八、方便品・寿量品読誦の意義
月水御書 (御書全集、一二〇一頁)
法華経は何れの品も先に申しつる様に愚かならねども殊に二十八品の中に勝れて・めでたきは方便品と寿量品にて侍り、余品は皆枝葉にて候なり、されば常の御所作には方便品の長行と寿量品の長行とを習い読ませ給い候へ、叉別に書き出しても・あそばし候べく候、余の二十六品は身に影の随い玉に財の備わるが如し、寿量品・方便品をよみ候へば自然に余品はよみ候はねども備はり候なり、薬王品・提婆品は、女人の成仏往生を説かれて候品にては候へども提婆品は方便品の枝葉・薬王品は方便品と寿量品の枝葉にて候、されば常には此の方便品・寿量品の二品をあそばし候て余の品をば時時・御いとまの・ひまに・あそばすべく候。
太田左衛門尉御返事 (御書全集、一〇一五頁)
此の方便品と申すは迹門の肝心なり、此の品には仏・十如実相の法門を説きて十界の衆生の成仏を明し給へば舎利弗等は此れを聞いて無明の惑を断じて真因の位に叶うのみならず、未来華光如来と成りて成仏の覚月を離垢世界の暁の空に詠ぜり十界の衆生の成仏の始めは是なり
次に寿量品と申すは本門の肝心なり、叉此の品は一部の肝心･一代聖教の肝心のみならず三世の諸仏の説法の儀式の大要なり、教主釈尊・寿量品の一念三千の法門を証得し給う事は三世の諸仏と内証等しきが故なり、但し此の法門は釈尊一仏の己証のみに非ず諸仏も亦然なり、我等衆生の無始已来・六道生死の浪に沈没せしが今教主釈尊の所説の法華経に値い奉る事は乃往過去に此の寿量品の久遠実成の一念三千を聴聞せし故なり、有り難き法門なり。
富士一跡門徒存知の事（御書全集、一六〇二頁）
一、五人一同に云く、如法経を勤行し之を書写し供養す仍って在在所所に法華三昧叉は一日経を行ず。
日興が云く、此くの如き行儀は是れ末法の修行に非ず、叉謗法の代には行ずべからず、之に依って日興と五人と堅く以て不和なり。
五人所破抄（御書全集、一六一六頁）
次に方便品の疑難に至っては汝未だ法門の立破を弁ぜず恣に祖師の添加を蔑如す重科一に非ず罪業上の如し、若し知らんと欲せば以前の如く富山に詣で尤も習学の為宮仕を致す可きなり、抑彼等が為に教訓するに非ず正見に任せて二義を立つ、一には所破の為二には文証を借るなり、初に所破の為とは純一無雑の序分には且く権乗の得果を挙げ廃迹立本の寿量には猶伽耶の近情を明す、此れを以て之を思うに方便講読の元意は只是れ牒破の一段なり、若し所破の為と云わば念仏をも申す可きか等の愚難は誠に四重の興廃に迷い未だ三時の弘経を知らず重畳の狂難鳴呼の至極なり、夫れ諸宗破失の基は天台・伝教の助言にして全く先聖の正意に非ず何ぞ所破の為に読まざるべけんや、経釈の明鏡既に日月の如し天目の暗者邪雲に覆わるる故なり、次に迹の文証を借りて本の実相を顕すなり、此等の深義は聖人の高意にして浅智の覃ぶ所に非ず(正機には将に之を伝うべし)云云。
当流行事抄第五 日寛上人
大覚世尊教えを設くるの元意は一切衆生をして修行せしめんが為なり、修行に二有り所謂正行及び助行なり、宗々殊なりと雖も同じく正助を立て行体各異なり、流々の正助は今論ぜざる所なり、当門所修の二行の中に、初めに助行とは方便寿量の両品を読誦し正行甚深の功徳を助顕す、譬えば灰汁の清水を助け塩酢の米麺の味を助くるが如し・故に助行と言うなり、此の助行の中に亦傍正有り・方便を傍とし寿量を正と為す、是れ則ち遠近親疎の別有るに由る故なり、傍正有りと雖も倶に是れ助行なり、次に正行とは三世諸仏の出世の本懐・法華経二十八品の最要・本門寿量の肝心・文底秘沈の大法・本地難思・境智冥合・久遠元初の自受用身の当体・事の一念三千・無作本有の南無妙法蓮華経是なり、荊渓尊者謂る有り「正助・合行して因って大益を得」云云。
