兄(にいに)があの男性が置いていった手紙を読もうとしないので、私はふざけて声を出して読み始めた。「佳紀くんへ。この手紙を佳紀くんが読む頃に私はもうこの世には存在していないでしょう。何も伝えずにいる事ごめんなさい…」
言葉が出なかった。勝手にふざけて手紙を読んだ事を後悔した。
体が震えて涙が溢れて止まらない。
突然泣き出した私をカウンター席の隅で見ていた折辺りさが、私の手の中から手紙をそっと取り読み始める。眼鏡の奥のりさの涼しげな瞳が大きく揺れている。
彼女、折辺りさは私が片想いしている七瀬友也(ナナセトモヤ)の恋人。肩までのストレートな黒い髪。物静かな印象のりさを友也は好きなのね。それに比べて私は…髪の毛だって茶色でくせ毛で、いつも騒がしくして…敵うわけないよね。
「来いよ」
りさが私の腕を取ると凄い力で引っ張っていく。っていうか い、今、何て言った?!
「り、りささん、ちょっと待って!」
「ごめん!!俺」
お、俺?!戸惑う私の前でりさが眼鏡とカツラを取った。そこに居たのは友也の親友の折辺楓(オリベカエデ)だった。