がつくられた。

 わたくしは先生の学説を実験し、また実地に覚えた。

 なぜ本日,諸君に集まってもらったか。それは、牧口先生が、若いときからあの老年にいたるまで、身命を打ちこんでなされ、命がけでなされた価値論を、いままで口にしなかった。当時の人々にはわからないので、十年間伏せておいたのである。

 

 先生逝いて十回忌を迎えるが、これを記念して、全国大学へ価値論を発表したい。反響の有無にかかわらず、三十年、五十年後に必ず驚きの目をみはるものが出るだろう。あれほど真剣に社会に立脚した価値論である。偉大な人には見えぬはずがない。価値論を出すべきときがきたのである。教育学説も、社会学説も、根本は価値論である。

 

 わたくしの教授法が、牧口先生より劣るかもしれぬが、みなさんのなかで、これに共鳴する人は、これをもって生徒を教育してもらい、後世までも、先生の学説を残していただきたい。

 ただのひとりでもよい、ひとりから万人に伝わるのを待つのみである。わたくしが、このまま死ねば伝えようがない。わたくしが教育界を去って二十数年になるが、わたくしの知れるかぎり、あなた方とともに研究したい。

 

 この価値論は、必ず世界的に広まるものと確信している。

 

昭和28年6月23日

教育者懇談会

神田旧学会本部