行者応に知るべし・受け難きを受け値い難きに値う、曇華にも超え浮木にも勝れたり、一生空しく過さば万劫必ず悔ゆ・身命を惜しまずして須く信行を励むべし、円頂方袍にして懶惰懈怠の者は是れ我が弟子に非ず・即外道の弟子なり云云、慎しむ可し慎しむ可し勤めよや勤めよや。
末法相応抄第四 日寛上人
問う末法初心の行者に一経の読誦を許すや否や、
答う許すべからざるなり、将に此の義を明さんとするに初に文理を立て次に外難を遮す。
初に文理とは一には正業の題目を妨る故に、四信五品抄十六（六十八）に文九（八十）を引いて云く「初心は縁に紛動せられ正業を修するを妨げんことを畏る直ちに専ら此経を持つ即ち上供養なり事を廃して理を存するは所益弘多なり」云云、直専持此経とは一経に亘るに非ず専ら題目を持ちて余文を雑えず尚一経の読誦を許さず何に況や五度をや已上。
二には末法は折伏の時なるが故に、経に曰く「不専読誦経典・但行礼拝」云云、記（卅一）に云く「不専等とは不読踊を顕す故に不軽を以て詮と為て而して但礼と云う」云云、聖人知三世抄廿八に九云く「日蓮は不軽の跡を紹継す」等云云、開山上人・五人所破抄に云く「今末法の代を迎えて折伏の相を論ずれば一部読誦を専らとせず但五字の題目を唱え諸師の邪義を責むべし」云云、
三には多く此の経の謂を知らざるが故に、一代大意抄十三（廿二）に云く「此の法華経は謂を知らずして習い読む者は但爾前の経の利益なり」云云。深秘の相伝に三重の謂有り云云。
次に外難を遮すとは、
問うて云く日辰が記に云く「蓮祖身延九箇年の間読誦する所の法華経一部手に触るる分、黒白色を分つ十月中旬二日九年読誦の行功を拝見せしむ」云云、此の事如何、
答う人の言謬多し但文理に随わん、天目日向問答記に云く「大聖人一期の行法本迹なり毎日の勤行方便寿量の両品なり御臨終の時亦復爾なり」云云、既に毎日の勤行は但是れ方便寿量の両品なり何ぞ九年一部読誦と云うや、又身延山抄十八初に云く「昼は終日一乗妙典の御法を論談し夜は竟夜要文誦持の声のみす」云云、既に終日竟夜の御所作文に在りて分明なり何ぞ一部読誦と云うや、又佐渡抄十四九に云く「眼に止観法華を曝し口に南無妙法蓮華経と唱うるなり」云云、故に知んぬ並びに説法習学の舒巻に由て方に触手の分有り那ぞ一概に読誦に由ると云わんや、而も復三時の勤行終日竟夜一乗論談・要文誦持・習学口唱の外更に御暇有れば時々或は一品一巻容に之を読誦したもうべし、然りと雖も宗祖は是れ四重の浅深三重の秘法源を窮め底を尽し一代の聖教八宗の章疏膺に服し掌に握る、故に自他の行業自在無碍なること譬えば魚の水に練れ鳥の虚空に翔るが如し故に時々之を行ずと雖も何の妨碍有らんや、而るに那ぞ蓮師を引いて輒く末弟に擬せんや。(以下、外難を遮すの多くの問答は省略す)
三重秘伝抄第一 日寛上人
問う啓蒙の第五（廿八）に云く「未発迹の未の字・本迹一致の証拠なり已に発迹顕本し畢れば迹は即ち是れ本なるが故なり」云云此の義如何、
難じて曰く若し爾らば未顕真実の未の字・権実一致の証拠なりや其の故は已に真実を顕し畢れば権は即ち是れ実なるが故なり。
