ゆらゆら。
揺れているのは船か、はたまた自分か。
ふと漂う波の薄暗い隙間から白い肌が見え、まさか噂に聞く妖という奴だろうか?
浮遊感に任せながらそれを掴もうと手を伸ばしたが――。
触れたのは、ただの冷たい水だった。
確かに今白い肌の・・・
「まさか下に何か沈んで・・・」
しかし、ヨンの後ろから波間を覗く様に見ている顔が映りヨンは顔を上げ振り返る。
「あぁ何だ、メヒか」
メヒが持っている灯篭で彼女の顔が暗闇にぼんやり現れ、その顔が波間に映りこんだのだと思い漸くヨンは身体を起こした。
小舟の上から見た波には高い場所から二人を見下ろす月が浮かんでいる。
「月の光が映っているわ」
「・・・寒くなってきたな」
「そう?」
「そもそも何でこんな場所に来たんだ?」
するとメヒはフフッと笑い二人しかいないというのに微かに声を低く落とし話し出した。
どうやらこの小さい湖は漢江に繋がっており、そのまま下流に流れれば漢江に出るという。だったら最初からそこに向かえば良い事だとヨンが文句を言うと、メヒはそうでは無いと言葉を続けた。
「任務中に教えて貰ったんだ、この湖には天女伝説があるんだって」
「・・・はあ、天女・・・」
「ある日天女が満月の夜天から降りて来た。それを見た男は最初は恐怖したが、毎回満月の夜にその天女は降りて来る。この湖で水浴びをする姿に魅了されとうとう男は天女の前に出てしまった。だが、天から来た天女は警戒どころか知らない人間に興味を持ち話しかけて来て男は喜び自分の事、村の事、この土地の話をした。天女は自分が住む天とは違う何かに少なからず興味を持ったのか、男の勧めで屋敷に連れて行って貰う事にした」
「・・・・・で、続きは?」
しかし、メヒはチラリとヨンを見てその視線を波に向けてしまう。
「・・・私は思うの。男に正妻がいたとしてもこの世で見た事もない美しい女人だとしたら・・・」
その言葉にヨンは、は、と鼻で笑う。
「どうかな、そんなのはその人間の本質の問題だと思うが」
いいからその続きは?と促すヨンにメヒは肩を竦め息を吐いた。
「何回か屋敷に招くうちに男はその天女を帰したくなくなり、自分の妻にならないか?と婚姻を申し込んだ」
「まったく・・・」
――やはりこの男もそうなのか。
ヨンもため息を吐き出す。
「ところが、天女が言った言葉は、“私には想い人がいます”だった」
「天にか?そうか、天に男もいるか」
「それを聞いた男は激怒し、何と天女を座敷牢に閉じ込めてしまった」
「は?」
「男の屋敷に正妻もいるのに、付いて来たという事は半分は天女も了承してくれていたと勘違いしていたんだと思う。それと使用人や正妻も天女を見ているのに拒否され面子を潰されたとなったんだと・・・」
「くだらない」
所詮男も自分の見栄と面子が大事だった。
天女だと浮かれながら手に入れようという思惑を抱いていたに違いない。
しかし、ヨンはふと何かに気付き待てと話を止めた。
「天女は幾度か天を行ったり来たりしている筈だ。どうやって来ていたんだ?」
「実は湖の近くに何かを祀る御堂があったみたいなの、そこから天女は現れていたらしいけど」
その説明にまだ納得出来ていないヨンは眉を顰めていたが、そんな彼を無視しメヒは話出す。
「怒った男は閉じ込めている間に御堂ごと壊してしまった」
「罰当たりな」
「そして、その御堂は壊され、沈められたのが・・・」
メヒは言葉を止め、視線を波に向けた。
ヨンもまた視線を舟の外に向ける。
「戻れなくなった天女は泣く泣く男の妻になったのだけど、それからその屋敷に異変が起きた」
使用人の具合が悪くなり、生業の商業が上手くいかなくなった。
男の体調も悪い。
決定的だったのは正妻の子供が病で亡くなってしまった。
正妻は、「この女は疫病神だ、妖だ」と罵る様になってしまい、体調が悪い男はそれを窘める事さえ出来ない。
そして、遂には――。
次の日、湖から一人の女人の亡骸が上がった。
「まさか・・・」
「その女人は何故か正妻だったの」
「え?、・・?」
「でも、その日から天女の姿も消えてしまった。使用人が言うには正妻が天女を湖まで連れて行ったのは見ていたが、誰も戻って来ていない・・・それからよ、湖から女人の悲しい声が聞こえるとか引き摺り込もうとしたりするとか噂があるのは・・・」
――今も天女は水の底に・・・。
では、先程の白い何かはまさか消えた天女なのだろうか?
いいや、そんな馬鹿な。
ヨンはもう一度波を見た。
暗闇の中でも月の光に反射した波だけがゆらゆらと動いている。
「・・・“男が天女を見なければ良かったのかしら”?それとも“降りて来た天女が悪いのかしら?”」
ぼそりとメヒが呟いたが、
ヨンは黙ったまま暫く漂う波を眺めているだけだった――。
あれは何処の村の湖だっただろう?
まだ赤月隊に入った頃だったが、確か漢江に流れる水流だった。
何故、俺とメヒはそんな小舟に乗る事になったのか。
それさえも既に記憶に無いのに、何故かその話だけは覚えていた。
違うな。
何かに似ているからだ。
ヨンは振動の度に腹に響く激痛を耐えながら、開京に向かう隊列の先頭をチュホンに跨り進んでいた。
――少し、メヒに近付いたと思ったのだが、またこの世に留まってしまった。
大丈夫だ、メヒ。
俺はお前を“忘れない”。
俺は“誰も見ない”。
その話は男が馬鹿だからだ。
俺には“メヒ”だけだ。
開京に着いたら役目を終える。
俺はもう誰も守らない。
②に続く
△△△△△△
あ、意外と短いな。
この世界線も誰かがいない世界🙂
誰やろ・・・
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