「ねぇ月野君――。今、一番知りたいことは何?」

 手を引かれるがままにヴェロニカに付いてきた陽向は、突然立ち止まって振り向いたヴェロニカを思わず見上げた。

「今はもう・・私は月野君の質問に答えなければならない。あなたが知りたいと思う如何なる事も隠すことはできない」

 少しうつむいて、ヴェロニカは続ける。

「そのかわり、君はもう戻ることはできないの」

「戻る・・?」

「この日常に、よ。ここから先は本当に重要な事なの。それこそ、一般人が知ってたらマズイこと。だから、知ってしまえばもう、君は組織から逃げるしかないのだけれど・・それでも君は私に問うの?・・月野君」

 視界が、ゆがむ。

 ぐるぐると回る頭の中は、とうに冷静な思考を停止させている。

「逃げる・・か」

 陽向は呟き、自嘲的に笑う。

「もう、良いよ。逃げるとか、そういうの。元々俺は、姉ちゃんがいなくなったら独りだし。知りたいことはたくさんあるけど・・別に、この生活を失いたくないわけじゃない」

 真っ直ぐにヴェロニカのその蒼い瞳を見据え、陽向は言う。

「健介とか結衣には悪いと思うけど、今の俺には姉ちゃんや・・神椥の方が大事なんだ。家族の事もなんだけどさ・・いつも俺から大事なものを奪うのが組織だったのなら、俺は全部捨ててでも取り返しに行きたい。俺の大事なものなんだからな」

「・・・。」

 一瞬目を伏せ、意を決したようにヴェロニカは陽向の手をとった。

「なら、いいわ。話してあげる。・・さ、行きましょ。ここで話すわけにはいかない」

 そう言って、職員用の駐車場に向かう2人に、もう迷いはなかった。

 ヴェロニカはまた、今の話を影で聞いているものがいるのに気付いていながら、見せつけるようにその場を去った。

 ――胸の内に、誓いを掲げて。


(ねぇ、晶子さん。あなたの息子はすごく立派に育ちましたよ?見てますか?・・今度は私が約束を果たす番ですよね)