日講重ねて会して云く権実の例難僻案の至りなり若し必ず一例なるときは則ち宗祖何ぞ予が読む所の迹と名づけて但方便品を誦み予が誦む所の権と名づけて弥陀経を誦まざるや等云云、
今大弐・莞爾として云く此の難太だ非なり、何となれば権実・本迹具に法体に約す故に是れ一例なり、若し其れ読誦は修行に約する故に時に随って同じからず、日講・尚・修行を以て法体に混乱す、況んや三時弘経を知らんや、応に明文を引きて彼が邪謬を顕わすべし云云、……天台・章安・妙楽・蓮祖・並に是れ僻案なりや、日講如何。
又修行に約して若し一例を示さば凡そ蓮祖は是れ末法本門の導師なり故に正には本門・傍には迹門なり、故に予が誦む所の迹と名づけて方便品を誦みたまえり、天台是れ像法迹門の導師なり故に正には法華・傍には爾前なり故に亦弥陀経等を読む、而も亦他人の読誦に異るか「口に権を説くと雖も内心は実法に違わず」云云、豈・予が誦む所の権と名づけて弥陀経を読むに非ずや日講如何。
法 体
およそ仏教には法体と修行との二つがあります。最高唯一の仏教たる日蓮正宗においては、法体は三大秘法の南無妙法蓮華経であります。すなわち、われわれの信仰する御本尊(法体)は、三大秘法の大御本尊、寿量品文底下種の御本尊以外にはありえないのであり、釈迦の出世の本懐といわれる法華経や寿量品でも、腐った御飯のようなもので、絶対にダメなのであります。故に日蓮大聖人は御書に、次のようにお説きになっておられます。
『今末法に入りぬれば余経も法華経もせんなし、但南無妙法蓮華経なるべし……此の南無妙法蓮華経に余事をまじへば・ゆゆしきひが事なり』(上野殿御返返事 一五四六頁）
『小乗経・大乗経並びに法華経は文字はありとも衆生の病の薬となるべからず、所謂病は重し薬はあさし、其の時上行菩薩出現して妙法蓮華経の五字を一閻浮提の一切衆生にさづくべし』(高橋入道殿御返事一四五八頁）
『当品(寿量品)は末法の要法に非ざるか其の故は此の品は在世の脱益なり題目の五字計り当今の下種なり』(御義口伝 七五二頁)
修 行
それでは、なぜ日蓮正宗では朝に晩に役に立たないといわれる方便品・寿量品を読誦するのかといいますと、これは修行のためであり、法体に約するのではないのであります。しかも、この両品読誦には深い意義があります。すなわち、まず日蓮正宗の修行には、正行と助行とがあり、正行として題目を唱え、助行として方便品・寿量品を読踊するのであります。また助行においても寿量品を正とし、方便品を傍とするのであります。あたかも正行は米飯に当り、助行は味噌汁や漬け物が米飯の味を助けるのと同じようなものであります。
○法体(三大秘法の大御本尊)
○修行(自行) 正行(題目)
助行 正(寿量品)
傍（方便品)
○修行(化他) 折伏
正宗と邪宗
しかるに、日蓮正宗以外の邪宗日蓮宗の輩は、法華経二十八品を法体と誤ったり、あるいは二十八品金部を読誦したり、あるいは二十八品を書写したり、あるいは観音品や陀羅尼品を読踊したり、あるいは方便品を読誦してはいけないといったり、あるいは題目を唱えるほかには、方便品も寿量品も読誦してはいけないなどといって、修行の面でも非常に間違った師敵対の大謗法を犯しているのであります。かんたんに考えても、この末法のときに二十八品読誦なんかしていては、もっとも肝心な折伏や題目がおろそかになり、また両品読誦をやめれば御本尊の功徳を助けることができず、いずれも大聖人の仰せに背く大謗法になるのであります。一方、法体については、彼ら邪宗の徒の本尊雑乱の大謗法は、今さらいうまでもないことであります。
