私はスナック経営を夢見て、20年勤めていた会社を退社し、水商売で修行後、会社員時代の退職金を元手にスナックを開業しました。
しかし結局は羽陽曲折ありまして、一年半で店を潰してしまう事になってしまいました。
このブログは、元々はこれからスナック経営者を志す人の役に立てればと、2CHの「脱サラしてスナック開業したい予定です。」 というスレッドに体験記を書き込んでいたのですが、どうしても当時の記憶を、趣味である下手な鉛筆画を添えて見てもらいたくなり、ブログを開設した次第です。
これから水商売に挑戦したいという方は是非参考にしていただければと思います。
ちなみに数年以上前の体験談ですから問題ないかとは思いますが、実名や実源氏名で書くのは少し気が引けるので 、登場してくる人はすべて実際の名前とは違う「仮名」にしていますが悪しからずです。
ちなみにもう書き終わっている分につきましては、ヒマがあるたび随時イラストを描き足していきたいと思います。
感想とか書き込んで下さるとすごく嬉しいです。
山ちゃんの恋 その12
翌日店に出勤したホステス達に、事の顛末を話した。
一人くらい山ちゃんを罵倒する人がいてもいいようなものだが、
同情する人こそいれ、山ちゃんを責める人はなぜか一人もいなかった。
やはり何だかんだ言ってもみんな山ちゃんが好きだったのだろう。
肝心のミカちゃんも
「山ちゃん…もう会えないんですね」
となぜか少し寂しそうだった。
山ちゃんがした事はとても褒められた事ではない。
しかし山ちゃん一人を責める事が出来るのだろうか。
誰が人を好きになる気持ちを抑える事ができるのだろうか。
山ちゃんは最後まで、ミカちゃんへの恋愛感情でした行動ではないと言い張っていた。
でもいくつになっても、恋は突然やってくるのだ。
山ちゃんはけっして認めよとはしないだろう。
しかしいびつで不恰好な形であったが、それはまぎれもなく恋だったんだと思う。
そして今、山ちゃんの恋が終わりを告げたのだ。
その後山ちゃんは、二度と私達の前に姿を表す事はなかった。
山ちゃんがいつも座っていた隅のカウンターの席には、今は違う客が座っている。
でもそれからも、たまに平日の客の入りが悪い時、ついその席の方を見てしまう事があった。
しかしその席にもう、店の盛り上げ役だった山ちゃんはいないのだ。
ミカちゃんもその後元気を取り戻し、結局その後うち店で1~2位を争うほどの人気ホステスになってくれた。
山ちゃんもその姿を見たら、きっと喜んでくれた事だろう。
山ちゃんの恋 その11
山ちゃんは黙ってうなだれたまま、下を向き続けていた。
私は山ちゃんを問い詰めるのがあまりに不憫で、しばらく声をかけられないでいた。
しかしこのままいつまでも二人で黙り続ける訳にはいかない。
私は思い切って言った。
「無言電話は山ちゃんが犯人だと思ってもいいんだね?」
山ちゃんはしばらく考えるような表情をした後、黙って頷いた。
「何でそんな事を…」
そんな事を聞いても意味がない事はわかっていたし、もう答えは出ているかもしれない事なのだが、私はそう聞かずにはいられなかった。
山ちゃんは目に涙を浮かべながら、かすれそうな小さな声で話し出した。
その声は、いつも元気で明るい山ちゃんの声からは想像できないような声だった。
「今さらこんな事を言っても信じてもらえないかもしれないけど、本当にミカを傷つけてやろうなんて、これっぽっちも思ってなかったんだ…。
本当に俺は男と女の関係とかじゃなくて、親みたいな気持ちでミカを見ていたんだよ…。
きっかけは二ヶ月前にミカに店が混んでないか電話した時さ。
その時偶然電話口から年配の客でミカをからかうような声が聞こえたんだ。
するとミカは嬉しそうにじゃれるような声で、その客に受け答えをしてた。
その時からさ、俺が無言電話をはじめたのは。
ミカもその客が好きってんじゃなくて、仕事でじゃれてるってのは頭ではわかってるんだ。
でもミカが俺と同世代みたいな奴に、甘えてる姿を想像するといてもたってもいられなくなっちまったんだ。
俺だって毎日店に行くわけにはいかねぇ。
いや…そんな事すれば逆に気持ち悪く思われちまう…。
でもミカが他の客と楽しくやってる、そう考えるでけで何にも手につかなくなっちまった。
せめてその時少しでもいいから、俺の事を思い出して欲しい。
電話ででもいいから少しでも関わっていてぇ…。
そう考えて電話しようとも思ったんだが、ホステスと客ってだけの関係じゃ、電話する口実なんてそうそうありゃしない。
それで無言電話しちまった… なぁマスター…最低だろ?」
「山ちゃん…」
私はそれ以上声が出てこなかった。
犯人が山ちゃんだという事が確定しても、私は怒りの気持ちが全く沸いてこなかった。
それどころか私は山ちゃんが不憫で不憫で仕方なくて、涙が溢れそうになっていた。
山ちゃんは話を続けた。
