即身成仏の大御本尊
戸田 一体、十界互具というものを立てて、一生懸命説く
目的は何だろう。仏が、十界を立てて説かれる目的は何だろ
う。
小平 凡夫の劣心に仏界を具する……。
戸田 われわれの劣心に仏身を具すから、仏の境涯は得ら
れる、仏になれるのだ、ということを教えんがために、十界
互具を説いたのです。その仏の目的を忘れて、修羅界に人間
界があるのかなんて……(爆笑) それで、われわれが地獄の
ような生活をしても、仏の境涯も得られるし、人間界も感ず
ることができると、そういうことを教えてゆくためのもので
はないかな、目的は。
小平 先生、僕たちの場合は、仏界というのが判らないの
です。われわれに仏界があるっていうことがどれだけ大事な
ことかっていう、それが判らないのです。仏界がある、ああ
そうですか、くらいにしか感じられないのです。
戸田 大御本尊様は「権・迹・本の釈尊の因行果徳の二法
を譲り与え給う」とそういうもんだが、仏さまで病気されて
いる仏さまもないし、貧乏な仏さまもないし、権教の仏だっ
て迹門の仏だってりっぱなものだ。そうすると、われわれが
貧乏しても大丈夫だ、体を悪くしても大丈夫だ、仏のように
なれるという確信が生まれてくるし、その通りにならなけれ
ばならない。
石田(栄) 安心します。(爆笑)仏界がなくて、そういう
苦しい修行をして、なるのだとしたら、もう、苦しくてたま
らないでしょう。
戸田 権・迹・本の仏と日寛上人様がおっしゃって、その
ような仏になれるといわれたのだから、なります。もっとも
末法の仏様は、日蓮大聖人様だ。大聖人様のように、あんな、
佐渡へ流されても、首を斬られるというのに「喜べかし」な
んておっしゃって生きてることに何らのご心配がないのだか
ら、あれが仏の境涯ではないだろうか。ああなれるっていう
だけではないか。そうでなかったら実際生きてて毎日心配ば
かりです。たとえ、病気になっても「なに大丈夫だ、御本尊
様を拝めば癒（なお）るのだ」とそれでいいのです。そして、安心し
切って生きてゆける境涯を仏界というのではないのか。それ
でいて、仏界に九界があるのだから、時に怒ったり困った
りもする、安心しきってるのだから怒るの止めたとか、何
とかというのではなくて、やっぱり、心配なことは心配す
る。しかし、根底がもう安心しきっている、それが仏なので
す。
神尾 私は今までずいぶん、心が不安できましたけれど、
まあふり返ってみて、安心の場合が少しできたかなと、思う
のです。永い間やって。肺病になっても、死んでも先は大丈
夫だと……。(笑)
渡部 だんだん信心生活してますと、地獄から餓鬼、そし
て修羅あたりに変わるというように、だんだん変わってくる
のでしょうか。
戸田 いや、だんだん変わるのではないのです。だんだん、
草木が育つみたいに変わるっていうことはない。今、地獄だ、
ああやっと阿修羅になれた(爆笑) なんていうのではなく、
九界即仏界だから。地獄・餓鬼・畜生・修羅というように、
だんだん出世したというのではないのだ。病気などで悩んで
た人も、御本尊様を受持することによって、すなわち、安心
しきった生命に変わるのだ。根底が安心しきって、生きてる
こと自体が楽しいというようになる。生きてる自身が楽しい
といったって、九界を具するのだから。時には、悩むことも
あるし、悩みが変わることもある。今まで自分のことで悩ん
でいたのが、人のことに変わることもある。
生きてること自体が、絶対に楽しいということが仏ではな
いだろうか。これが大聖人様のご境涯を得られることではな
いだろうか。首斬られるといったって平気だし、僕等なんか
だったら、あわてる、それは。あんな佐渡へ流されて、弟子
にいろいろ教えていらっしゃるし、開目抄や観心本尊抄をお
認めになったりしていらしていられるのだから、あんな大論
文を安心してなければ書けません。
石田(明) これはちょっと話が違いますが質問されたので
す、竜女は男になって成仏したというのです。大聖人様の仏
法は即身成仏だというので、悪人がそのまま成仏するという
のは、それではおかしいではないかというのです。実際問題
として、たとえばドロボウのままで成仏しっこないだろうと
いうことを感じましたのです。
戸田 「竜女」が男になった、変成男子とあります。あれ
は、男になったというより、「大乗を学する者はこれ男子な
り」というところからきているのです。女人でも悪人でも、
そのまま成仏しますよ。善人になってから成仏するなんて善
人なんていったって、何をもって定めるのか判らないのだか
ら。
石田(明) ドロボウのままでは、いくら題目唱えたって成
仏できないだろうというような考えをもったのですが。
戸田 題目上げれば、ドロボウなんかやめたくなくたって
自然にやめさせられてしまいます。(笑)
小平 それでは予定の時間になりましたので、これで終わ
りたいと思います。どうも長い間、ありがとうございました。
