神奈月に入って漸く秋の季節を感じるこの頃、皆様如何お過ごしでいらっしゃいますか?ここ数日は雨の降る日が多いようで暫くは外出の際は傘が手放せなくなりそうですね。それにしても最近の気候は、大昔、私が幼かった頃と比較すると、大きく変わった様な気が致します。この時期に関して言えば、ここ数年は9月後半も真夏のような蒸し暑さが続いた後、10月に入り秋がやってきたと喜ぶのも束の間、11月には突然真冬の様な寒さが襲ってきたりと、まるで海外で生活しているような季節感と言いますか…温暖化は確実にこの国の風土を蝕んでいるようで…とても悲しい気持ちになります。しかし、この国の風土が移り逝く時代と共に変化しても、過去の時代に身を削って作品を生み出した芸術家の作品は決して変化する事無く、今でも息衝いている…。再現芸術に携わる私にとってそんな過去の作品と向き合う事は、過去の人達と対話するような感覚と言いますか、そんな感覚になった時こそ、私にとっての至福の瞬間でもあります。

明治~大正~昭和時代にかけては、現代には無いこの国の良き風土が有ったと思いますし、人々が季節の移り変わりを心から感じていたのではと思います。そんな時代に生み出された数多くの文芸、音楽も四季それぞれの美しさを生かし表現されておりました。という訳で今回は今の季節に合わせて「日本の秋の歌」をテーマに、私なりに綴っていこうと思います。

所で皆様は「日本の秋の歌」と言えばどんな歌を思い浮かべますか?中田喜直作曲の「小さい秋みつけた」や、末広恭雄作曲「秋の子」、海沼實作曲「里の秋」、小林秀雄作曲「まっかな秋」「落葉松」等、色々有ると思います。因みに私にとっての秋の歌と言えば、大正時代に活躍した詩人、立原道造の「暁と夕の詩」の第二作に収められている、やがて秋が~という出だしから始まる詩に作曲された加藤邦宏さんの歌曲を思い出します。

私は立原道造の詩の世界観が大好でしたし、特に「やがて秋」は秋という季節の中に自分自身の悲哀を投影しているというか、特に締めのフレーズ「ふたたび或る夕暮れに…」という言葉は、初めてこの詩を読んだ際、余りのセンスの良さに感極まって涙がこぼれてしまった位でした。

まさかこの素敵な詩を後年私が歌わせて頂くことになるなんて、その時は全く想像もしませんでしたが、大学時代に知り合った友人で、現在オフィス・マキナの代表取締役社長、加藤牧菜さんを通して、彼女のお父様で作曲家、加藤邦宏さんとお知り合いになり、加藤さんの作曲された数多くの歌曲作品を歌わせて頂いた中の1曲にこの「やがて秋」が有りました。そしてこの歌は5年前、代々木上原にある「ムジカーザ」というホールにて「加藤邦宏作品演奏会Vol.3~落葉林で」と題されたコンサートでも歌わせて頂きました。その時の録音を先日久しぶりに聴きましたが、改めて曲の良さを感じましたので、この歌が、もっと多くの方に歌われることを心から願い、思い切ってYouTubeにUp致しました。因みに画像の写真はある日の帰宅時に私が撮影した夕日の写真を使用しました。この歌が皆様の心の新たな「秋の歌」になれれば幸いです。