「最初は俺も無言電話なんて意味ねぇと思ってたんだ…。
だけど一度限りって自分で決めて、試しに一度かけてみると、そわそわした気持ちが妙に落ち着くんだよ。
なんか電話の向こうにミカがいるって思うだけで、なんかこう救われた気がしたんだ。
それからは一度が二度、二度が四度と増えていって、もう自分ではどうしようもなくなっちまった。
気持ち悪い奴だと思うかも知れないけど、これだけは信じて欲しい…。
俺はミカに愛だとか恋を求めてたって訳じゃないんだ。
ただ自分でもどうしようもなく、おかしくなっちまってたんだよ…」
私は何も言う事ができなかった。
それからしばらく、私と山ちゃんは涙を浮かべながらただ下を向いていた。
やがて山ちゃんが落ち着いた声で私に言った。
「マスター…俺がミカにとりかえしのつかないヒドイ事をしちまったのはわかってる。
でも俺がもう二度とあの店の人達に近づかないって事を条件に、
今回だけは見逃してもらえねぇかな?」
見逃すも何もなかった。私はすでに山ちゃんを責める気持ちなど完全に消え失せていた。
私はただ涙を浮かべながら、首を縦にブンブンと振るしかなかった。
いつのまにか山ちゃんの表情は、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
「マスターには世話ばかり、かけちまったなぁ…」
そう言うと山ちゃんは自分の飲み代として五千円を机に置いて立ち上がり、部屋を出て行った。
私は喉の奥から湧き上がってくる言葉を必死で飲み込んでいた。
この時
「もういいんだよ山ちゃん、済んだ事は忘れてまた店においでよ」
と言えたらばどんなに楽だったろうか。
だけど私は経営者として、店の女の子を苦しめた客を、再び呼び戻すわけにはいかなかった。
そしてもしも山ちゃんが最初から嫌なやつだったら、私の心はどんなに楽だったろうか…。
しかし私はこの心の痛みに耐えるしかない。
だって山ちゃんは本当にいい奴だったのだから。
山ちゃんの恋 その10
私は怒りに震える山ちゃんとは逆に、どんどん自分の心が冷たくなっていくのを感じていた。
「山ちゃん…その事だけじゃないんだ 山ちゃんの最近の店での態度に、ミカちゃんは心を痛めてるんだよ。
ミカちゃんは山ちゃんの事が好きだからなおさら辛いんだ。
最近の山ちゃんはミカちゃんにのめり込み過ぎてるよ… この前のプレゼントにしたってさ…」
私はそう言うと自分のリュックから、ミカちゃんから預かったシャネルのバックを取り出しテーブルの上に乗せた。
そのバックを見て山ちゃんの怒りはピークを迎えてしまったようだ。
山ちゃんはテーブルの上のバックをつかむと
「俺のプレゼントは受け取る価値もないってのか!!!!!」
と怒鳴り、私の頭に投げつけた。
私はそうされても、少しもひるまずに山ちゃんの目を黙ってジッと見つめた。
山ちゃんも負けずに私を睨み返し、私と山ちゃんはしばらくの間、黙って睨みあい続けていた。
店のムードメーカーになってくれた山ちゃん、ホステスの面倒見のよかった山ちゃん、一緒にスナック論を語りあった山ちゃん。
いろんな山ちゃんとの思い出が頭に浮かんだが、そのありったけの思いを込めて、さらに強く私は山ちゃんの目をみつめた。
そして最初に目線をそらしたのは山ちゃんだった。
山ちゃんは下を向きながら力なく言った。
「マスター…何で俺なのさ そりゃ最近俺は少しばかりミカに入れ込み過ぎてたよ。
それに無言電話の事調べて俺の事を怪しく思ったのもわかる。
でも俺がそんな事する奴に見えるの?
店の客が犯人じゃない可能性だって、いくらでもあるんじゃないのさ」
私は力なく呟く山ちゃんに、これ以上辛い事をいうのは本当に心苦しかった。
しかしここまできて、引き返すわけにはいかない。
「山ちゃん…何度でも言うよ。
もし俺の言う事が間違っていたら、土下座でも何でもする バットで叩きのめしてくれたってかまわない。
でも今このままじゃ、ミカちゃんは無言電話が原因で、いつ心の病にかかってもおかしくない状態なんだ
無言電話くらいじゃ警察はまず動かないと思う。
けどもしミカちゃんが心の病で、病院から診断書もらうような事になれば話は別だよ。
警察も傷害事件として本気で捜査するかもしれないし、そうなったら電話会社に照合かけて、もし山ちゃんが一度でも自分の携帯や自宅の電話で無言電話をかけていたとしたら、あっという間に電話元なんて割れちゃうんだよ。
山ちゃん…俺自分の店の常連さんから、逮捕者なんて出したくないんだよ。
特にお世話になってる山ちゃんが逮捕されるなんてなおさらイヤだ。
山ちゃん… もし山ちゃんが犯人なら、そうなる前にお願いだから本当の事を言ってよ」
私の言葉を聞くと、今まで真っ赤だった山ちゃんの顔は、みるみる青くなっていった。
山ちゃんはヘナヘナとその場に座り込み呟いた。
「心の病… 俺…そんなつもりじゃなかったんだよ…」



