怜は美弥と映画を観に来ていた。
「今日はありがとう」
「俺の方こそ今日は楽しかったありがとう」
本当に楽しかった。こんな気持ちは久しぶりだった。美弥はバックの中から小さな包みを取り出し怜に差し出す。
「これ」
「?」
「誕生日おめでとう!」
「え?!」
「寺本さん今日誕生日ですよね?」
「ありがとう。知ってくれてたんだ」
心が温かくなる感じがして不思議と後ろめたさもなかったのだ。美弥の笑顔に何か癒されると怜は感じた。美弥は美人という訳でも特別可愛いという訳でもない。タレントで言えばアジアンの馬場園似。細やかな気遣いが出来る女性。
美弥を家まで送り届けた帰り道怜は美弥が働いている飲食店の店主の話を思い出していた。
「美弥ちゃんは本当にイイ子なんだよ。旦那さんを亡くしてから笑顔が消えちゃってさ…早くイイ人が現われてもう一度あの笑顔を取り戻して欲しいんだよね」
美弥さんは笑うことを忘れた…でも今日の美弥さんは少しだけ笑ってくれた。俺にできることはあるんだろうか?美弥さんの笑顔を取り戻したいそんな思いが強くなっていった。
「ただいま」
「お帰りなさい。遅かったのね…睦も広海も待ちくたびれて寝てしまったわ」
「そう」
「そうってあなた…睦も広海もあなたの誕生日をお祝いするんだって楽しみに待っていたのよ」
「…ごめん疲れているんだ」
すれ違っていく心。子供達を愛していないわけじゃない。でも…今の妻とは向き合うことが出来ない自分がいるのも事実だった。
つづく。