白滝イト製作日記。 -9ページ目

ホワイトスコア2章<影>④

ホワイトスコア2章<影>④


著:冬兎



何だこれ?…少女の首にはネックレスのようなものが下がっていた。今まで気がつかなかったが、横に寝かせると服の中からころっと出てきたのだ。鎖でつながれ首に巻いてあるが、よく見るとネックレスではない。
―情報記録端末―
ごく一般的に世間で使われているタイプのものだ。もちろん家にあるパソコンに挿入すれば使うことはできるだろう。
「何でこんなものを首に?」
その装飾品は彼女の身なりから浮いていた。服は適当な在り合わせのようなものでサイズもあっておらず、靴替わりにサンダル、しかも片方なくしている状態、その他に身につけているものは何もない。このような情報記録端末を身につける習慣はないし、そんな事をしている人も、そんな事を想定した商品も見た事はない。
小さめの角に丸みを帯びた長方形のボディは金属製で、全体が真っ黒だ。その表面にはSFEの文字と何やら会社のロゴのようなものが刻印されていた。
見た事があるマークだ。SFEの文字は、Sound Factory Enterpriseの略だろう。割と最近できた会社の名前だが、おそらく今ではその名前を知らない人の方が少ないだろう。量販店に行けばその会社の製品がずらりと並んでいるところを目にする事ができるし、一時期はかなりメディアも騒がせた。
とにかく、その名前は今やごく一般的なもので、その製品も珍しいものではない。
もしかしたら何かこの少女の手がかりが掴めるかもしれない。そう思い、少女を起こさないようにそっとそれを外した。よほど疲れていたのか、よく寝ているようで全く起きる様子はない。
できるだけ音は立てないように布団をかけ、部屋の隅にあるパソコンの前に移動する。電源ボタンを押し起動させると、その端末をぐっと差し込んだ。


    *****


SFE、サウンドファクトリーエンタープライズ本社の地下にある社長のプライベートフロア。普段からここで生活しているため、大抵のものは揃っている。
その一室にあるベットに男は寝かされていた。
東雲 司(しののめ つかさ)、この会社の研究員の一人だ。大柄な体に特徴的なのが真っ白な髪の毛だ。それは年齢からのものでもなく、脱色したわけでもない。日本人には珍しいが昔からずっとそうなのだ。顔は能面のように表情が無く、瞳だけを右へ左へと動かして周りを見ている。
「どうだ?そろそろ体は動かせそうか?」
その声は部屋の主である水浅葱からのものだ。部屋のドアを開けて入ってきたようだ。ドアを閉める音が続く。
「あぁ…」
東雲は無愛想に答えるとゆっくりと体を起こした。
「聞きたいことは山ほどあるが、まずは何か口に入れろ、話はそれからだ」
ベットの横にあるサイドテーブルの上に、皮をむかれた果物が盛られた皿と水の入ったコップを置いた。
「消化器官も弱っているだろうからな、水分の多いものを用意したよ。食べられそうか?」
「あぁ…」
相変わらず表情は変わらずに無愛想に答える。
「なぜ僕はここに?」
「うるさい。話なら立ちあがってこっちまで来られてからだ。まずはその体をどうにかしろ。」
彼女は早口にそれだけ言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。
地下なので外の様子は分からないが、部屋のデジタル時計は午前5時を表示していた。その時計では日にちまでは分からず、どれくらいの時間が経ち今に至っているのかは分からなかった。
なんにしても急がないといけないかもしれない。ゆっくりと水の入ったコップを手に取り、水を少し口に含む。体は重く、たったそれだけの動作で非常につらい。二口三口とゆっくり水を飲んでから、なおゆっくりと果物に手を伸ばした。