白滝イト製作日記。 -6ページ目

ホワイトスコア2章<影>⑤

ホワイトスコア2章<影>⑤


著:冬兎



窓から見える空は白み始め、鳥も鳴き出していた。
午前5時、結局あの後、記憶端末に入っていたものを読み終えるのに、ここまでかかってしまった。
パソコンにさした記憶端末のフォルダを開くと、とんでもない量の文書類が出てきた。とてもじゃないが、真面目に読み切ると二日三日かかりそうなため、ざっと流して大切そうな所だけをピックアップして読んだ。それでも夜はあけてしまったわけだが。
「ウソだろ…」
とても驚きを隠せずそれだけをつぶやいた。
文章の内容はかなり専門的で理解できない部分も多数あった。しかし概要だけはなんとなくつかむ事が出来た。それによると、昨夜街を彷徨っていた少女は、普通の人間ではないらしい。
試験体コードT-110E、発声・声学用プログラムのためにつくられた人工生命。基本的には人間と同じらしいが、色々と違う部分もあるらしい、そのあたりは専門的でよく分からなかった。
彼女が普通の人間とは少し違う事、緊急の事情により管理者が手放さなければいけなくなった事、少女の事はできるだけ表沙汰にせずかくまって欲しい事、その三点は他の文書とは別の場所に簡単に書いて保存されていた。
「そんなバカな、どうしろってんだよ…」
もう、どうすればいいのか分からない。今日起きて警察に届けて解決。そうなる予定だったが、そうはいかないらしい。匿えったって、どうにも…。普通にこの家に置いておけばいいのか?いいわけがない。
とはいえ、この文章の内容が本当に彼女に当てはまるのか、果てはこの文章の言っている事は真実なのかが分からない。もしかしたら真っ赤な嘘かも知れないし、常識的に考えてそのほうが妥当だ。しかし、もしそれが本当だとするなら…、そんなことが大っぴらになれば大変なことになるだろう。
この文書を無視して警察に届けるのは簡単だ。文書がうそなら、無事親が見つかるかもしれないし、何かしらの解決がつくだろう。しかし、もしこれが本当だったら? 引き渡した少女が調べられ、この内容がばれたらどうなる? これを作った人は? この国は? そして、この少女は?
どう考えてもハッピーエンドになるとは思えない。無視するのは簡単だが、もしもの場合のリスクがあまりにも高すぎる。
もう少し様子を見たほうがいいかもしれない。
当の少女はまだ布団の中で眠っている。起きてくる様子はない。


    *****


光と影
黒と白が混ざっていく
光の中に影が落とされ
影の裏を光が照らす

見た事のない世界に
見た事もないものが出来上がっていく

影を落として音が響いた


 キミハ ダレ