先にかかげました日蓮大聖人の御書や、第二祖日興上人等の仰せでもわかるごとく、正行としては題目を唱え、助行として方便品・寿量品を読誦するのが、もっとも正しい修行であり、これ以外には大聖人の仏法の修行はありません。故に日蓮大聖人も御在中は御自ら助行として迹門の肝心たる方便品と本門の肝心たる寿量品を読誦されて勤行なされ、日興上人も朝に晩に方便寿量の両品を助行として読誦されたことは、彼ら邪宗身延派の古い記録(録内啓蒙等にあり)にさえも、のっているのであります。
日蓮大聖人は四菩薩造立抄(御書全集五八九頁)に、厳然と、『日蓮が弟子と云って法華経(御本尊)を修行せん人人は日蓮が如くにし候へ』と御命令になさっておられるのでありますから、われわれも当然、方便品・寿量品のみを読誦すべきであります。しかして、われらが方便品寿量品を読誦するのには甚深の相伝があります。これについて、日寛上人は、当流行事抄や末法相応抄に整然と余すところなくお説きになっておられますから、くわしくは当流行事抄等を拝すべきであります。
方 便 品
方便品を読誦するのは、一には所破のため、二には借文のためであります。この方便品は、いわゆる釈迦の法華経ではなくて日蓮大聖人が『予が読む所の迹門』と仰せられた体内の方便品であります。体内とは顕本已後の迹門をいいます。
所破のためというのは、この体内の方便品といえども、体内の寿量品あるいは御本尊よりは劣る故に破して読むのであります。また借文のためとは、体内の方便品の文を借りて久遠名字の所証の法、すなわち三大秘法の大御本尊のお姿や、功徳を顕すために読むのであります。
寿 量 品
寿量品を読誦するのは、一には所破のため二には所用のためであります。同じ寿量品の一文でも、その顕本には文上顕本と文底顕本の両義があり、文上は五百塵点劫に成道した色相荘厳の釈迦を指し、文底は久遠元初の御本仏即ち日蓮大聖人を示しています。しかし、その文上の寿量品にも体内と体外があり、体外はまだ文底下種御本尊の顕れない寿量品をいい、体内とは顕れた寿量品をいいます。日蓮大聖人のお読みする寿量品として読むときに、文上体内の辺は御本尊より劣る故に所破となり、文底の辺は御本尊を秘し沈むる故に所用となるのであります。
一 級 講 義
このように、われらが朝晩読誦する方便品・寿量品は、釈迦の法華経ではなくて、下種が家の大聖人のお読みする方便品・寿量品であると、正しく拝するのは、相伝家たる日蓮正宗のみであります。しかして、創価学会会長戸田城聖先生は、この方便品・寿量品講義(一級講義)において、いつも日蓮大聖人のお読みになる下種家の法華経の読み方、すなわち大聖人の血脈抄および御義口伝による読み方による講義をされて、天台流の読み方をする謗法を、厳しくいましめておられるのであります。
そして、この方便品・寿量品講義によって、われら学会員に正しい信心のあり方をわかりやすく話され、日蓮大聖人の御正意たる日蓮正宗の御本尊の最高唯一なるゆえんを獅子吼されているのであります。故に、この方便品・寿量品精解は、もちろん会長先生の講義をまとめたものではありますが、はたして会長先生の御講義の御精神を、正しく伝えることができたかどうかを恐れるものであります。
