沢口えり菜は都内のファミレスに居た。誰もえり菜に気付く者はいない。

「昨日観たぁ?睦人のドラマ凄かったよな!」

えり菜の後の席で興奮気味に話すひとりの青年。

「観た観たぁ!あの女優さん凄いよね!しのっていうんだっけ?!」

「思わず俺テレビに釘付けになっちゃったよ!」

「最低~」

「え~そんなぁ」

「でもさあの役えり菜には無理だったよね?」

「それは言えてるかもね~」

「え?何で?」

「男には分かんないかもねえり菜は確かに可愛くてスタイルが良いけどプライドが高くて傲慢で有名だったのよね~あのドラマ降りた理由だって監督に振られた腹いせだって噂だしキープ君と思ってた直哉のも振られて業界からもソッポ向かれちゃってもうおしまいよね」

「あぁ直哉は何も知らないうちにえり菜に利用されてでも上手く切り返したよな?謝罪の記者会見で本命にポロポーズして結婚」

「あれで直哉は一気にスターの道を昇り今や飛ぶ鳥も落とす勢いってやつ?」

「しのって女優を見いだした睦人も監督も引っ張りだこじゃない?知ってたしのさんの写真を待ち受けにすると願いが叶うって有名なんだよ」

「へぇそうなんだ~俺もしのを待ち画にしよう」

後の男女のグループの会話にえり菜は凍りついた。誰も私に気付かないままで誰ひとり私を探しに来てもくれない。何度も何度も仕事に穴を開けも世間が私を必要にしてくれたから…私はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろう今更なのかも知れない。

つづく