私は小鳥遊明莉(タカナシアカリ)一人息子の優斗を事故で亡くし、夫の靖文を病気で亡くした。
引きこもりになりそうな私を心配して、夫の友人の四月朔日友哉(ワタヌキユウヤ)さんがカフェうつせみとシェアハウスうつせみをオープンさせてくれた。
まあ夫が生前に計画していた事らしいけどね。
おかげさまで私は引きこもりになる暇もなく毎日忙しく過ごしている。うつせみの住人達は本当に良い人が集まってくれたと思う。
その彼女達が今日のランチの時の出来事を話しているようだ。
「マジむかつくよね」
結紘が2本目のビールを開けながら言う。
「きっと紫(ユカリ)さんがデマを流しているんだと思います」
深い溜め息を吐く愛唯。
今日のランチの時間、いつもならカフェうつせみに来る結紘と拓司だが、友哉さんが急な用事で臨時休業なので社食に顔を出すと、後ろの席の事務員達の会話が聞こえてきた。
「ねぇ知ってる?あのカフェうつせみのマスターとシェアハウスのオーナーが略奪婚だって」
「え~っ!それ本当?」
いや!違うわ!結紘は心の中で突っ込みを入れていた。
「確かシェアハウスのオーナーの息子って紫さんを突き飛ばして怪我させたんだよね?」
は?!ちがっ…結紘が反論しようとする前に愛唯がテーブルをバン!と叩いて立ち上がり怒りをあらわにした。
「ふざけないで!誰が突き飛ばしたって!?あれは紫さんが赤信号を無視して横断歩道を渡ったから!…優斗は庇って…なのに…何も知らないくせに!優斗を悪く言うな!」
愛唯の勢いに事務員達はアワアワと顔を見合わせている。
「そうだね、何も知らない連中が間違った情報を流すのはいかがなものかしら?」
結紘も事務員達の傍に仁王立ちして睨んだ。
「ご、ごめんなさい」
項垂れて小さな声で謝る事務員達だった。
「因みにカフェうつせみのマスターは私の父だって知っているかしら?」
結紘が意地悪そうに言うと
「ヒッ」
事務員達は冷や汗を流している。
その様子を見ていた拓司は内心こ、怖いとビクついていたのだ。
「誰が流したデマか想像つくけど、父と明莉さんはあくまでもビジネスパートナー。それと父と母は円満離婚よ!あっ!もしかして貴女達知らないの?明莉さんの事?」
きょとんとしている事務員達。
「作家のAkaRi知っているよね?彼女がそうよ」
「AkaRiって…う、嘘!あ、あの大ヒットした映画キミ僕の?作者の?!」
鳩が豆鉄砲食らったような表情で目を丸くしている事務員達。
「そうよ、色々な噂を流す人が居るようだけど、本当の事を何も知らないで信じるのはどうかな?それで傷付く人もいるよ。愛唯ちゃんみたいにね。優斗くんと愛唯ちゃんは恋人だったんだよね、目の前で大切な人が…わかってあげなよ」
そう、愛唯の目の前で優斗は紫と息子の樹希を庇って車に轢かれた。今でもあの時の悲しみは癒える事はない。
続く。