次の日、俺は母さんを連れて病院に向かった。

 

  コンコン

 

 ドアをノックする。

「はい」

 聞きなれた声に俺はゆっくりとドアを開けた。

武藤は俺を見て少しホッとしたような顔を見せた。

「よっ。おばさんの具合どう?」

「うん、なんとか。あれ?……小日向のお母さん?」

 俺の後ろに立っていた母さんに気付き武藤はうろたえた。

「こんにちは、武藤彩音ちゃん。ちょっと良いかしら?」

「ど、どうぞ」

 緊張したように武藤は部屋の隅に寄った。

 

「小日向君のお母さま?」

 おばさんは慌てて起き上がろうとした。

「あ、どうぞそのままで」

 母さんは駆け寄っておばさんをベッドに寝かせた。

 良かった。おばさん、昨日よりは顔色が良さそうだ。

「小日向です。いつもうちの朔也がお世話になりまして……」

「まあ、違うんです!お世話になっているのはうちの方で……」

 母さん達はお互いに挨拶をし出した。大人の挨拶は堅苦しくってよく分からねえ。しかもやたら長いんだ。

「武藤、行こうぜ」

「え、うん……」

 ちょっと困ったような武藤を連れて談話室に行った。

 

「昨日、遅くなっちゃったもんね。怒られたの?」

 椅子に腰を下ろしながら武藤は心配そうに聞いた。

「ちげーよ。武藤んとこのおばさんが入院してるってうちの母さんに言ったんだ」

「え」

「タイムリープの話はしてねーよ」

「そう」

 武藤はちょっとホッとしたような顔をした。

「うちの母さんがさ『なんでも頼ってください』だって」

「……え」

「だから遠慮すんなよな」

 

「小日向……。……ふ」

 武藤は下を向いた。

「あんたん家って、親子でお人よし……」

 そう言った口は少し緩んでいた。

「あ、笑った」

 俺は思わず指差した。

「何よ」

「笑ったの初めて見た」

「そんな事ないでしょ」

「お前いつもこーんな顔してるから」

 俺は指で自分の目を横に伸ばして見せた。

「もうっ!」

 武藤は俺を叩くマネをした。

「ははは。こえーっ」

 

「彩音ちゃん」

 見ると母さんが立っていた。そして武藤のところに近づいてしゃがんだ。

「お母さん、大変だったわね。困った事があったらおばさんに言ってね?それから今日からご飯はうちに食べにいらっしゃい」

「え。でも……」

 武藤はどうしたら良いか分からないように俺の顔を見た。

 俺は黙って頷いた。

「遠慮しないの。彩音ちゃんまで倒れちゃったらお母さまが心配するわ」

「……あ、ありがとう…ございます」

 母さんの言葉に武藤は泣きそうな顔になった。

 まったく泣いたり怒ったり、笑ったり。忙しいヤツだ。