三浦哲郎の「てざわり」(『ふなうた』収録)に

「金癖をとる」

という文が、存在する

金玉をどちらにおさめるか、仕立屋は、ズボンの寸法をとるときに、
たくみに手の甲で、その金癖を判断せねばならない

1センチ5ミリ、金癖のあるほうに余裕を持たすのである

「てざわり」は、
金癖をとる達人が、どうしても金癖が分からない客を相手にしたときの
苦悩の物語だ

また、約99%の人が、左癖である、とも書かれている

今日、花田清輝の「伊勢氏家訓」(『室町小説集』収録)を読んだ


「男性のほうは、左の睾丸が、右のそれよりも、やや低く垂れ下がっているので」


の文に逢着したとき、
神聖喜劇の「金玉問答」、「てざわり」が、
反射的に、頭に浮かんだ


電撃が走ったようだった


思うに、
軍隊は、人の出入りがはげしく、当然、
そこで支給される軍服の回転も早かったのだろう

軍服は、1%の右癖を無視して、
100%、左癖に仕立ててあるにちがいない

金玉規定のあの一節には、意味があった

1%の右癖軍人に対する命令だったのだ



『室町小説集』は、ひさびさに時間を忘れて読めた本でした

花田清輝祭までに、「小説平家」と「ものみな」は
読了しときたい

歴史小説は、いい

本当におもしろかった


そんなぼくの、宇宙最高の歴史小説(時代小説)は

戸部新十郎の「服部半蔵」(全十巻)

です


川光俊哉